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2023年10月27日20:56

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10/24 杉本博司 本歌取り東下り@松濤美術館 

今行ってみたいところの一つに「江之浦測候所」がある。杉本博司が設計したランドスケープで、自身の遺作であり、1000年後に遺跡となると、ご本人の弁。今の足の状態では行かれないかな、と思うけれど。

杉本博司の個展は、2016年東京都写真美術館の「ロスト・ヒューマン」展以来だ。とても楽しみにしていた。
10月29日の本人による記念講演会は抽選に外れてしまった。残念。
記念公演に気を取られ、うっかりしていたのが前後期の展示替えがあったこと。行ったのは後期で、前期展示の、狩野永徳《安土城図屏風》を本歌にした《姫路城図》を見損なった。
杉本ファンらしき中年男性が多く、皆静かに観覧。分厚い図録2冊とトートバッグの販売だけだったが、それを全部(合計1万円弱か)買って行く人を数人見かけた。
全作品写真撮影可も嬉しい。
現代美術家による「本歌取り」…理解に難しいかなと思ったが、キャプションが丁寧だったので、存外わかりやすかった。

https://shoto-museum.jp/exhibitions/201sugimoto/
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杉本博司(1948〜)は、和歌の伝統技法「本歌取り」を日本文化の本質的営みと捉え自身の作品制作に援用し、2022年に姫路市立美術館でこのコンセプトのもとに「本歌取り」展として作品を集結させました。
本歌取りとは、本来、和歌の作成技法のひとつで、有名な古歌(本歌)の一部を意識的に自作に取り入れ、そのうえに新たな時代精神やオリジナリティを加味して歌を作る手法のことです。作者は本歌と向き合い、理解を深めたうえで、本歌取りの決まりごとの中で本歌と比肩する、あるいはそれを超える歌を作ることが求められます。西国の姫路で始まった杉本の本歌取り展は、今回、東国である東京の地で新たな展開を迎えることから、「本歌取り 東下り」と題されました。本展を象徴する作品である《富士山図屏風》は、東国への旅中に、旅人が目にする雄大な富士山を描いた葛飾北斎の《冨嶽三十六景 凱風快晴》を本歌とした新作で、本展で初公開となります。またこの他にも、書における臨書を基に、写真暗室内で印画紙の上に現像液又は定着液に浸した筆で書いた《Brush Impression》シリーズなど、本展は新作を中心に構成される一方、中国宋時代の画家である牧谿の水墨画技法を本歌取りとした《カリフォルニア・コンドル》など、杉本の本歌取りの代表的作品も併せて展示します。さらに、室町時代に描かれたと考えられる《法師物語絵巻》より「死に薬」を狂言「附子」の本歌と捉え、その他の8つの物語と共に一挙公開致します。
現代の作品が古典作品と同調と交錯を繰り返し、写真にとどまらず、書、工芸、建築、芸能をも包み込む杉本の世界とその進化の過程をご覧ください。


入り口にある作品が《時間の間(はざま)》
古い電気時計を南北朝時代の春日厨子にはめ込む。時計は杉本によって絵が描かれ、針が逆行するように改修されている。過去へと遡るように時を刻むが、厨子の側面に設置された鏡に映ると「順行時計」となる。過去と未来を自由に往来することを表した、この展覧会にふさわしい作品だ。
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《フォトジェニック・ドローイング》シリーズ
写真技術のネガポジ法を発明したタルボットのネガを入手した杉本は、ポジを制作。タルボットのネガを「本歌取り」して制作されたこのポジには、約180年の時を経て、タルボットが写し取った世界が表されている。
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《富士山図屏風》
葛飾北斎《富嶽三十六景 凱風快晴》の本歌取り。山梨の三つ峠で撮影。富士山の裾野に点在する現代の灯りはデジタル処理で消している。雄大に聳え立つ富士は北斎が見たであろう富士。
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ここで気づいたことが。
いつも閉じているガラス窓から柔らかい自然光が入ってきている。松濤美術館を設計した白井晟一をリスペクトしている杉本の案かな。
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《法師物語絵巻》室町時代
杉本博司は、NYで古美術商をしていたこともあり、所蔵品も多く、それらを使って自分の作品にする場合もある。
今回もこんな面白い絵巻を、特注のケースに入れて、部分ではなく全公開。

