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2023年11月28日17:30

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インドは本当に世界の次なる経済大国になれるのか 成功への道のりと障壁


by バスカー・チャクラバルティ ,ガウラヴ・ダルミア

2023.11.25

インドは本当に世界の次なる経済大国になれるのか
HBR Staff/anand purohit/Getty Images
サマリー:「インドの経済的台頭」はこれまでも多くの注目を浴びてきたが、結果的にすべて期待外れに終わってきた。しかし今度こそは、次の経済大国になれる可能性がある。本稿では、インドで未解決の課題やビジネス環境の改善... もっと見る
インドの経済的台頭は必然か
 2002年、インド政府は 「インクレディブル・インディア」(驚くべき国、インド)として知られる広範な国際観光キャンペーンを開始した。今日、インド政府が同様のキャンペーンを展開するとしたら、「イネビタブル・インディア」(約束された国、インド)と名づけるかもしれない。

 国内の熱心な支持者だけでなく、世界中のアナリストたちが、インドが次の経済大国になるだろうと宣言している。ゴールドマン・サックスは、インドが2075年までに世界第2位の経済大国になると予測し、『フィナンシャル・タイムズ』紙のチーフエコノミクスコメンテーター、マーティン・ウルフは、2050年までにインドの購買力が米国の購買力を30%超えると見ている。

 我々は以前にも同じような「インド楽観主義の高まり」を経験している。しかし現実には、熱烈なインド支持者たちをも落胆させてきた。中国(いまだインドの5倍の経済規模を持つ)を追い越すという大胆な予測に始まり、2007年にマッキンゼー・アンド・カンパニーが出した、急速な経済成長を遂げるインドの消費者が「金の鳥」になるだろうという見方まで、まったく実現しなかった。規制緩和の後に政策が撤回され、ビジネス相手としての信頼が失墜し、そしてパンデミックによって壊滅的な打撃を受けるまで、インドが約束されていた必然的な台頭は、期待はずれに終わってきたのだ。では、いまは何が違うのであろうか。

 インドのビジネスエコシステムには、需要、供給、システム全体の異なる側面が一つに集約するポジティブな傾向がある。それらの促進要因が組み合わされば、景気サイクル、マクロショック、政策転換を乗り越えられる可能性がある。促進要因には新しいものもあるが、古いものはクリティカルマスに達しようとしており、最終的には両者が相互に補強し合って、一度成長が始まるとより大きな勢いで成長し続けるフライホイール効果を生み出すことができる。しかし、車のエンジンなどに利用されているあらゆるフライホイールと同じように、振動や焦げ臭い匂いに警戒し続けることが重要であり、インドの場合、このような問題は数多く存在する。企業、政府どちらのリーダーも注意を払い、フライホイールが壊れる前に行動することが不可欠である。

需要
 需要サイドには、3つの力が集結し、インドの経済成長を後押している。

消費ブーム
 インドの将来性に関する議論の出発点は、インドの消費者の将来性である。14億人の人口と、彼らの無数のニーズを抱えるインドの成長は、主に国内消費と投資によって牽引されている。実質賃金は4.6%増加し、可処分所得は15%を超える成長が期待されている。西欧では成熟し切っている産業が、インドではいま急成長している。たとえば、民間医療保険は2015年から2021年の間に約3倍に成長し、耐久消費財は今年(2023年)15%から18%の成長が見込まれている。

文化的背景に適したイノベーション
 国際企業は、インドの「中流階級」の意味するところが理解できず、それに合った価値提案をつくり上げるのに苦労している。インド人の3人に1人が中流階級だと主張するアナリストもいるが、世界基準でいえばインドにおける正確な「中流階級」はわずか6600万人にすぎず、11億6000万人は低所得者である。しかし、この低所得者グループには、上昇志向の消費者層が大勢存在している。

 これには多くの示唆がある。まず、インドでの競争とは、他国よりもはるかに低い価格帯で販売することを意味し、そのためには競合他社が真似しにくいような方法での活動、生産、サプライチェーンの再構築が必要となる。インドで最も売れている自動車は日本のスズキが製造するワゴンRで、価格は7000ドルだ。スズキのインドでの41%という市場シェアは、世界の自動車業界では異例である。

 とはいえ、ネットフリックスがインドでの試行錯誤を通じて発見したように、インドで成功するためには低価格だけでは不十分だ。コンテンツをローカライズし、インドの複数の言語に対応し、アマゾン・ドットコムやウォルト・ディズニーのように、インドの消費者が求める商品間の相乗効果(シナジー)を活かすことが不可欠である。まったく異なる分野では、マクドナルドがベジタリアン向けオプション、インド風スナック、多世代家族向けメニューを導入し、文化的背景に適した価値提案を行っている。

