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2024年02月25日07:37

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街場の米中論[読書日記975]

題名:街場の米中論
著者:内田 樹(うちだ・たつる)
出版:東洋経済新報社
価格:1600円+税(2023年12月 発行)
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内田樹さんの「米中論」を読みました。

表紙裏の惹句を引用します。
“アメリカにはアメリカの趨向性(あるいは戦略)があり、中国には中国の趨向性(あるいは戦略)がある。それを見分けることができれば、彼らが「なぜ、こんなことをするのか?」、「これからどんなことをしそうか?」について妥当性の高い仮説を立てることができる。それがこれからこの本の中で僕が試みようとしていることです。――「第1章」より”

目次は次の通りです。
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 はじめに
 第1章 帰ってきた「国民国家」時代の主導権争い
 第2章 自由のリアリティ
 第3章 宗教国家アメリカの「大覚醒」
 第4章 解決不能な「自由」と「平等」
 第5章 ポストモダン後にやってきた「陰謀論」時代
 第6章 「リンカーンとマルクス」という仮説
 第7章 国民的和解に向かうための「葛藤」
 第8章 農民の飢餓
 第9章 米中対立の狭間で生きるということ
 おわりに

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印象に残った文章を引用します。

【第2章 自由のリアリティ】から、カウボーイという職業が期間限定的な職業だったこと。
“西部で大規模な牧畜事業が始まっており、大量の牛肉を消費する都市住民がおり、かつまだ鉄道が整備されていなかったので牛を連れて数千キロの旅をしなければならなかった……という三つの条件をすべて満たすのは、おおよそ南北戦争が終わった1865年から、大陸横断鉄道が敷設されて「フロンティアの消滅」が宣言される1890年までの25年間です。カウボーイというのはその意味で「期間限定的」な職業だったのです。”(63p)
 ⇒「25年間」といえば、私の社会人生活の期間より短いので、意外でした。

【第4章 解決不能な「自由」と「平等」】から、「ヒポクラテスの誓い」と現在のアメリカにおける医療体制について。
“医療者は患者の貧富の差によって診療内容を変えてはいけないというのは古代ギリシャの医聖ヒポクラテスの誓言の一条でした。(略)
 でも、ヒポクラテスの誓いは必ずしも現代の常識ではありません。医療とは高額なサービスであるから、それを購入できるだけの資力のある人間以外に受ける資格はないという主張はアメリカではいまでも根強くはびこっています。医療先進国であるにもかかわらず、アメリカが感染初期に世界最悪の感染者数と死者数を出したのはそのせいです。”(92p)
 ⇒コロナ禍の初期にアメリカで多数の感染者が出たのは、当時のトランプ大統領の無策ゆえだと思っていたのですが、アメリカ人の国民性も背景にあったのかもしれません。

【第6章 「リンカーンとマルクス」という仮説】から、マルクスが南北戦争前の北部アメリカに影響力を持っていたのではないかという仮説。
“マルクスはアメリカとは浅からぬ関係があります。『ニューヨーク・トリビューン(New York Tribune)』という当時ニューヨーク最大の新聞がありました。その編集者のホレス・グリーリーが1852年にロンドンのマルクスに彼の新聞のロンドン特派員のポストをオファーしたのです。(略)
 経済的に窮迫していたマルクスはこのオファーを快諾し、52年から61年まで、『ニューヨーク・トリビューン』に400本を超える記事を寄稿しました。いくつかは社説として掲載されました。(略)
 つまり、南北戦争の直前の10年間アメリカの知識人たちは10日に1本のペースでマルクスの書いた政治記事を読んでいたことになります。これが南北戦争前の北部の世論形成に無関係であったとは思われません。”(136p)
 ⇒大胆な、しかし根拠を示した仮説です。

【第8章 農民の飢餓】から、「日本人の趨向性」と「中国人の思想」について
“われわれ日本人は「種族の思想」として「ややこしい問題は先送り」というソリューションを好みます。中国人は「辺境は帰属があいまいでも別に構わない」という別の「種族の思想」を持っています。その二つが(もともとはまるで別のものなんですけど)、なんとなくなじんで、国境問題が緊急な外交問題になることをとりあえず回避できた。”(200p)
 ⇒中国という大国から見れば、日本は辺境ということなんですね。ちなみに著者の『日本辺境論』も面白い本でした。

【第9章 米中対立の狭間で生きるということ】から、日本人の好む楽観的な考え方について。
“1930年〜1940年代の日本では、「すべての作戦が成功すれば皇軍大勝利」というタイプの「多幸症的」なシナリオを起草する陸軍参謀たちが累進を遂げて、「プランAが失敗した場合のプランB」を起草するようなタイプの人は「敗北主義者」として追放されました。そのせいで日本は歴史的敗北を喫したのです。
 しかし、その教訓から日本人は何も学ばず、いまも「敗北主義が敗北を呼び込むのだ」というロジックは日本のいたるところで日々口にされております。”(233p)
 ⇒会社という組織でも、根拠のない楽観的な観測で、上司受けのいいプランを立てる人が好まれる傾向があると思います。

「それぞれの国には趨向性がある」という著者の仮説は、説得力がありました。
日本の趨向性は“多幸症的”“問題の先送り(長期的視点に欠ける)”“情に厚い(逆に言えば、つけこまれやすい)”という感じでしょうか。

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内田 樹(うちだ・たつる)
1950年生まれ。思想家、武道家、神戸女学院大学名誉教授、凱風館館長。
著書に『ためらいの倫理学』(角川文庫)、『寝ながら学べる構造主義』(文春新書)、『死と身体』(医学書院)、『街場のアメリカ論』(NTT出版)、『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書、第6回小林秀雄賞受賞)、『街場の中国論』(ミシマ社)、『日本辺境論』(新潮新書、新書大賞2010受賞)、『街場の天皇論』(東洋経済新報社)、『属国民主主義論』(白井聡氏との共著、東洋経済新報社)、『レヴィナスの時間論』(新教出版社)、『コロナ後の世界』(文藝春秋)など多数。2011年4月に多ジャンルにおける活躍を評価され、第3回伊丹十三賞受賞。

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