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2024年03月17日07:43

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ねじとねじ回し[読書日記978]

題名:ねじとねじ回し――この千年で最高の発明をめぐる物語
著者:ヴィトルト・リプチンスキ(Wiltold Rybcznski)
訳者:春日井 晶子(かすがい・あきこ)
出版:早川書房
価格:1500円+税(2003年7月 初版発行)
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図書館の『科学の本』特集で見つけました。
著者は米国のペンシルベニア大学の教授です。

表紙裏の惹句を引用を引用します。
“ねじとねじ回しの起源を探りながら、著者は甲冑や火縄銃史への脱線を楽しみつつ、ねじにまつわる技術を精密化し、標準化し、改良した天才技術者たちの姿を鮮やかに謳いあげる。技術史の風変わりな一面を見事に切り取った、探偵小説のように愉しい歴史物語”

目次は次のとおりです。
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 第1章 最高の発明は工具箱の中に?
 第2章 ねじ回しの再発見
 第3章 火縄銃、甲胄、ねじ
 第4章 「二〇世紀最高の小さな大発見」
 第5章 一万分の一インチの精度
 第6章 機械屋の性
 第7章 ねじの父

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印象に残った文章を引用します。

【第1章 最高の発明は工具箱の中に?】《この一〇〇〇年で最高の発明》から、新聞の編集者から「この一〇〇〇年で最高の発明について、エッセイを書いて欲しい」と頼まれた時の著者の頭の中。
“私は頭の中で想を練りはじめた。ものすごい数の選択肢だ。ペーパークリップ、万年筆、眼鏡。そういえば最近、ペンシルベニア・アカデミー・オブ・ファイン・アーツで、丸い眼鏡をかけたベンジャミン・フランクリンの肖像画を見たけれど、フランクリンといえば遠近両用眼鏡の産みの親だったっけ。”(10p)
 ⇒この一文を読むだけで、著者の造詣の深さが分かります。

【第3章 火縄銃、甲胄、ねじ】《甲冑の歴史へ脱線》から、著者がメトロポリタン美術館で目撃したこと。
“メトロポリタン美術館の火縄銃が展示されている小部屋は、武器と甲冑を展示する大部屋につながっている。銃を調べた後、私は甲冑を見ることにした。(略)
 私はある展示ケースの前で立ち止まった。実用的な黒ずくめの装具一式だが、べつに中世騎士物語の主人公エスプランディアンのものというわけではなく、よくある手だが、錆びないように黒く塗ってあるだけなのだ。くちばしのように尖った兜には、目の部分に細い穴が開けられている。「すごいや!」隣にいた男の子が、友達に声をかけた。「ダースベイダーみたいだ」”(65p)
 ⇒話が逸れますが、ダースベイダーという悪役を生み出したジョージ・ルーカスは素晴らしいですね。

【第5章 一万分の一インチの精度】《趣味としての旋盤いじり》から、一五世紀後半に書かれた『中世の暮らし』という本(図版)について。
“なぜだか理由はわからないが、『中世の暮らし』の旋盤が秘めた可能性に、世の人々はすぐには気づかなかった。おそらく、無名の発明家は自分の旋盤を宣伝しなかったのだろう。(略)
 それでも、少なくともレオナルド・ダ・ヴィンチはこの、旋盤という革新的な道具について知っていたようだ。というのは、1500年代の初めに彼が描いたといういくつものねじ用機械のひとつが、右で紹介した初期のものに驚くほどよく似ているからだ。”(103p)
 ⇒「さすがダ・ヴィンチ!」と思いました。

【第6章 機械屋の性】《技術者か? 芸術家か?》から、優れた技術者の矜持について。
“鉄と性(しょう)が合うというのは才能であり、音楽家が絶対音感を持つのと同じことだ。これまで紹介してきた技師たちは芸術家としての矜持を持っていた。クレメントは一度、大型の基準ねじを「可能なかぎり最高の方法で」製作してほしい、という注文を受けたことがある。彼は並ぶものがないほど高精度のねじを製作し、代金として数百ポンドを請求した。せいぜい二〇ポンドと見積もっていた米国の依頼主はショックを受けてしまった(この件は裁判になり、依頼主が負けた)。”(122p)
 ⇒金持ち(依頼主)におもねらない、公正な裁判官です。

【第6章 機械屋の性】《ねじの原理を遡る》から、グーテンベルクが発明した印刷機について。
“中世では、ねじは印刷機にもっとも広く使われていた。ヨヘネス・グーテンベルクは1400年代半ばに、活版印刷術の発明で重要な役割を果たしたが、残念なことに彼が作った印刷機がどんなものだったのか、今ではわかっていない。史料に残る最古の印刷機は、それから五〇年ほどのちのものなのだ。”(127p)
 ⇒グーテンベルクの印刷機が残っていないとは意外でした。図版はあると思っていました。

【第7章 ねじの父】《ユーレカ! ユーレカ!》から、アルキメデスが発明した防御用の武器について。
“ダ・ヴィンチやラメッリのように、アルキメデスも軍事技術者として働いた。
 シラクサ包囲網の際には、防御用の武器の製作を要請されて、二〇〇キロもの重さの岩を飛ばす弩(いしゆみ)や、水中に仕掛けて船を転覆させるための複雑な装置を設計した。
 もっとも有名な武器は集光鏡で、鏡に太陽光線を集め、敵の船に焦点を合わせて火をつける仕掛けだった。たんなる面白い伝説と考えられてきたこれらの発明の実用性を証明しようと、ギリシアのイオアニス・サカスという技師が1973年に実用模型を作った。青銅をコーティングした鏡七〇枚を使い、船の形に切ってタールを塗ったべニア板に焦点を合わせた。すると、古代の文献にある「矢の届く距離」である五〇メートルの距離では、わずか数分でべニア板に火がついたのである。”(152p)
 ⇒蛇足ですが、サブタイトルの《ユーレカ!》は、アルキメデスが公衆浴場でひらめいた時に叫んだ「わかった!」という意味です。

著者は大学で都市学を教えているそうですが、私たちが日ごろ使っている道具に関して造詣が深く、大工道具を使って自宅を建てたそうです。
そんな著者だからこそ、道具の歴史を丁寧に紹介する面白い本になったのだと思いました。

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ヴィトルト・リプチンスキ(Wiltold Rybcznski)
ポーランド系の両親のあいだに、エディンバラに生まれる。現在ペンシルベニア大学マーティン&マージ・メイヤーソン都市学教授。『心地よいわが家を求めて』をはじめとする、建築・住宅から技術文化一般までを扱った著書多数。

春日井 晶子(かすがい・あきこ)
東京外国語大学卒、英米文学翻訳家、訳書に『8月11日の英雄たち』『科学が死体に語らせる』『だれもあなたのことなんか考えていない』(以上小社刊)
『なぜ、「あれ」が思い出せなくなるのか』ほか多数。

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