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2018年11月10日22:59

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11月10日

 嫁と姑のいさかいに巻き込まれ、身動きが取れなくなった。これまでは程よい距離感を保ち上手くやっていたのだけれど、住居の都合でよく顔を合わせるようになると途端に緊迫した。ぼくは妻から不満を聞き、母からも不満を聞くという板挟みの典型例をなぞることになった。
 2人が同じ部屋にいると、ピリリと空気が張りつめて沈黙が重く肩にのしかかる。とても息苦しい思いをする。かといって、ぼくにその場を和ませる振る舞いができるわけもなく、ただターボにした加湿器をすがるように見つめた。
 日に日に妻の舌打ちが増え、母の眉間のしわが深くなる。ぼくの両耳はそれぞれの捌け口として利用され、憎々しい言葉で脳は汚染されていった。これを放置しておくとぼくまでおかしくなってしまう。どうにかこの状況を抜け出す方法はないかと考えたところ、お互いの味方になるというスタイルにたどり着き、実行した。妻の不満をきいているときには、「母は認知症がはじまっているから頭がおかしいんだ」と言い、母の不満をきいているときには「妻はもともと頭がおかしいんだ」と言った。するとこれを聞いた両者は分かりやすく喜び、有力な証言を得たかのように自分の主張に自信をもちはじめるにいたった。
 久々にふたりの顔面に光が差したことに気をよくしたぼくは、ますます顕著に人格を使い分け、両者にとって都合のいい言葉を並べ立ててその場の平穏に浴した。「むかし妻はガスコンロの取り扱いを間違えて小爆発に巻き込まれ、髪の毛を失ったことがある」。「むかし母はガスコンロの火が服に燃えうつったことがあり、慌てたぼくは何故か母にローキックを打ち込んでしまったことがある」。ふたりの失敗談は互いの胸にたやすく染み込み、気分を爽快にさせた。
 が、これは長く続くことはなかった。ぼくの言動に不自然なところがあったのか、あるいはこれが女の勘というものなのか、段々といぶかしむような視線がぼくに向けられた。彼女たちはぼくの話に飽きたように反応しなくなり、「あんたがしっかりしないからいけないんじゃないの」などと夫、長男としての責任を問われることが多くなってきた。たしかに都合がいいだけの話で問題を解決することはできない。やっているのはぼくが問題から逃れているだけにすぎず、ついに襟首をつかまれてしまったようだった。
 そしてこれがよくわからないのだけど、やがて二人は手を組んだようにぼくを攻撃するようになった。事あるたびにぼくを呼びつけて、4つの目でにらみつけ、ぼくのいたらなさについて長々と述べたてることをした。ぼくは首をかしげた。まるで何かを達成するために犬と猿が協力するという新しいことわざみたいな空間に自分はいる。いがみあっていたはずの2人が、ぼくを羽交い絞めにして腹を殴るという連携にいたったのはなかなか不思議な光景だった。
 この問題に解決というものはないかもしれず、もしかするとずっと続いていくのかもしれない。でも、だれか別の人が血を流すのを一緒に眺めることはできるんだなと思った。しかも血が多ければ多いほどいいような目だった。桃太郎はきび団子だけではなくその法則も利用したのかもしれないとふと思った。 

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