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2024年01月30日13:43

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映画「カラヴァッジョの影」

京都ヒストリカ映画祭の最終日(1月28日)に見ました。

イタリアの画家カラヴァッジョの伝記映画。これまでにも何回か映画化されているが、これは2022年作の最新作。

 時は1609年、乱闘の末、刃物で顔を傷つけられて重傷を負い、貧民窟に身体を横たえる男。晩年のカラヴァッジョである。
 バチカンの法王庁で、法王と向き合う黒服の男。「死刑判決を受けて逃亡中のカラヴァッジョに恩赦の嘆願がある。恩赦に値するかどうか、この男の前科についてすべてを調べ上げて報告せよ」そんな特命を受けて、その男「影」は、バチカン領内の各地を巡る。

 まずは、カラヴァッジョの父の使えた領主であり、カラヴァッジョの最大の支援者でもあるコロンナ侯爵夫人の元へ。彼女は、どんな質問にも怯まず、カラヴァッジョの芸術家としての才能だけでなく、その人物がいかに優れているかを語る。
 実のところ、彼は札付きの問題児だった。名のある画家の工房で花や果物などを担当するが、工房の主に「自分の描いた絵は自分のものだ」と反発し、絵を持って飛び出す。カソリックの教会に通いつつ、そこに集まる下層の人々、犯罪者や娼婦と知り合い、彼らをモデルに宗教画を描く。気に入らない相手と喧嘩沙汰になることも数知れず。何度も訴追されては投獄され、コロンナ侯爵夫人を始めとする支援者のおかげで助かり、また多くの教会から教会画の依頼を受けていた。

 彼の描く宗教画はそれまでのものとは大きく違った。血が滴り、涙を流し、生きて体温のある人物を描きだす。その傑出した画才を誰もが認めながら、下賤の者をモデルにしたということで難癖もつけられた。「影」は、カラヴァッジョを知るさまざまな人物から彼を擁護する意見を聞きながら、彼の絵だけは許せない、神への冒涜だと断じる。
法王も同じ考えだった。ある教会のために描いた絵を「教会にふさわしくない」と納入を拒否。
 そんな折、かねてから対立していたローマのゴロつき、ラッツイオ兄弟と喧嘩になり、テニス場で4対4の決闘となる。そこでカラヴァッジョはラッツイォを殺害してしまい、殺人罪で死刑を宣告されるが、支援者のおかげでローマを脱出、シチリアを経て、マルタ島まで逃げ延びる。行く先々でも画家としての注文は絶えることなく、支援を受けて絵を描き続け、ついにはマルタで騎士の称号まで授かる。そして、バチカンへ恩赦を求めるという流れとなったわけだ。
 「影」は、使者を使って「恩赦状」と通行許可をカラヴァッジョに届けさせ、カラヴァッジョは船で本土に上陸する。港に待ち構えていた「影」は、その恩赦状はカラヴァッジョをおびき出すための偽物だったことを明かし、本当に恩赦を受けたければ、絵を描くことをやめよと告げる。「お前の絵は神を冒涜するものだ」というのが理由だ。カラヴァッジョは当然、そのような要求を拒絶。「影」はカラヴァッジョを殺害し、その亡骸は海に投げ捨てられた。

 この映画の上映の後、カラヴァッジョ研究の第一人者、神戸大学の宮下喜久朗氏の解説があった。これが何とも素晴らしくて、映画もおもしろかったけれど、それと同じくらい解説も聞き応えがあり、大満足であった。

 まず、カラヴァッジョはイタリアで今、一番人気のある画家。20世紀まではあまり評価されていなかったが、現在はカラヴァッジョ研究がとても盛んで、つぎつぎと新事実が明らかになっている。
 過去に作られた映画は、まるで事実を無視して美化されていたり、デレク・ジャーマン監督の思い入れで同性愛者であったことにされたり(実際は両性愛者っぽい)、イケメンすぎたり、かなり問題があった。今回の作品は「影」が登場するミステリー仕立てであると知り、ひょっとするとこの「影」は、善悪両面を持つカラヴァッジョの「善」の部分を照らし出すドッペルゲンガーなのではないかと大いに期待していたが、とんでもない、「影」は、芸術というものがまったくわかっていないダメな奴でがっかりした。これをドッペルゲンガーとして描いたら最高傑作になったのかもしれないのに。
 彼の逃亡のきっかけとなったラッツィオ殺害のシーンは、今まででいちばん事実に近い形で描かれていたと思う。またコロンナ侯爵夫人と男女の関係があったような描き方は、年齢差から見てあり得ない。カラヴァッジョの父の仕えていた領主の妻だから、カラヴァッジョにとっては母親みたいなものだったはず。
 また、カラヴァッジョの絵が「神を冒涜する」という理由で排除されることはあり得ない。そのころはルターの宗教改革に対抗して、カソリックの中でも宗教改革があり、カラヴァッジョの描いた絵はむしろその方針にあったもの。だから、バチカンでも歓迎されていた。そもそも法王が一般の教会の絵を見て意見を言うなんてこともあり得ない話。この映画では、残念ながら、こういった最新の研究成果が生かされていない。
 これ以外にもたくさんのエピソード、映画の背景に関する知識が披露されて、映画の理解が何倍も深まりました。

 さらに、これまでに日本で開催されたカラヴァッジョ展についてもいろいろ語られ、今、日本で見られる作品があるんですよ、と耳よりの情報が。
「今、福岡市美術館で開催されている「永遠のローマ展」で「洗礼者ヨハネ」が展示されています。これ、日本初公開で福岡だけなんで、僕もこの間行ってきたました。でも、ぜんぜん知られていない。僕以外、誰もいなくて、一対一でカラヴァッジョと対面してきました」ということでした。これを聞くと行ってみたくなりますね。


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