（読書）『ふしぎなキリスト教』（橋爪大三郎/大澤真幸著：講談社現代新書）（その６）

私がmixi日記に読書感想文を投稿するときは、１冊の本につき１件の日記に対応させて作成するようにしていたが、この『ふしぎなキリスト教』は、本当にケタ違いに面白い。このため、１件の日記には収まらない。そこで、数回に分けて感想文を記述してきた。この日記は、その第６弾で、最終回である。

（１２）本書のＰ318には、キリスト教が資本主義的な貨幣経済とか市場を成立させるドライブになっていることが指摘されているが、では、なぜイスラム世界には近代的な資本主義が出てこなかったのか、という問題提起がなされている。なぜこの問題が不思議なのかというと、イスラム教の創始者であるムハンマドは商人だったのである。しかも、商業が盛んになるには、取引の正義や公正が重要視されるはずである。イスラム教の経典であるクルアーンには、商人にとっての正義や公正性が洗練されて表現されているようなところがたくさんあるという。だから、イスラム世界から資本主義が勃興してもなんら不思議はないはずだと思えるのである。

　この問題に対する本書の考え方を、私の見解も交えて展開すると、こうなる。まず資本主義は、商業だけでなく、製造業があたかも車の両輪のように相互に助け合って成長していくものなのではないだろうか。つまり、製造業だけでは資本主義は育たないし、商業だけでも資本主義は育たない。ところが、イスラム世界の人々はモノを作ることが下手だという（Ｐ334）。本書では、イスラムの世界は徹底した一神教の世界で、偶像崇拝を徹底的に退けるため、モノにスピリットを認めようとしない。日本の場合だと、人間のように動くロボットに「ももえちゃん」のような愛称をつけて大事にする文化がある。愛玩用の犬のロボットなども開発されている。このあたりにイスラム世界で資本主義が育たない理由の一つがありそうだ。

（１３）本書のＰ330に、日本人の考える無神論とは、神に支配されたくないという感情のことだと述べられている。この指摘は非常に興味深い。さらに、同じＰ330に、「日本人は主体性が大好きで、努力が大好きで、努力でよりよい結果を実現しようとする。その努力をしない怠け者が大嫌いで、神まかせも大嫌い、と考える人びとなのです」と書かれている。この橋爪氏の見解には全面的に賛同するが、ここで私が注目したいポイントは、日本人が好きな「主体性」と、英語でいう「アイデンティティ」とはどう違うのかという問題である。この問題の解決のヒントになり得る考察は、本書にはほとんど書かれていないように見える。

　おそらく日本人の好きな「主体性」は、信仰心がなくても成立しうる性質のものなのではないだろうか。一方、「アイデンティティ」は、信仰心、それも「態度（attitude）に基づく信仰心」と不可分の関係があるように思う。もし日本に信仰の土壌がないのであれば、日本にアイデンティティは育たないと見ていいと思う。

（１４）本書のＰ336に、「日本人は法の支配というものがよくわかっていない」ということが述べられている。これも、日本人にはアイデンティティが弱いということと関連していると思う。逆に、では西欧のキリスト教文明圏の人間は、法の支配とは何かが分かっているのだろうか。おそらくこの問いの答えは「イエス」となろう。では、なぜ西欧のキリスト教文明圏の人間は、「法の支配」というものに慣れているのかと言うと、やはり、キリスト教的一神教に歴史的に慣れてきたから、ということが関係しているように思う。

【関連項目】

（読書）『ふしぎなキリスト教』（橋爪大三郎/大澤真幸著：講談社現代新書）（その１）

https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1986788542&owner_id=3879221

（読書）『ふしぎなキリスト教』（橋爪大三郎/大澤真幸著：講談社現代新書）（その２）

https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1986794767&owner_id=3879221

（読書）『ふしぎなキリスト教』（橋爪大三郎/大澤真幸著：講談社現代新書）（その３）

https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1986808476&owner_id=3879221

（読書）『ふしぎなキリスト教』（橋爪大三郎/大澤真幸著：講談社現代新書）（その４）

https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1986815164&owner_id=3879221

（読書）『ふしぎなキリスト教』（橋爪大三郎/大澤真幸著：講談社現代新書）（その５）

https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1986822010&owner_id=3879221