隣のルームのおばあちゃん、よく徘徊してくる。
床や壁に向かって怒っていたり、泣いたりしてはしゃがんで、床で寝てしまう。
感情の起伏が激しい。
でも可愛いくて皆に愛されている。
ある夜勤の時、そのルームも担当することになり、おばあちゃんがこの施設に入る事になった、ノートを読んだ。
暴力を振るうご主人と2人暮らしをしていた。
ご主人はよく浮気をして、嫉妬でご主人の首を絞めて怒っては、反対に殴り倒されていた。
その後、おばあちゃんはアルツハイマー認知症になってしまい、ご主人が介護をしていた。
近所の人が訪ねて来て、最近ご主人見かけないね。
と家の中を見たら、ご主人はすでに亡くなっていた。
警察がきて調べたら、4日はたっていた。
その間、何も食べていなかったようだ。
死因は脳梗塞だった。
おばあちゃんは施設に預けられたが、知らないおじいさんの首を絞めているところを発見されて、精神医療病院に入院された。
男性恐怖症があり、また男を見るとおじいさんと思うらしい。
落ち着いてきたので、内の施設に入居して来た。
可哀想な運命を背負ってきたのだとつい涙が出てしまった。
時々、僕を見ては
何すんの!
と怒っていたのはおじいさんと思って怒っていたのだと分かった。
アルツハイマーだから段々その記憶も遠のいて行ったようだ。
ご飯の食べ方も忘れてきた。手で食べたりしている。
介助しながら、
4日も食べないでよく我慢出来たね!
て突然聞いた
はい
と答えた。
わかっているのだろうか
話しはつながった
感情は今でなくならない、昨日も急に泣き出し、涙を流していたから、抱きしめて大丈夫だよ、安心して、心配ないよと言って一緒にソファーに座り、しばらく手を握っていた。
泣き止んだ。
何かを思い出していたのだろう。
アルツハイマーは人格を失う。
と言うが、違うのでは、感情や悲しい記憶、嬉しい記憶、優しさ、思いやりの記憶は残存している。
と現場の者としては感じている。
翌日また私のルームに徘徊して来た。
私を見てにっこり笑ってくれた。
ずっと私の後ろについて離れない。
男恐怖症と書いた診断書は何だろう。
抱きしめてやると安心してまた、遊びに徘徊して行った。
可愛いおばあちゃんだ。
時々、何してんのよ!
と怒ってきたら、
ごめんね
て謝る事にしよう。
きっと思い出しているに違いないから。
その大切な記憶はいつまでも忘れないで欲しいから。
それもおばあちゃんの生きた証だから。
そして
今は幸せなんだと
感じて欲しいから。
おじいさんになってあげなくては
またやって
来るだろう。
涙の
おばあちゃん
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