また洗濯機が故障した。叩いても蹴っても、うんともすんとも言わなくなった。その日は朝から近くでカラスがうるさく鳴き不吉な感じがあったのだけど、それの死を予期していたならばなおさら気色悪かった。窓から外をのぞくと、前の電柱のてっぺんにカラスが
生年月日を伝えると、瞬時にそれの曜日を言い当てることのできる人がいる。まさしく超人的な能力で、ぼくには逆立ちをしても真似のできないことだ。いったい何がどうなって答えが導かれるのか皆目見当がつかず、ただただ不思議に思えて仕方がない。だから、
財布がないことに気が付いたのが、規模の大きな交差点をわたっている時だった。ジーパンの後ろポケットにあるはずの膨らみが存在せず、指先がやわらかな尻にしずんでいく。ぼくは歩道の中程で打たれたように立ち止まり、五差路のそれぞれに停滞する車から迫
ディズニーランドの閉園時間が迫っているときに、急に娘が「スプラッシュマウンテンにのりたい」と言い出した。 日中、散々これに乗ってみてはどうかと勧めたのだが、「長く待つのが苦痛だ」などと言って見向きもしなかった。にもかかわらず、この期に及ん
塩サウナと書かれた部屋があり、とくに知識を持たないまま扉を開けた。せまい通路が伸び、突き当たりに巨大な壺が泰然とあった。塩が山盛りになっている。何か説明書きがあるわけでもない。おそらくここから塩を適量すくったうえサウナ室へ入室せよ、という
ディズニーランドにつくと、とてつもない数の人に巻き込まれて身動きが取れなくなった。平日だから空いているでしょうといった安易な考えは、はち切れそうになった入場ゲートで早々に打ち砕かれた。 けっしてその魅力をあなどっていたわけではなく、むしろ
自転車のうしろに子どもを乗せ保育園へ向かう。その途中に材木をあつかう小さな町工場がある。いつも戸を開け放ってあり、通りから中の様子をのぞくことができる。そこでは70才くらいの老人がひとり、朝早くから仕事にいそしんでいる。子どもはそこで「おじ
二十歳くらいの頃、たかちんという知人が近くにいた。これが無精でだらしがなく、へらへらした男で、いわゆるポンコツとして侮られていた。たかちんは都内に住む祖母をあてに徳島から出て来て、2階の四畳を間借りすると、とたんに遊び呆けて夜遅くまで戻
掲示板にポスターがあった。何を告知しているものかは忘れた。ただ、ちょっと目を引くイラストがあり、ぼくたちは立ち止まってこれを眺めた。それはタマゴの殻が割れ、中から小鳥が誕生したといったイラストで、ゆるいタッチのものだった。でも、何故か口ば
インフルエンザの予防接種をうける列に並んだ。みんな黙り込んで前の人の後頭部を見ていたので、ぼくもそれにならった。ぼくの前はかなり太った男だった。首のうしろの肉が段段になってしまっている。ちょうど刈り上げたあたりから肉が盛りあがり、そこに糸
当時、彼は救いをもとめていた。彼のもとには連日のように不幸が舞い降りて、精神的にも肉体的にもへばっていた。風の強い日に2階の自室ベランダから物干竿が落下して、そこへたまたま出てきた階下の住人にぶつかった。頭部を負傷させ、30万円を請求され
鉄棒につかまり、ぶら下がった。棒を握る以外は力をぬいて宙で体を伸ばした。 てっきりそれを体が喜ぶと思っていたのだけれど、すこし具合が違うみたいだった。なぜか腰のあたりに妙な空白が生じてあり、なんだか心細い感じがする。それでも全身としてみ
嫁と姑のいさかいに巻き込まれ、身動きが取れなくなった。これまでは程よい距離感を保ち上手くやっていたのだけれど、住居の都合でよく顔を合わせるようになると途端に緊迫した。ぼくは妻から不満を聞き、母からも不満を聞くという板挟みの典型例をなぞるこ
昼前にバスに乗りこみ吊り革につまると、「おい、やくざが来たぞ!」と声がした。見やると、座席の老婆が身を乗り出してぼくを指差していた。その人差し指にはやたらと力が込められて、ぼくの顎下で反り上がり震えていた。「やくざ!やくざ!」。老婆のがな
あのふたりは付き合っているのではないか、という噂が流れてきた。女性の方は既婚者で幼い子どもがいる。ぼくの耳に入るくらいだからもうかなり前の話かもしれない。もしくは人目をはばからない、よほど大胆な交際をしているのかもしれない。 たしかに思い