 インド消費者の心をつかむことができる企業には、大きな見返りがある。インドのマクドナルドのフランチャイズ経営者の多くは億万長者である。家電メーカーのハベルズは、浄水器やコンプレッサーのないクーラーなど、インドの消費者のニーズと手頃な価格の両方を満たす「インド向け」製品を提供している。30年前の上場以来、ハベルズの利益は826倍、時価総額は5800倍に跳ね上がった

環境対策
 インドにとって環境対策は急務であるが、それによって新たな需要が急激に拡大している。その潜在的な経済規模は、膨大なエネルギー需要が発生することを意味する。世界第3位のエネルギー消費国であるインドは、再生可能エネルギーの設備量ではすでに世界第4位である。同国は野心的な目標を掲げており、2030年までに500ギガワットの再生可能エネルギー容量の導入、年間500万トンのグリーン水素の生産、二酸化炭素排出量の45%(10憶トン)削減などの実現を目指している。世界経済フォーラムによる2021年の報告書によると、インドで「グリーンエコノミー」関連の雇用が5000万人増加し、2030年までに1兆ドル、2070年までに15兆ドルの経済的機会がもたらされると予測している。

供給
 供給にもいくつかのポジティブな力が働いている。

人口ボーナス
 供給に関する話については周知のものである。2030年までに、インドの生産年齢人口は10億4000万人となり、生産年齢人口に対する非生産年齢人口(子どもと高齢者)を示す従属人口比率は31.2%と過去最低になる予想である。これは、漸増する世界の労働人口の4分の1弱を占めることになる。なお、生産年齢人口の増加は2055年まで続くと予測されている。

 「アジアの奇跡」は、この傾向を利用することで築かれてきた。日本は1964年に、韓国は1967年に、中国は1994年にこの好機に入った。また、インドには英語話者のSTEM(科学、技術、工学、数学)分野の卒業生が世界で最も多く集まっている強みもある。

インド発展を促進させるもの

成功への道のりと障壁
by バスカー・チャクラバルティ ,ガウラヴ・ダルミア
翻訳 石原 薫
2023.11.25
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金融へのアクセス
 インドの金融市場はかつてないほど良好な状態にある。中国のビジネスチャンスが冷え込む中、投資家は代替先を求めており、インドはそれに最も近い選択肢となっている。MSCI新興国株価指数の今年の上昇が2%であったのに対し、MSCIインド株価指数は12%上昇している。

 銀行の財務状況は強化され、信用市場はよく機能している。多くのインドの銀行が米国の銀行よりも高く評価されている状況は、そのことを物語っている。HDFC銀行は親会社である住宅金融会社HDFCと合併し、時価総額1710億ドルの世界第4位の金融会社となった。この創業29年の新興企業は、合併前でも、154年の歴史を持つゴールドマン・サックスより価値が高かった。

 この変化は、インドの労働人口の86%以上を占め、伝統的に資金不足であるインフォーマルセクター(露天商や無許可の業者・企業など)にも見られる。インドの大手投資銀行であるアベンダスは、インドの中小企業セクターの借入需要の合計額は1兆5000億ドルに上ると算出した。このうち、7250億ドルは担保がないために対応されず、正式な融資金額は2890億ドルにすぎない。このため、貸金業者は融資の幅を広げようとしている。新規に融資を受ける顧客は、2017年の中小企業向け貸金業者の顧客の9%から34%に増加している。中小企業向け貸金業者による融資は、過去2年間で毎年43%増加した。

リアルおよびデジタルにおける、インフラのアップグレード
 インドを訪れたことのある人にとって記憶に残る重要な課題は、インフラの遅れである。従来は、貧困者支援が選挙対策として都合がよかったが、現政権は人気が高いためにインフラ投資を行う余裕がある。政府支出全体に占める資本支出の割合は、2010年の11%から今年は22%に増加した。今年のインフラ支出は1220億ドルで、33%の増加が見込まれている。

 その成果は目を見張るものがある。インドでは毎年1万キロメートルの高速道路が増設されている。2014年以降、インドの空港の数は倍増し、鉄道システムのアップグレードにより、インドの経済の中心地を結ぶ高効率の「貨物回廊」が誕生する予定だ。

