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2021年04月14日13:55

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映画「騙し絵の牙」作品レビュー

映画「騙し絵の牙」作品レビュー

 やっぱり娯楽映画のいちばんの商品価値は面白くてなんぼのものということでしょう。愉快、爽快、痛快の三位一体で上々の作品でした。

 本作は作家の塩田武士が、主人公に大泉洋を想定して当て書きした原作を吉田大八監督が映画化したもの。楠野一郎と吉田の脚本が巧かったです。
 大手出版社、薫風社が舞台である。社長の急死で、経営改革を唱える専務と伝統を盾とする常務が対立します。出版不況の時節柄、目端のきいた着想だといえそうです。

 大手出版社「薫風社」に激震走ります。かねてからの出版不況に加えて創業一族の社長が急逝、次期社長を巡って権力争いが勃発したのでした。それは、改革派の東松専務(佐藤浩市)と文芸誌重視の宮藤常務(佐野史郎)による、社の命運をかけた対立でした。そんななかで、東松からスカウトされた主人公の速水(大泉洋)は、部数がジリ貧で廃刊の危機に立たされたお荷物カルチャー雑誌「トリニティ」の新任編集長として登場します。速水は看板雑誌「小説薫風」から新人編集者高野(松岡茉優)を引き抜き、破天荒な企画を連発します。イケメン作家、大御所作家、人気モデルを軽妙なトークで口説きながら、ライバル誌、同僚、会社上層部など次々と現れるクセモノたちとスリリングな攻防を繰り広げていくのです。嘘、裏切り、リーク、告発〜クセモノたちの陰謀が渦巻く中、速水の生き残りをかけた“大逆転”の奇策とは!?
 
 雑誌の休刊、町本屋の閉鎖など出版不況のリアルさと出版不況を受けた大手出版社の脱出版による生き残り策など、業界の半歩先をちらつかせ、文芸誌や文学賞への皮肉もたっぷりに描かれます。どうやら文学そのものがからかわれているような作品なのです。
 
 エピソードの一つ一つは珍しくないかもしれませんが、絶妙のテンポと次々と物語をひっくり返す構成の巧みさ、大胆な省略で飽きる時間を作らせません。スピーディーな展開と大泉、松岡らが醸し出す明るさ、さらに社外の人物がまた賑々しいのです。肩で風切る流行作家、20年以上消息を絶つ大作家、賞狙いの文学青年、情報通の文芸評論家、超人気ファッションモデル。とても一筋縄では行かない連中ばかり。
 そんな中でも、特に高野が大作家を追って、小型機の滑走路に飛び出すという熱い場面かぜ印象的でした。また「芥川賞をとらせる」と口説いて夢見る青年を心変わりさせるなどと妙にリアルなくだりもあったのです。そして、同じ出版社のなかにありながら、「小説薫風」と「トリニティ」の間で謀略的に同じ作家を奪い合うというあり得ない設定も(まぁそこが本作らしいところですが)

 大御所作家の國村隼、文芸評論家の小林聡美らが笑いを誘い、新人作家の宮沢氷魚や謎の作家リリー・フランキーもいい味を出していました。
 終盤のだまし合いにはやや無理感もありましたが、ご愛嬌ですね。後に残るものはないけれど、邦画ではまれなスカッと楽しめる快作です。

 吉田監督は、ベテラン俳優たちの達者な演技で喜ばせ、時に、華やかさの裏の哀切さでぎくりとさせてもくれます。これは出版業界を舞台にした時代精神の物語なのに、硬質な感じを全く与えません。やっぱり本作でも大泉洋の存在は凄いものです。大した個性ですね。

 大泉洋から文才のあるモデル役の池田エライザまで見事なキャスティング。先読みできない脚本とテンポのいい編集に転がされ、心地よくだまされることでしょう。冷静になって考えてみれば、出版業界の出来事が、本作のようにこんなに大きなニュースになるものだろうか?と少し違和感を感じるかもしれません。それもまた、作り手の望みなのかもしれないですね。

 最後に、タイトルの『騙し絵』はわかりやすく、なんとなく予想はできるのですが、なぜ『牙』なのか、鑑賞前はよく分かりませんでした。それがある人の名前が由来になっていると知って、なるほどそういうことだったのかと納得しました。

☆公式サイト
https://movies.shochiku.co.jp/damashienokiba/




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