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2023年04月18日00:00

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映画『逆転のトライアングル』

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『逆転のトライアングル』(スウェーデン)
4月10日から長期休館となったBunkamuraル・シネマで鑑賞した最後の作品。『ザ・スクエア 思いやりの聖域』などで、一筋縄ではいかないシニカルな風刺を効かせた作風を毎度繰り広げるリューベン・オストルンド監督。今回もその覚悟を持って鑑賞に挑んだが、それでもその想定の更に上をいく展開に仰天する。

舞台設定は3パートに分かれている。1パート目はプロローグ的で、ファッション業界の“格差”をブラックコメディにした短編。売れない男性モデルのカール(ハリス・ディキンソン)は売れっ子モデル女性のヤヤ(チャールビ・ディーン/本作が遺作)と交際しているが、その夜はディナーの支払いをどちらがするかで痴話げんかとなる。些細なことで倦怠期のカップルにありそうなしょうもない言い争い。だが、仕事に成功できていないカールが高収入のヤヤに対する劣等感を露わにしているところが実に痛々しい。逆ジェンダーロールとも言える滑稽なカールとヤヤのやりとりは、後々の3パート目への伏線にもなっている。

男のプライドを維持することに苦悩するカールが、転じて優位に立つ位置にポジショニングされる逆転劇が後半で待っている。だがこの男はそれすら活かせないダメ男。邦題のみにある“逆転”を解釈できる隠された人間関係が炙り出される展開。これは他にもあってダブルミーニングどころかトリプルミーニングのトライアングルな仕掛けあり。

カールとヤヤが唯一全パートに登場するのだが、その関係性が常に変化していくのが着目点。2パート目はふたりがクルージングツアーに招待参加するところから始まり、豪華客船の乗客殆どが大富豪や成金家族。それをもてなす側の乗員クルー達。最も登場人物が多く群像劇が錯綜するので集中して観る必要あり。

傲慢三昧の富裕族と、それに使い虐げられる下級労働者が交流する閉鎖空間は、リューベン監督の手腕がいかんなく発揮できる絶好のシチュエーション。ひと通りの人物紹介が行われながら展開する船内での出来事は、階級社会として区分けされた人間関係を不快なほどにしつこく描写を繰り返す。存在しない帆の汚れを指摘するクレーマー富豪のマダム、肥料業界で富を築いた自らをクソ長者だと豪語するロシア人財閥男ディミトリ(ズラッコ・ブリッチ)。大富豪たちは船上スタッフを暇つぶしにからかい、ディミトリの妻ベラ(ズニー・メレス)は「あなた達も気持ちよく泳ぎなさい」と上から目線で無理難題を命令する。

対する船上スタッフたちも強かで、全ては高額のチップを得るためだと商魂の逞しさを隠さない。リーダーを担う接客スタッフ責任者ポーラ(ヴィッキ・ベルリン)は、船長室に引篭もって出てこないキャプテンを、何とか引っ張り出そうと説得を続ける。恐らくこのキャプテン(ウディ・ハレルソン)は人間の傲慢さがあまりに露呈するこの船上に嫌気が差しているのだろう。この後の泥酔劇で彼の本音露呈が大問題を招くのだが、本作で唯一感情移入できるキャラクターとも思う。

イギリス人のクレメンティン夫妻 (アマンダ・ウォーカー、オリヴァー・フォード・デイヴィス)は富豪ながら誰にでもやさしい老夫婦として描かれるが、実は武器商人であり、手榴弾で財を成したことを悪びれるそぶりもない。皮肉な驚きとともに、それに相応しい展開が待ち受けているのも印象的。2パート=豪華客船編の極めつけは、嵐の夜に行われた晩餐会の大騒動。揺れまくる船上でのディナーは船酔いと酒乱でカオス極まりない修羅場となり、やがてトイレから汚水が逆流する大惨事へと拡大する。

2017年のパルム・ドーム受賞『ザ・スクエア 思いやりの聖域』と比べると、エンタメ性に注力して判りやすくなっているが、その振りきり方に毒性が強過ぎて描写が下品且つ過激で見苦しい。しかもこれがまだクライマックスではないのだ。キャプテンとディミトリの泥酔しながらの共産党宣言演説があらぬ誤解を招き、テロリストの攻撃を受けてこの豪華客船は沈没してしまう。

3パート目は漂流して無人島に辿り着いた客船の生き残り達によるサバイバル編となる。この展開は予告編でネタバレしているためサプライズ感はない。更には客船でトイレ専門の清掃スタッフだった中年女性アビゲイル(ドリー・デ・レオン)が、その狩猟の腕前から生き残り組のボスの座に就くことも予告でばらされている。それを割り引いてもここから各人物の立ち位置を巡った駆け引きの歪さは見どころ。社会的地位も財産も役に立たない理念をベースとした村社会の始まりは、生死のかかる環境だからこそ本性を剥き出しにした人間の醜さを嫌というほど見せつけられる寸劇。

しだいに自分自身が現実社会で対外的な体裁を保持して生きていることを、自白させられているような気分になることにで居心地の悪さが頂点となる。海に流れ着いた妻の遺体を抱いて悲しみに暮れながら、身に着けていた貴金属を外して、自分の靴の中に隠していくディミトリの拝金主義者ぶり等はブラック過ぎる。

極めつけはアビゲイル。恐らく人生で初めて支配する側の地位を得た彼女の性欲詐取は、男女の逆転を想像すればその異常ぶりが尋常ではないことに気付く。ここまで人間のエゴを徹底表現してしまう演出に躊躇がないのはこの監督だけだろう。

監督インタビューから引用すると「僕はこういう映画を作りながら僕自身を批判している。何故なら僕もこの世界の一員だから。」とあり、本作は自白剤作用があるのは間違いない。ラストはある発見がきっかけで、ヤヤとアビゲイルの関係が逆転する兆しが見えたところでプッツリと終わる。それまで劣等感の塊だったダメ青年カールが走るのだが、結末は語られないまま余韻を残す。

リューベン・オストルンド監督はなんと本作で2度目のパルム・ドールを受賞。昨年の『TITANE/チタン』もそうだが、カンヌ国際映画祭は捻くれ者の集団なのか。

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