 さらに大きな特徴的な変化が見られるのが、デジタルインフラである。8億8125万人のインターネット加入者を擁するインドは、中国の10億5000万人に次いで世界で2番目にインターネットの利用人口が多い。このアクセスを活用し、他国からも研究されるモデルとなった公共インフラ分野のデジタルインフラがある。これには、国民の固有IDシステムや、デジタル決済をシームレスに行える決済インターフェース、国民が納税証明書や予防接種証明書などの基本的な書類にオンラインでアクセスするためのデータ管理システムがある。これらは、公共サービスやデジタル決済をより多くの国民が利用しやすくなるためのものである。

 その成果を表すものとして、インドはデジタル決済率の高さで中国に大差をつけて世界のトップに立った。インドにおけるデジタル決済額は、世界2位から5位の4カ国の合計を上回っている。

促進要因
 このような勢いのほかに、システム全体の促進要因もいくつか重なって働いている。

国内政策改革
 2016年の破産倒産法の施行から、ビジネスのしやすさを促進するための3万9000を超える規制の撤廃に至るまで、これまで多くの規制・政策改革が実施されている。

 建設許可や電力系統の接続など、ほかの多くの改革は州政府の管轄だが、これらの領域でも変革の動きがある。各州政府は、事業設立プロセスの迅速化支援や、投資に対するインセンティブの提供、さらには競合企業の誘致などを競い合いながら、各地にビジネスフレンドリーな環境を提供している。

地政学的な優位
 もう一つの変革は、中国と欧米経済、特に米国との間で拡大する亀裂によって引き起こされた、インドの特徴的な地政学的位置付けである。これにより、アップルのスマートフォンの生産を筆頭に、インドにとって新たなビジネスチャンスが生まれている。年間2000万台のiPhoneを生産することを目指すこのプロジェクトだけでも5万人の新規雇用が創出される。さらに、ロケット打ち上げに使用される軍事レベルの技術に関しては、インドは中国よりも打ち上げ国としての信頼が厚く、すでに軌道に乗ったエコシステムがある。2020年以降、インドは国内外の宇宙機を111回打ち上げており、2023年8月下旬には探査機の月面着陸に成功している。

 もう一つの顕著な例を挙げると、米半導体メーカーのマイクロン・テクノロジーは、中国以外への拠点分散を図る一環として、新たな組立・テスト施設の建設計画を発表した。実際、世界銀行の新総裁は、企業が中国に大きく依存することなく、サプライチェーンや製造拠点の分散を模索する中、インドがその動きに乗じるチャンスがあると述べている。

ディアスポラ(国外移住者)の活躍
 マイクロン・テクノロジーのCEOと世界銀行総裁がともにインド出身であることは興味深い。これが3つ目の重要な促進要因、インド人ディアスポラである。インド人ディアスポラはいまや世界最大であり、かつてない影響力を持つようになった。ビジネス界においても、S&P500企業のCEOのうち25人がインド出身である。これ以外にも、多くの企業の経営幹部陣にインド人が名を連ねている。米国ユニコーン企業の移民創業者の出身国としても、インドがトップである。このようなつながりは、インドビジネスの国際的な連帯を可能にし、インドの国際的なバリューチェーンへの統合を促進している。

インドの抱える障壁

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成功への道のりと障壁
by バスカー・チャクラバルティ ,ガウラヴ・ダルミア
翻訳 石原 薫
2023.11.25
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障壁
 これらの要因が互いを補強し合っている一方で、多くの障壁が残っており、これらが相乗効果を停滞させる可能性がある。3つの大きな障害と対策について考えてみよう。

不均衡な成長
 国家レベルでは目覚ましい成長を遂げているにもかかわらず、その経済的恩恵は極めて不平等である。インド人の上位10%が国富の77%を占めている。医療費に関してだけでも、毎秒約2人が貧困に追い込まれている。インドの人口密度は世界で最も高く、資源配分と環境負荷とのゼロサム的性質(相反的な性質)を悪化させている。南部と西部が北部と東部よりも12%速く成長しているという地域的不均衡は、時とともに拡大するだろう。このうえ、さらに言語的な分断も合わせると、地域間の新たな緊張が表面化する可能性がある。これらに対処するには、政治経済を巧みに管理する必要がある。

 その他の不均衡は、政治的分断のために拡大している。確固としたヒンドゥトヴァ思想(ヒンドゥー教に基づく政治思想)の主張によって、雇用創出、生産性向上、経済的利益の共有といった核心的な問題が覆い隠されている。この問題の根本的な原因は、独立したばかりのインドで始まったアファーマティブ・アクション(格差是正)事業は一時的な措置であるべきだったという社会通念である。これは政治指導者によるマイノリティ宥和策への不満につながった。状況はいまや逆転し、排除とアイデンティティ政治に関する新たな課題を生み出している。

