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2020年07月10日22:36

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MAY 7(作成中)

昨日は結局迷っているだけで、メイの家には行けなかった。一旦帰ってよく考えてからにしようと戻ったが、考えているうちに夜になってしまった。
行かなくちゃ、君の家に行かなくちゃ、傘がない〜 by井上陽水 などとふざけている場合ではない。今日もよく晴れている。

電話することも考えたが、あの子はまだ携帯を持っていない。自宅に電話するのはちょっと気が引ける。しかたがない。

自転車でいつもの坂道をどんどん登っていく。躊躇してはいけない、勢いつけて、どんどん行かなくては。曲がり道も通り過ぎ、いよいよてっぺんに近づく。どうしよう、このまま着いてしまう。

「あれっ」予想外の方向から女の子の声がした。その方向を見やると「ヨッチン、どうしたの?」とメイが走りよってきた。両腕に大きな紙袋を抱えている。「メイちゃん、あの、もう起きても大丈夫なんだね」「うん、良かった〜、えっもしかして会いに来たの?」「いや通りがかっただけ」「こんなとこに?」「そうそう」「あーでも良かったよ、ここで会えて。忙しい?」「いや、」「じゃあこれちょっとカゴに載せてよ」「どうぞ。うちまで運んだるよ」「うちまで?お母さんいるよ。」「じゃあうちの近く、まで」「やった」

「えっと明日だっけ、引っ越すの」「うん、昼には出るかな言ってる」「そう」
「あの、この辺りで喋るのは大丈夫?」「ん?」「学校では喋れなくなるじゃん?家の近くでは話せるの?」「あーそれね、よくわかんない。あまり言わないで」「ちょっと話してもいいかな?」「なに?それ怖いこと?」「いや、、」

明日引っ越すんだよ。ここでメイの気持ちを確認したところで、どうせ切れてしまうんだよな。

「このリボンやっぱり返すわ。」「なんで?」「俺が持っていても仕方ないし、返す時は多分来ないから」
「ふーん…」リボンをしばらく眺めて、「うん、いいよ。嫌だもんね。こんなの持たされてても」「嫌とかではないんだけど」「嫌な事は断っていいんだよ。そうしないと分かんないよ。だから、ありがとう」
「ええっと、あのな」「なに?」「いや、、今は友達、、カナコさんとかとも遊んだりしてるんだよね?」「んっと、遊びに行ったりはしない、学校だけ。まあそれでいいんだけど」「じゃあ大丈夫だよね!」「大丈夫って何が」「まあいいや」

「あたしのことはいいよ、自分の心配したら」「まあ何とかなるんじゃないの」「そう?」「まあー、運が悪くても、その時はその時。今考えても仕方ないよ」「ヒーローみたいなのがいたらいいねえ」「ヒーロー?」「うん。リキコさんみたいな。あたしあんな風になりたい」「リキコがヒーロー?ていうよりジャイアンだな。ただの乱暴者だよ。ああはならないほうがいいと思うよ。」「えー。だって、最初ここ来たときイジメられてて助けてもらったんでしょ」「うっ、その話を今出すか」「かっこいいじゃん。あたしあの人がうらやましい」「あ、そうなんだ。嫌いなんだと思っていた」「苦手だけどね」

「ごめんな。」「何が」「もっとグループに引き入れたら良かったね」「あ、リキコさんとかってこと?別に、そこまで仲良くしたいわけじゃないからいいよ」「えー。」「あたし一人でいるのは結構平気だから。ていうか、ずっと人とばかりいるとしんどくなっちゃう」「今めっちゃ喋ってるけど、喋る相手がいなくても大丈夫なの?」「ああそっか。喋りたい時もあるもんね。でも、喋りたいときに喋って、黙りたい時は好きに黙れるのが理想だな。自由になりたい」「自由じゃないんだ」「うん。学校にいるときは特にそう。どうしたら良いか分からなくなって動けなくなる。その動けないのもイヤだし。恥ずかしいし。」

「あああ、だからあたしのことはいいんだって!」
「で、喋らなくても平気?」「別に喋る人がいなきゃ喋りたいとは思わないよ。どうせ話せないと思うし。…もうすぐ着いちゃうね。」「俺がいなくなったら寂しい?」「うーん、どうだろうな。なんか話しやすいから喋っちゃうけど、ほかにいないから、それだけだし」「…。」「あっごめん、めっちゃ寂しい!さびしいなあ〜しくしく」「わざとらしい」
「あっ自転車止めて」「ここで?」「あんまり家のそばだと、お母さんとかに見つかったら面倒くさいから」「もうここから行くの?」「とりあえず止めて」「荷物降ろすね」「待って、」両肩に手を置いて近づいてきて、そのまま、

今何が起きた?
「じゃあね、またね、ばいばい」手を振り返しながら荷物を抱えて去っていく後ろ姿を見ていた。
えっ、えっ?何だったんだ今のは?

なんか髪の毛グシャグシャにされて、なんでって言ったら「ありがとうね」と言って、で、いやいやいや、、
なるほどこれは見つかったら面倒だよな〜、うん、これだね、うん、この香り、、じゃなくてイチゴの香りがして(若干脳がバグッている)、なんでってきいたら「お礼」と言って、

そうか。荷物を持っていったお礼ってことだな。なるほど分かった。そういうことね。
いや、ハグしてきただけだよ。友情のあかし。それだけだし。なんてことない。普通のことだよな?
あれ、「だいすき」って言った?言ってない?ああだめだ。バグってる…。

髪を直そうと後ろ頭に手を伸ばすとカサカサしたものに触れた。「なんだこれ」髪に絡まったのを外してみると、それは足の取れかけた蝉の抜け殻だった。それをパーカーのポケットにそっと入れた。
こんな時期に出てくる蝉がいるんだなあ。なんてな。
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