mixiユーザー(id:4380531)

2023年05月03日00:00

196 view

映画『もっと超越した所へ。』『さかなのこ』

フォト
『もっと超越した所へ。』(日本)
3組の同棲カップルと1組の風俗嬢&客がそれぞれ別個で繰り広げる恋愛依存会話劇。2015年に根本宗子脚本,演出によって公開された同名舞台を山岸聖太監督によって映画化。原作の根本宗子といえば新宿ロフトプラスワンのプログラムでよく目にする名前。洗練された舞台劇の映像化は、まずその臨場感が欠如するという理由1点で面白くするハードルが高いのだが『アルプススタンドのはしの方』ではその課題をカット割りの妙と舞台と同じリアルタイム進行という演出で “舞台より面白い映画” に昇華させていた。
今回もそれに近いスタイルを踏襲するセオリーながら、各カップルの場面を細かく刻んで次々と切り替えるという映像作品ならではの画作りが効果的。

ところが本作、実はそれだけに留まらず、ラストでそれを更にひっくり返して “舞台演出ならではに回帰する” というどんでん返しを映像でやるサプライズが用意されている。これは予想できない秀逸の作劇で、舞台と映画の融合作品に仕上がっているのだ。

ストーリーは女性視点が基本。自分本位に寄生してくるクズ男(宣伝キャッチコピーより)にひっぱり回される人生を、瀬戸際でどう切り開くか=もっと超越した所へ・・・を、コミカル演出を挟みつつ進行。数年ぶりに再会した中学同級生(菊池風磨)と成り行きで同棲してしまう衣装デザイナーの真知子(前田敦子)。お気楽フリーター男(オカモトレイジ)と暮らす寝起きの悪いショップ店員の美和(伊藤万理華)。プライドだけは高い売れない役者の常連客(三浦貴大)と、仕事としてだが真摯に向き合う訳あり風俗嬢の七瀬(黒川芽以)。高級マンションでゲイ(千葉雄大)と同居生活を続けるが、あくまで友人関係でしかない拘りの強い鈴(趣里)。

女性4人の共通ワードとして「米」がプロップされており、それぞれの性格と生活スタイルを表現する手法としてごはんの食べ方が描かれる。前半と後半で同じ食べ方を変わらずにしているだけのに、そこに挟まれたエピソードによって、食べている時の心理がまったく異なっていることになるのが面白い。

好きな男に抱いていく感情の変化と、変わることがない男側の本質とのギャップが、様々なシチュエーションで繰り返し描かれジレンマが限界に近くなっていく。途中でこのカップル達が出会う2年前の過去話にも遡るのだが、そこではこの4組の相手がシャッフルされるという悪戯な仕掛けも用意されている。これらを経てバラバラだった会話劇が、後半に向けてじわじわとシンクロ度が増していくところが真骨頂。

ラストはネタバレになるので表記しないが、後悔をしない選択肢が果たしてこの結末でよかったのか?という疑問符は残ったままなのに、メタ的な勢いの大胆な展開と祭(これも米が伏線)のノリで乗り切ってしまう強引さは賛否が分かれるところ。

やさしい振りをして自己満足しているだけの自分本位の男に、米を持たせることで存在価値を見出そうという比喩は、恋愛に限らず人の気持ちは未来永劫ではないという誰もが知っているはずのことを改めて導き示唆する。男性視点があまりにも短絡的なところに違和感はあるが、本音をさらけ出しながら理解と妥協を共有することこそが人生=超越した所なのだと提唱するラストは暫定的着地をみせる。
フォト
『さかなのこ』(日本)
現代社会で自分が好きなこと “だけ” にまっしぐらに生きることが如何に難しいことか。経験でそれを知ってしまっている我々大人にとって、この映画は刺激的である一方、おとぎ話とも思えてしまう。水族館でクビを宣告する上司も含めて、ミー坊(のん)を取り巻く大人たちは優しくて理解があり過ぎるという感想は、途中で退場してしまうお父さんの浜辺でのタコ虐待描写にすら愛を感じたところからのもの。

ミー坊の好きなもの=魚への向き合い方が変化したのは、あのお父さんの行動がきっかけであったのは明らか。魚を愛しながら締めることができる生き方を得たミー坊に迷いはなくなったのだろう。

その一方で、ギョギョおじさん(さかなクン)を社会不適合者として登場させるという裏技が効いている。空き家となって風化した家屋場面はかなりダークで、果たしてミー坊はさかなクンになれるのか、ギョギョおじさんの道を歩んでしまうのか。この時点ではまだ瀬戸際にいることを痛感させられる。

昨年7月公開の『こちらあみ子』では、あみ子の将来は明るく感じられなかった。ミー坊はあみ子になりかねない崖っぷちから、信念を貫いて好きな人生の道程を切り開く。まだ妥協を知らない純粋な子供たちに観て欲しい映画。

<映画レビューを切通理作さんのメルマガ内にて連載しています>
月2回配信、購読開始から1ヶ月無料
http://yakan-hiko.com/risaku.html
切通理作編集メールマガジン『映画の友よ』
【 料金(税込) 】 660円 / 月
【 発行周期 】 月2回配信
【 最新発行日 】2023年4月30日
映画の友よ Vol.221
<青春、少女、ぬいぐるみ……映画に宿るものとは>
<吉永小百合の中に居る<少女>の再生〜『こんにちは、母さん』>
<『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』『Single8』>
11 4

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2023年05月>
日 月 火 水 木 金 土
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031   

最近の日記

もっと見る