なろう小説(投稿オンライン小説サイト「小説家になろう」)で一番気に入っているのは「ティアムーン帝国物語」。主人公は物語を駆動するエンジンの役割をするため、読者の一番好きなキャラクター像から外れてしまうモノが多いが、この作品は作者の巧みな設定で「主人公=一番人気」をキープしている稀有な小説。
※以降、作品の基本設定に触れます。若干改行。
小心者で自分ファースト、そんなに頭も良くない。身分は高く、大帝国の皇帝の一人娘。いわゆる死に戻り系で、前回は革命によりこの皇女は幽閉され享年二十才でギロチンで処刑された。気がつくと、自分の十二才の時点、帝国が傾く前の時代に死に戻っていた。
前の人生のギロチン刑死の未来を回避するため、臣民にフレンドリーで、来たるべき飢饉に対しての万全に備え、この人生では心服した臣下と、深くつながった友人達の協力もあって、帝国だけでなく大陸全体の幸福に大いに貢献する女帝になる。
ティアムーン帝国物語の主人公「ミーア・ルーナ・ティアムーン」は「帝国の叡智」と呼ばれ、その評価は彼女の行動を外から見た観測からは全く正当。怠惰で有能な指揮官のように振る舞い、普段は周囲の言うままのイエスマンであるが、クリティティカルな局面では的確な判断で状況を好転させる。
外から見ると、完全な「叡智」の持ち主で、他人への物腰も大帝国の姫と思えぬほど礼儀正しく傲慢ではなく謙虚。有罪や過ちをした人物を厳しく断罪することはせず、なるべく穏便な処罰で済むように取り計らう。自分へ忠義な人物に正当に報いようとする。「叡智」のみならず「聖女」としても完全無欠に一見見える。
しかし、彼女の本質は死に戻り前と同じく小心者で自分ファースト、そんなに頭も良くない。この部分は読者にしか見えないが、地の部分ではこれでもかと強調される、本当は「ポンコツ」なのだと。彼女は、ギロチンで処刑された時間線だけは逃れようとする意図で必死にもがく、ただそれだけ。
ベルマン子爵とルウルウ族の抗争で内戦が勃発する直前、皇女の「わがまま」で部隊を引き上げさせ、その後、根本の原因を絶ったり、刑死した前の時間線では、大飢饉→革命→ギロチン処刑となる発端の、大飢饉が起こる構造を、ミーア学園(これも彼女が創建する)の研究者二人に「寒さに強い小麦」の発見・育成を託したり、大洋を隔てた大陸からの小麦の輸送ルート維持に一定額の支出をしたりと、来たるべき「飢饉」を未然に防ぐ事に感心するぐらい綿密に手を打つ。自分だけのために打った手が(作者という神の助力で)偶然にも悉くうまく働く。
彼女は、表だっての英雄的活動ではなく、「未然に」不幸が起こる構造に接すると、偶然と人徳でその不幸の構造を、未然にたたき壊す。
これは、常に後手に回り、殺人事件を未然に防ぎ得ず、事件の構造・因習の解説者に終始する名探偵・金田一耕助(横溝正史)とは、対極を成す。
有名にもなりたくないのだが、彼女に心酔するメイド・アンヌの妹、作家として名を成すエリスの誤解を多く含んだ「ミーア伝」のおかげで「名君」扱いされ、それを迷惑がっている。
「ポンコツ」を強調する作者の意図は、ミーア姫という人物に対し読者が好感をもち続けるように、「偉人」に対しては感心はするが好感は小さいことを見越した主人公の人物設計である。
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