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2016年11月03日08:08

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【展覧会】クラーナハ展(国立西洋美術館)

今秋最も楽しみにしていた展覧会がついに始まり、わくわくしながら美術館へ。企画展示室は大体予想どおりの人の入り。空いているわけではないが、うんざりするほど混んでもいない。ものすごく静かで、みんな熱心に息を詰めて鑑賞している。好きな人だけが来ているのに違いない(笑)。
単眼鏡持参で1人で鑑賞している男性が多かったのは興味深い。小ぶりな作品が多いし、緻密だし、版画もあるし、単眼鏡があると確かに便利だが、どこに注目しながら鑑賞していらっしゃるのかが気になるところだ。

ドイツ・ルネサンスを代表する画家の1人であるルカス・クラーナハ(父)の作品は、地味で内省的で、突き放したような冷たさがある。
あまり理想化されていない(いや、もしかするとドイツ・ルネサンス的には、あるいはクラーナハ自身の趣味として、これがある種の理想だったのかもしれないけれど)女性の裸体画に私はエロティシズムみたいなものはまったく感じないが、イタリア・ルネサンスの明るく華やかで豪華な作品に登場するラテン系の豊満美女ではないからこそ魅力を感じるという人もいるだろう。
版画は、デューラーなどの作品も並んでいて、比較できるのが面白い。緻密さでいえばデューラーが圧倒的だが、逆に細かすぎて全体が暗い。クラーナハは特に遠くの景色や空の表現が簡潔で白い部分が多いので、全体的に明るい印象だ。

本展覧会の目玉は「ホロフェルネスの首を持つユディト」。長期間の修復を経て、とても色鮮やかだ。ユディトの髪が細くて繊細で美しい。彼女の衣装とアクセサリーはクラーナハの時代の最先端の流行だったのだろうか、豪華で個性的。そして・・・何よりも視線を釘付けにするのは、ホロフェルネスの血の気の失せた顔色、うつろな目、生々しい首の断面。陶器のように白くて滑らかな肌を持つ無表情なユディトよりも死んでいるホロフェルネスの頭部に体温を感じる、不気味でありながら立ち去りがたい不思議な作品だ

そのほかで面白いと思ったのは、ルカス・クラーナハ(子)によるザクセン選帝侯夫妻の肖像画「ザクセン選帝侯アウグスト」と「アンナ・フォン・デーネマルク」。夫妻の顔はバリバリに中世的なのだが、薄い色でシンプルに仕上げた背景がモダンであったり、真っ黒な衣装と服のふちを飾る金の刺繡が驚くほど写実的であったり。この絵の前に立っているうちに、あえて中世的な顔を描いた現代の作品を見ているような気がしてきた。

クラーナハは日本では見る機会がきわめて少ない。今回の展覧会でまとめて50点以上を鑑賞できたのは非常に有意義だった。
版画素描展示室で開催されていたモーリス・ドニの素描展も良かった。
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