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2020年07月21日11:53

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最初の3ヶ月(作成中)

転校は慣れているから、別れが寂しいなんてことは無い。どうせ別れを惜しむような親友なんかいない。幸いに。どうせなら、誰も知っている人がいない所に行きたかった。初めての場所は心細いけど、誰かいたって何の助けになるわけじゃない。前のことは全部捨てて、新しい自分でやっていきたいんだ。それなのに。

転校の初日は、教室で前に立って先生に紹介されるパターンや、学年初めなら始業式の列の最後尾にしれっと並ばされて特に紹介されないパターンはあったが、今回みたいなのは初めてだ。
体育館の舞台の上に、他の転校生2名と並ばされて全校生徒の前で自己紹介する羽目になった。
めちゃめちゃ緊張するのだけど、私はこういうのは割とどうにかなるタイプ。順番に「どこから来た何なにです、よろしくお願いします」と定型文を言って後ろに下がった。

入るクラスの列に加わり教室に戻るとき、周りがざわめく。まだ正体がバレないうちの、好奇のまなざし。居心地悪い、いずれ分かるのに、どうせガッカリされるのは分かってるのに。

昔、小学校低学年の頃この町に引越して行った同級生がいた。まだいるかどうかは分からない。またどこかに引越して行ったに違いないが、もしいたら嫌だな。そしたらどうか、見つかりませんように。…って、体育館であんな風に紹介されてしまったら、、どうかいませんように。

教室で席につくと周りを何人もに囲まれていた。いつもの恒例行事。どこから来たの?おうちは何の仕事しているの?〇〇は好き?
私、質問されたことにはちゃんと答えることができるのよ。人に言われる程、何も話さない訳じゃないのよ?単語だけかもしれないけど答えているのよ。なんて、そんなもん誰も知ったこっちゃない。誰も知らないから誉めてくれる訳じゃない。

その日の日程が終わり、帰る準備を始めているとよそのクラスからも「転校生ここのクラス?」と言いながら入ってきた。小学生みたいに小柄な男の子。
「げっ」
面影あるなんてもんじゃない。こいつ知ってるよ。なんて名前だったっけ。あっ、「ヨッチンだ」

ずっと昔、そんなに仲良しじゃなかったけど、近所だったので一緒に遊んだりもしていた。幼稚園から小学生1年の頃、2年間だけ。本当の名前は、マキハラ何とか、、まあヨッチンでいいや、2年生になる前に引越していった。うちに来たこともあるよ、他の近所の子と一緒に。オリガミしたり、お絵描きしたり、鬼ごっこしたり。パンダとかくす玉とか難しいものを作っていたな。

小さくて、ひょろひょろで、クモが出たとか言ってワアワア騒いで泣いて、足が遅っそい、そのまんまの感じで目の前に出て来たのだった。まあ、、それでも
「背伸びたね、小学生の時よりは」

「やっぱりメイちゃんだ」
ちゃん付けやめろ。とか思っていると、
「こいつ、前いた小学校の同級生〜よろしくな〜」と紹介されていた。やめて。やめてくれ。そして女子のグループの所に引っ張っていかれて、仲良くしてやってな〜とか言ってる。やめてよ。無理だよ。

そいつが教室を出ていったのを追い掛けて「ちょっと!」と捕まえた。廊下の端っこに追いつめる。
「あんた、ほかに何か変なこと言わなかったよね?」「変なこと?」「小学校の時のこととか」「あー、何も。同級生って言っただけ」「いらんこと言ったらいろいろバラすからね」「なに」「んー、ここでは言えないっ、とにかく!余計なこと言わないでよ」

自転車で出ようとすると、なぜかその子もついてきた。「なんでついて来るの」「いや方向が同じだから」「あ、そう」無視して乗って行くと、「家こっちのほうなんだね」と話し掛けてくる。「あ、家までついてこないでよ」「行かんよ〜。こっちなら、じゃあ上町宿舎?」「そうそう」スピードを上げると、その子も同じように合わせてくる。もうー、ちょっとー!と振り向くと居ない。「あれ?」だいぶ後ろに、チョウチョにまとわりつかれて必死に振り払っているのが見えた。
「ヘタレが」
立ちこぎで更に引き離す。ビュンビュン飛ばして坂を上る。もう奴は追いついて来られないだろう。

次の日。前の休み時間にトイレに行きそびれて、そわそわしながら廊下を歩いていた。あまりうろつきたくないが、場所を聞けないので端っこまで歩いてトイレがないのを確認して、また引き返す。ああ、恥ずかしい。
よそのクラスの前を何度も歩くのは嫌だなと思ってると、「メイちゃん何してるの〜」という声が聞こえてビクっとした。奴には見つかりたくなかった。「トイレはあっちだよ〜」この野郎、大声で言うてんじゃねえ。くうー。下を向いたまま反対の端まで歩いていった。

その日の帰り道。坂を降りて自転車を押していると、ああ、また後ろから来たよ。めんどくせえ。「メイちゃんトイレ間に合った?」うるせえ。無視して歩いていると、その子も自転車を降りてついてきた。「なんでミニスカートなの?」ミニじゃねえよ、「これ小学校の時のスカートだよ。今見えないけど中に吊り紐ついてるよ」「えー、そうなんだ、なんで?」「なんでって、」「普通前の学校の制服着てきたりしない?」「前の学校では制服買わなかったのよ。どうせ引越すの分かってたから。あっ、ベストとかは近所でもらったお下がりだよ。…お姉さん細くてちょっとキツい」「へー」この話興味ある?
「あのさー、学校であんまり話しかけないでくれる?」
「えーなんで?」「仲いいと思われたら困る」「なんで」なんでって、面倒くさいなあ。
「クラスどこ?」「えっ?3組だけど」「いつもこのくらいの時間に帰ってるの?」「うん。なるべく早く家に帰りたいからな」「ふーん」じゃあ明日はちょっとゆっくり準備すればいいんだな。時間かち合わないようにな。
「まあ部活始まったら会わなくなるのか」「あー入ってないから。帰宅部」「そうなの?」「だから頑張って帰宅してる」…しょうもな。
「ついてこないでよ」「ついて行ってないよー。もうそこで、そこで曲がるから」「あそ。じゃばいばい」自転車に飛び乗って力いっぱいペダルを漕ぐ。まだこの坂はキツいけど、ここはがんばる!
後ろは振り向けないが、どんな顔しているのか考えたら笑けてきた。「ふふふっ」また明日また明日。
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