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2024年02月18日09:35

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方形の円 - 偽説・都市生成論

ギョルゲ・ササルマン

その名前を知ったのは別冊宝島[世紀末キッズのためのSFワンダーランド](88年)に掲載のコラム、大森望による[SF見栄講座]。『「で、きみはどんな作家が好きなの?」というマニアの斜にかまえた質問に、「はい、メシュテルハージ・ラヨシュやギョルゲ・ササルマンです」と答えてど肝を抜く』だった。ラヨシュの方は忘れていたがササルマンの方は何故か記憶に残った。それが先日訪問した書店のSF文庫棚にその名前を見つけたのだった。

ギョルゲ・ササルマンはブカレスト出身の作家、本書は同時期に構想された[見えない都市]と並び称されルーマニアのカルヴィーノとも呼ばれるそうな。ル・グインが愛し英訳を手掛けたという。確かにこんな作家が好みだと言えばマニアを撃退できるだろう。本書以外では短編が邦訳されているそうだが書籍にはまとまっていないよう。大森望は本書を指して言ったのか。

本書は36の断章からなる。ストーリーらしきものはない。空想都市をこしらえて、一つづつさまざまな切り口で描いてみせる。すべて真顔だ。一部引用してここで記しても全体の雰囲気は伝わるまい。似ていると言えば、[見えない都市]は読んでいないが、カルヴィーノ[レ・コスミコミケ]のようにふざけていないし、[ブラッドベリは歌う](歌おう、感電するほどの喜びを!)のようなホラーっぽさはない。先の円城塔では少々のおふざけも感じられたがここにはない。全体的にファンタジーっぽいのだがどこにもオチはない。何にも似ていない、なんだかゾワゾワするという意味では岡本太郎の芸術作品に近いのかもしれない。

著者は建築学校を卒業しており、戦後は共産党中央機関紙で建築・都市計画のコラムを受け持つかたわら、SF作品を発表したのだそうだ。そんな人の空想都市論とは。日本の建築家で都市計画にも参加する方はあるだろうがこんな本は書いてはいまい。wikiによると存命のようで日本語版に寄せた序文の中で「星新一、小松左京、筒井康隆を擁する文学空間に..」と記している。また丹下健三や磯崎新、三船敏郎や黒澤明、歌麿に北斎、井上靖に清少納言と言及しており、訳者を通じてか日本文化にも造詣が深いことを匂わせる。ただのインテリではない。
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