mixiユーザー(id:1795980)

2024年05月12日07:05

20 view

からだの美[読書日記986]

題名:からだの美
著者:小川 洋子(おがわ・ようこ)
出版:文藝春秋
価格:1,600円+税(2023年3月 第一刷)
----------
マイミクさんお薦めの小川洋子さんのエッセイを読みました。
帯の惹句を引用します。
“魂は身体の細部にこそ宿る
 隠された美を掬い取り、やわらかに照らし出す。
 極上の随筆16篇。”

目次は次のとおりです。
----------
 外野手の肩
 ミュージカル俳優の声
 棋士の中指
 ゴリラの背中
 バレリーナの爪先
 卓球選手の視線
 フィギュアスケーターの首
 ハダカデバネズミの皮膚
 力士のふくらはぎ
 シロナガスクジラの骨
 文楽人形遣いの腕
 ボート選手の太もも
 ハードル選手の足の裏
 レース編みをする人の指先
 カタツムリの殻
 赤ちゃんの握りこぶし

----------
印象に残った文章を引用します。

【ミュージカル俳優の声】から、ジュウシマツの歌の研究について。
“生物学的に言葉の起源を探るため、ジュウシマツの歌を研究している岡ノ谷一夫先生のご本を読むと、彼ら歌にどれほど健気な努力を注いでいるかが分かって興味深い。ジュウシマツのオスはメスに選んでもらうため、より複雑に歌を、長く、綺麗な声で歌おうとする。父親から教えてもらった歌を記憶し、アレンジしながら練習に励む。他の小鳥たちのさえずりに邪魔されない、自分だけの孤独な世界を確保し、技術の上達に努め、いざという時、つまり求愛の時に備えるのだ。”(14p)
 ⇒“言葉の起源を探るため、ジュウシマツの歌を研究”とは。そんな研究をしている方がいらしたのですね。

【棋士の中指】から、羽生善治九段の考える将棋とチェスの違い。
“チェスと将棋はインドで生まれたゲームを共通の祖先にしているらしい。ただ、チェスは盤の枡目が八×八なのに対し、将棋は九×九で十七枡多い。世界大会で活躍するほどチェスにも精通している羽生善治九段は、詩人・吉増剛造との対談の中で、二つの盤の違いについて興味深い発言をしている。
「八×八というのは中央が、中心がないんです」(『盤上の海、詩の宇宙』河出書房新社)。
 つまり将棋盤は、中心を持っているのである。駒の種類や動き方やルールの違いから、二つのゲームの特性を考えるやり方は普通だが、中心を持っているかいないか注目する人は多いのだろうか。”(21p)
 ⇒羽生善治九段はチェスでも国内屈指の強豪と聞いています。ボードゲームに対する感覚が抜きん出た棋士なんでしょうね。

【力士のふくらはぎ】から、初代:貴ノ花の魅力。
“昭和四十七年、初場所、八日め。横綱北の富士対関脇貴ノ花の結びの一番を、私は今でもはっきりとよみがえらせることができる。十秒足らずのあっという間の一番だった。しかしその一瞬一瞬に、貴ノ花という力士の魅力がすべて詰まっていた。それは九歳の子どもにも十分伝わってきた。”(65p)
 ⇒私もこの一番はテレビで観ていました。子ども心ながら、貴ノ花の凄さが分かりました。

【文楽人形遣いの腕】
“現代の文楽では、主要な登場人物の人形は、中心になる主(おも)遣いと、左遣い、足遣いの三人で扱われる。「足の修行が十年、左の修行が十五年」と言われ、一人前の主遣いになれるのはそれから、という世界である。”(82p)
 ⇒文楽はテレビで観ただけですが、そんなに長期間の熟練を要する世界だったんですね。

【カタツムリの殻】
“ここからカタツムリは巻の数を増やし、殻を大きくしてゆく。殻の内側に接する外套膜という器官から殻の成分が分泌されて、少しずつ成長する。カタツムリの仲間は世界に約三万三千〜三万五千種類、そのうち日本には約八百種類が生息しているらしいが、それぞれが異なる色や形や模様の殻を持っている。”(112p)
 ⇒子どもの頃、カタツムリを飼っていましたが、日本に八百種類もいるとは知りませんでした。

作家の観察眼の鋭さと、まなざしの柔らかさを感じた名エッセイでした。

---------- ----------
小川 洋子(おがわ・ようこ)
1962年岡山市生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業。88年、「揚羽蝶が壊れる時」で第7回海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」で第104回芥川賞を受賞。2004年、『博士の愛した数式』が第55回読売文学賞、第1回本屋大賞を受賞。同年、『ブラフマンの埋葬』で第32回泉鏡花文学賞、06年、『ミーナの行進』で第42回谷崎潤一郎賞を受賞。07年、フランス芸術文化勲章シュバリエ受賞。13年、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、20年、『小箱』で第73回野間文芸賞を受賞。21年、第69回菊池寛賞を受賞。同年、紫綬褒章を受章。他の著書に『密やかな結晶』『原稿零枚日記』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』『いつも彼らはどこかに』『約束された移動』『遠慮深いうたた寝』『掌に眠る舞台』などがある。
1 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2024年05月
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031