スーヴェニール 3（作成中）

ヨッチンは2階に上がったまま、なかなか下りてこない。「遅いよね。またバテてるんかな」リキコさんが言った。「昨日も帰ってきてからなんかグッタリしてたからさ、鼻血止まんなくなっちゃって、あははは」リキコさん昨日も来ていたのか。「だいじょうぶなの」「あんた見に行ってみたら？」「え」「あたし、あずさちゃんのとこに行っとくわ」
と言っていたら、帽子を被って下りてきた。紙袋を一つ提げている。「ごめん荷物に入れてたやつを出してて遅くなった」「なんだ、また鼻血マンかと思ってた。」「なにそれ」「あず姉のとこに行くから、」リキコさんは縁側から奥のほうに入っていった。

「リキコさんて親戚かなんかじゃないよね」「違うよ、家が近所なだけ」「なんかすごいよね」「そうか？」
「あのね、別に送ってくれなくても大丈夫だよ、ひとりで帰れるよ？」「いや、ひとりで帰したら俺が怒られるから」「ああ、結局あたしは人に迷惑掛けてる…ごめんね」「迷惑てことはないよ」
奥のほうにいるお母さんに「春名さん送って行くわ」と声をかける。「あら、もう帰るの？ごめんなさいね〜この子愛想なくて。」と声が返ってきた。「ちゃんと送り届けるのよ、よその大事なお嬢さんなんだから」「分かってるよー」
「あ、え、ええと、あの、」なんて言えばいいのだろう、「すみません」すみませんじゃないよな、と思う。
「じゃあ行こうか」
まるでお出掛けにでも行くみたい、行こうかって。

「メイちゃん自転車で来なかったの」「うん」「後ろ乗って行く？」「え…それは嫌。」「じゃあ歩こうか」「ああ、そしたら、そこの大通りに出るとこまででいいわ」「家の近くまで行くよ」「それは遠過ぎるよ、あんたが帰るの遅くなっちゃう」「うん。いいよ。どっちみちゆっくり行くつもりだし」「あああ、もう」

「今日メイちゃん来ないって言って無かった？びっくりした」「うん。参っちゃうよね。なんも話すこともないし」「あー、そうか、」
「そうだ、さっきあんたのお母さんにお礼言われたの、なんで？」「なに？」「えーと、仲良くしてくれてありがとう、みたいな。そんな何もしてないのに、なんか居心地悪くて」「うーん、まあ、俺なんでだか親に心配されているからかな…。」「なんで」「さあ、でもそれくらい普通じゃない？」「ごめんね、うちの親あんななのに」「なに？」あっ、この子うちの親のこと知らないんだ。「いや、いい、でも優しいお母さんだよね」「ちょっと心配し過ぎなんだよな」「いいじゃない」

「リキコさん放ってきて悪かったな。待って一緒に帰れば良かったかな」「あー、リキコは気にせんでいいよ。いつも勝手に来て帰るだけだから。どうせリキコに無理やり連れて来られたんでしょ？好きにしていいと思うよ。」「リキコさんは呼捨てなんだね」「まあ、昔からそう呼んでるから」「あたしはちゃん付けなのに」「あっ、ごめん忘れてた。あんたも昔からそうだから、つい」「リキコさんて、いい友達だよね…。」「うん？友達っていうか、あれはいじめっ子みたいなもんだからなあ」「あんたは分かってないんよ」「何が？」「恵まれてるんだよ」

「ねえ、やっぱり邪魔しに来たみたいで嫌だよ。帰っておうちの手伝いしててよ」「いや実はおおかた片付いてるから、別に今からそんなやることないんよ。暇だからちょうどええんよ」「でも」「だから大丈夫だよ、そうだ今何時？」「えっ？えーと10時半？」「じゃあ11時になったら家に戻るから、それまでに急いで送らせて。それでOK？」「…うん…分かった」

「引っ越しの見送りなんか普通しないよねえ」「うーんそうかな」「前の前の時に、近所の子が人形や手紙をくれたことがあったな。でも引っ越す日には誰も来ないよ。」「まあ見送りって言ったら葬式くらいかな」「やめて」
「でもいいよ、嬉しかったし」
「うそ。なんで来たって思わなかった？」
「まあびっくりしたけど。…あのそれでな、引っ越しの荷物片付けてたらなんか出てきたから、これやるわ」「なに？」「知らん。なんか前に人にもらったんかな。でも女の子向けみたいだから」「ふーん。なんだろ、いいわもらっとく。」「ありがとう」「ん？なんかあたしがモノをもらうのは変な気もするけど」「俺が持っていても邪魔になるだけだから」「そっか。…ありがとう」