 インドが世界報道自由度で順位を下げている事態は、インドに関心を寄せる多くの人々にとって好ましくない状況である。結果として、国内の不満分子やマイノリティ層がため込んでいる感情が爆発し、下降スパイラルに陥る可能性がある。このような事態は、繁栄の共有という目標を損なう可能性がある。海外の投資家や貿易相手国にとって、インドのように宗教、言語、社会文化の多様性のある国では、多数決主義というリスクが加わることになる。さらに重大なのは、こうした動きが社会的・経済的変革のために活用できるはずの政治資本を枯渇させてしまうことだ。

 これらの課題に対する解決策は少なくとも2つある。第1に、各政党がこの国の膨大な人口の最も広範な層を獲得する有力な手段として、アイデンティティ政治から包摂的成長と雇用創出へと舵を切ることである。第2に、インドでは州レベルの選挙が絶え間なく行われており、それが国民の対話や、長期的な経済成長志向の視点をゆがめることにつながっている。選挙を合理化し、集約することで、国民の言論にゆとりが生まれ、政治指導者と有権者をより長期的な視野へと向かわせることができるだろう。

未活用労働者のポテンシャル
 都市部の労働者のうち、正規のフルタイムの仕事に就いているのは半数に満たず、インドの雇用の大半は生産性の低いインフォーマルセクターで占められている。特に、教育、技能訓練、医療は著しく不足している。「2023年インド・スキル・レポート」によると、雇用対象になるスキルのある若者はわずか半数である。

 インドにとっての「クラウンジュエル」(価値ある分野)とされる技術サービス部門でさえ脆弱だ。アウトソーシングの需要は減少しており、コーディングや定型業務がクラウドコンピューティングやAIへシフトされることで、業務を人件費などのコストの安い地域で行う「労働コストの裁定取引モデル」は崩壊するだろう。警戒すべきことに、インドの女性労働参加率は着実に低下しており、2005年の32%から2021年には19%に落ちている。

 たとえばベトナムを見習い、スキル向上への公共投資と民間投資を優先させなければならない。それによって、インド経済に5700億ドルを加算できる。一番のネックは製造業で、ほかの類似経済圏においては重要な雇用創出源であるが、インドにおいてはGDPの13.3%で頭打ちとなっている。現在のインフラ整備、政策改革、地政学的な要因、資本流入は、インドの製造業を活性化するのに役立つだろうが、そのためにはここで論じた障壁を取り除かなければならない。

 新興分野では、AI(人工知能)の可能性が急拡大しており、インドにとって最先端分野でリーダーシップを発揮するチャンスとなる可能性がある。インドには急拡大しているAI人材拠点があり、蓄積された膨大なデータリソースと結びつけて活用することができるからだ。女性を労働力として登用し、定着させるためには、文化的・組織的な変革が必要である。このような取り組みには長い期間がかかるため、焦点を絞り、体系立った長期計画が必要である。

ビジネスのしやすさとイノベーションの可能性
 インドでビジネスを始める環境は改善されているが、多くの課題が残っている。建設プロジェクトは、土地の取得の難しさによって滞る可能性があり、裁判所の動きも鈍い。土地の記録が存在しなかったり、古かったりすることもあり、環境許可の取得がさらなる障壁となっている。そのうえ、契約の履行は依然として困難である。『エコノミスト』誌が作成した指数によると、インドは過去30年間の大規模な自由化にもかかわらず、縁故資本主義の蔓延度で10位にランクされている。保護主義の遺産が依然として存在している状況である。

 インドの国家能力には変化が必要だ。一般的な認識とは異なり、インドという国家は巨大で不器用なのではなく、弱く衰退している。規制当局から地方自治体、司法機関に至るまで、公共機関はしばしば相反する要求に対応し、市場や社会の現実に追いついていない。重要な決定は危機的状況を基準として下されることが多く、インドの成功物語は、機関の不全に対する個人の武勇伝である場合が多い。インドの国家機構を最先端のものにすることは、インドによって極めて重要なプロジェクトといえるだろう。

* * *

 総括すると、障壁は残るものの、ポジティブな力がドミノ効果を生み、「イネビタブル・インディア」は手の届くところにある。インドの最大の課題は、インドの成功を願う多くの支持者に対して、その必然性を具体的で信じられるものにすることだろう。観光客向けの 「インクレディブル・インディア」から、世界経済を呼び込むための次のキャンペーンは 「クレディブル・インディア」であるべきだ。


"Is India the World's Next Great Economic Power?" HBR.org, September 06, 2023.

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