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2024年06月02日11:09

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映画『落下の解剖学』

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『落下の解剖学』(フランス)
ドイツ人のサンドラ(ザンドラ・ヒュラー)はフランス人の夫サミュエル(サミュエル・タイス)と視覚障害の息子ダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)の3人でフランスの山荘で暮らす。彼女はベストセラー作家なのに対し、同じく作家を志すサミュエルは執筆に苦労している。事故によるダニエルの失明は夫婦のトラウマであり、この山荘に引っ越したのもそれが原因の様子。サンドラには同性者との浮気疑惑もあるようで、取材にきた若い女性に嫉妬するサミュエルは、上階の部屋から大音量で音楽を流してインタビューを妨害する。サンドラの受け答えもどうにも痴話的な対応なので、痺れを切らして取材女性がインタビューを諦めて帰った直後、サミュエルが山荘の外で頭から血を流して倒れているのが発見される。第一発見者のダニエルが悲鳴を上げてサンドラが直ぐに救急連絡をするが既に彼は死んでいた。
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転落死は事故なのか自殺なのか他殺なのか。前日の夫婦喧嘩が明るみに出ることでサンドラに夫殺しの疑いがかかる。無罪を主張するが真実が何かは法廷での争いとなり、第一容疑者扱いとなった彼女は弁護士である旧友のヴィンセント(スワン・アルロー)を弁護人に立てる。サンドラを含む証言者や検事の推論によって事件の真相は少しずつ明らかになっていくが、それはこの家族の秘密や嘘が露わになることでもあり、サミュエルが録音していた前日の夫婦喧嘩の音声も法廷で暴露される。サンドラはサミュエルを殺したのか?最後に証言台に立ったのは息子のダニエル。彼の言葉が判決の決め手となるのだが・・・
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真相が明確にならないまま判決が確定してエンドロールとなる。裁判中に何度か過去を振り返る映像があるが、これらは全て現実の回想シーンではなく、裁判の証言者の言葉から想像される架空の再現フィルムであるということをジュスティーヌ・トリエ監督は明言する。既にこの世にいないサミュエルの生前の言動と、有能な小説家であり物語を綴ることに長けているサンドラの被告人証言を、どう消化して解釈するのかは百人百様。特に法廷シーンで流される前夜の夫婦喧嘩の録音記録に、傍聴人たちの想像映像として被されていく演出はまさに誘導尋問。更にこれを覆すダニエルの証言に至っては、あれこれと詮索していた事件の真相を払拭する切り札的なカードとなる。彼の証言はサンドラが指示したものではないが、ダニエルの本心である確証も疑わしい。何故ならサンドラとダニエルの母子関係は節々に違和感があり、会話も一方通行でダニエルは明らかに母親を避けている節がある。彼がそういう性格の少年かと思いきや、サミュエルや世話役の女性たちには素直で言葉数も多い。
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視覚障害者が遺体の第一発見者。裁判が進むにつれ、ダニエルは過去の出来事を思い出して証言も変化する。それは自分自身にこれが真実なのだと言い聞かせているようにも見える。この悶々とした後味の作品も珍しいが、それがこの映画の狙いなのも明らかで「何が真実かわからない時は、心で真実を決めるしかない」というヴィンセントの言葉を胸に法廷で証言するダニエルの心境を読み取ることは極めて難しい。
元々から母親サンドラに心を開いていない様子からも、その果てに出した決断と覚悟がこの裁判を決着させるという結末は、11歳の少年に耐えきれる重圧ではないと感じざるを得ない。これからの人生を歩むダニエルと、判決後にヴィンセントとに会うことを優先するサンドラの温度差は、母子関係がこの後どう変化していくのか、少なくともポジティヴな想像は難しい。サンドラが主役であり一見すると彼女の濡れ衣を晴らすのが奔流のようにも感じるが、まったく逆の大きな反骨の流れがあることに気付いた瞬間、この作品は背筋が凍るほどの殺伐とした世界感であることに戦慄する。

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