和尚と子法師のおかしなやり取りが描かれている。
「ご飯を炊く量を指で指図していた締まり屋の和尚は、転倒し手足すべての指を開いてしまい、小法師に大量のご飯を炊かれてしまう」
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「和尚に、落ちているものを拾うな、踏みつけろ、と言われた小法師は落馬した和尚を踏みつける」
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「和尚は、香の粉(麦こがしのことか)を「死に薬」だと嘘をつく。小法師は和尚の鉢を割り、その償いに「死に薬」をたくさん食べたが死ねなかったと泣く」
この話は、狂言「附子」と共通点があるとして、これを本歌とする「杉本狂言」を11月9日に上演予定。
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3階の第2会場は壁の色・風合いと作品がマッチしていて、杉本ワールドを作っていた。
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《十一牛図 円相 素麺のゆでかげん》大田南畝(蜀山人)杉本表具
太田南畝は、禅の悟りの境地「円相」を揶揄するように素麺に例える。杉本はさらに、江戸時代の《十牛図》(悟りに至る10の段階を牛を探す少年の姿に準えたもの)を上下に嵌め込んで表具した。
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《時間の矢》
鎌倉時代の舎利容器残欠に、杉本の「海景」を組み込んだ作品は、鎌倉時代から現代に至るまでに流れてきた時間を示しているのか。
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《お筆先》出口なお 杉本表具
展覧会で見たボストン美術館蔵の《華厳経(二月堂焼経)》の表装が震えるほど良くて、それが杉本博司の手になるものだった。で、これは新宗教の教祖出口なおが神の言葉を書きつけたものを杉本が表具した。何に対しても信仰を持たない私だが、グッとくるものがある。
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《「Myologie完全版」より》ジャック=ファビアン・ゴティエ・ダゴディ 杉本表具
ダゴディは18世紀の解剖学者、画家、版画家。ダゴディが描いた人の頭部筋肉を示した解剖図だが、杉本が表具すると、後のシュルレアリスム絵画を予感させる。
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《瀉嘆》白井晟一 杉本表具
瀉嘆は、吐くほどの深い嘆きという意味で、白井が揮毫、杉本が手に入れ表具した。白井が建築した松濤美術館で杉本が展覧会をすること自体すでに「本歌取り」、さらには、白井が晩年手がけた邸宅「桂花の舎」を江の浦測候所に移築することとなったという。この軸もその邸宅にかけられることになるが、移築作業もまさに白井建築の「本歌取り」となるだろう、と。繋がる話は面白い。
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ジオラマシリーズ《カリフォルニア・コンドル》
水墨画と銀塩写真は、陰影と濃淡に近いものがあると考え、伝牧谿の水墨画《松樹叭々鳥図》を本歌として、書割の前にコンドルの剥製を置いて写真撮影をした。私が、杉本を初めて知ったのはこのジオラマシリーズで、かなり衝撃的だった。
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本歌の伝牧谿《松樹叭々鳥図》フォト

表装も渋い!フォト

《華厳滝図》
杉本撮影の華厳の滝、国宝《那智瀧図》の面影を見たという。手前にあるのは、刀身が欠損したまま伝わった鎌倉時代の三鈷剣を、二荒山神社に伝わる三鈷剣を本歌として復元させたもの。瀧図と合わさって神性を感じさせる。
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《歪曲的宙感》
ウフィツィ美術館の自画像コレクションに加わった作品。マルセル・デュシャン《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》を本歌とする。デュシャンが理解できないので、私にはちんぷんかんぷんだが、検眼鏡をかけて、過去と未来を見つめるということなのかな。
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《相模湾、江之浦》
「古代人が見ていた風景を現代人も見ることができるか」という問いのもと撮影された「海景」シリーズ。画面の中空と海の配分がピッタリ半分なのは、余計な思惑を抱かせないため、原始の姿の海を写すため、海と空以外一切入れないのだ。
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《Brush Impression 月 水 火 狂》
コロナ禍でNYに戻れず、使用期限切れになった印画紙を活用。極端に暗くした暗室の中で、印画紙に現像液または定着液に浸した筆で文字を書く。書そのものを本歌とした作品。浮かび上がってきた文字は勘を頼りにして書いたものだか、文字の起源、言葉の意味への問いでもあろう。
はがねのような鋭さと輝きを持つ筆跡が美しい。
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《Brush Impression 愛飢男(四十五文字)》
前期は《いろは》後期は「あいうえおの50音」で、いろは歌のように意味を持った歌に仕立てる。これがこじつけにせよなかなか良くできている。
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《Time Exposed》シリーズ
防水ケースが破損したことにより、劣化・損害を受けた屋外展示の作品たち。時間の経過や変化によって、変わってゆくものに対しても、美を見出す杉本の姿勢。
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言葉にするには難しいが、古きもの、新しきもの、その間を流れる時間とそれに想いを馳せることに、美を見出し、それを独自の方法で表現しようとする杉本博司ワールドはやはりとても魅力的だった。

アルバムあります(作品のキャプション付き)
https://photo.mixi.jp/view_album.pl?album_id=500000120879257&owner_id=2083345


11月12日まで


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