トヨトミくんは、
野っぱらを駆け巡る、元気な男の子だった。
何も考えず、ただ日々を活き活きと過ごしていたが、
思春期になり自意識が高くなって来た頃から、
脳内に、トーキチローという男が現れた。
トヨトミくんにとってトーキチローは、
何か己の分身の様にも思えた。
トーキチローはその後のトヨトミくんの人生とって、
エネルギーの様に作用して行く。
脳内でトーキチローは大暴れし、抜かり無く、
いつしか天下を狙うヒデヨシとなっていた。
その頃、トヨトミくんも拾われたベンチャー企業で頭角を現し、
幾つかの企画を成功させていた。
ついにトヨトミくんが経営のトップになり、
企業を業界トップにまで成長させた頃、
脳内のヒデヨシは大坂城を完成させていた。
トヨトミくんの30代の人生には、エネルギーが漲っていた。
何もやっても上手く行く感じだった。
敵もいたが、味方も沢山出来て行った。
脳内のヒデヨシが国外で戦を始めた頃、
トヨトミくんも事業の海外進出計画を実行に移した。
しかし大失敗であった。
企業はダメージを負い、ライバル企業の飛躍も許す結果となった。
その頃である。
トヨトミくんの脳内から、ヒデヨシが消えた。
その後の中高年へと向かうトヨトミくんの人生は、試練の連続だった。
経営を守るのが精一杯、カラダに病魔の影も忍び寄る。
脳内にはヒデヨシではなくミツナリという男が現れ、
歳取ったトヨトミくんはどうにか経営の立て直しを賭けた企画で大勝負に出たが、
結果は上手く行かず、傷口を拡げた。
ミツナリもまた、あっという間に脳内から消えた。
50代になったトヨトミくんは更なる病に襲われ、
経営からは退き、一人質素な暮らしに入った。
昔の味方は誰も、もう傍には来ない。亡くなった人もいる。
脳内のヒデヨシと共に過ごした若くて勢いのあった頃を、
トヨトミくんは懐かしく思い出しながら、お茶を飲み込んだ。
老齢となり、病床のトヨトミくんは、己の人生の終わりを予感し始めていた。
脳内の、あの懐かしい大坂城の中にはヒデヨリ・ヨドギミという親子が格納されており、
オーノとかいう男が仕切ろうと頑張っていたが、ミツナリには及ばない感じだった。
「私の人生はこれで良かったのだろうか・・・」
薄く開いたトヨトミくんの目には、うっすらと水が溢れていた。
「あの時・・・・・・であれば、もう一度・・・」
脳内では大坂城が攻め立てられており、
マタベーやカツナガ、赤いユキムラが叫び声をあげて応戦していた。
六文銭の旗が、濡れたトヨトミくんの目にユラユラと浮かぶ。
トヨトミくんの口元は、少し微笑んだ。
大坂城が焼け落ちた時、
トヨトミくんは一人、静かに息を引き取った。
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