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2024年01月10日18:05

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【新しい夜明け】映画『PERFECT DAYS』

 
2023年12月29日(金)、高の原で昼回鑑賞。大阪より1週遅れの初日、観客90人以上!

公式 https://www.perfectdays-movie.jp


(予告編は配給会社が手配します。作品の切り取り方の違いを見比べると面白いです)

【NEONの予告編 1:44】 https://youtu.be/QzZBbX5A1FA


【The Match Factoryの予告編 1:50】 https://youtu.be/HTgWYojq-z8


【ビターズ・エンドの予告編 1:04】 https://youtu.be/YxQoZL67gmk




東京スカイツリーのお膝元・墨田区で、古ぼけたアパートに住む初老の男・平山。
彼は独り者だ。珍しいメゾネット型賃貸住宅の角部屋2階で寝起きしている。

朝まだ暗い頃から神社の外回りを掃き清める竹箒の音が、平山の目覚まし時計だ。
アパートの壁は薄い。そして、平山が寝ている煎餅布団も薄い。(体が痛そう)
すっきり整頓された質素な和室には、本と音楽カセット、楓の盆栽?が沢山ある。

平山は布団をきちんと片付け、身支度を整え、玄関に並べた小物をポケットに入れて
家の向かいの自販機でコーヒーを買う。銘柄は「BOSS」。笑 家の鍵はかけない。

(追記 : 平山の家は昔の「押し鍵」。プッシュして締めると鍵がかかる仕組み)
 https://cinemore.jp/jp/news-feature/3293/article_p4.html#ap4_1


アパート前に停めた青いライトバンに乗ってコーヒーを飲み、仕事に出発する。
複雑な立体交差を走り抜けた頃、朝日が差してくる。平山はカセットテープをかける。
平山の選曲は渋い。彼はかなりの音楽マニアだ。その日の気分で聴く曲を変えている。
(さすがは『パリ、テキサス』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の監督!)

アニマルズ「朝日のあたる家」をかけ、朝日を浴びて走る平山はカッコよかった。
ハードボイルドな西部劇みたいだった。 https://youtu.be/RsABMDuV5BM



平山の職場は渋谷区の公衆トイレだった。どれも斬新でハイテクなデザイン建築だ。

◆「THE TOKYO TOILET」プロジェクトについて
 https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/01360/

しかし、平山が担当する贅沢な公衆トイレは、決まって無惨に汚されていた。
(余談だが、最近利用した東名高速や名神高速のトイレは、どこも綺麗だった)

トイレはゴミの山。しかもファストフード等のゴミ!思わず利用者の民度を疑った。
実際、トイレ利用者たちの態度は悪かった。
サラリーマン、女子高生、観光客など、いろんな属性の人がトイレを訪れていた。
彼らは「トイレ清掃中。ご協力をお願いします」の看板を無視してズカズカ侵入し、
作業中の平山が気を利かせてサッとトイレから出てきてくれても、すれ違いざまに
冷たく一瞥するだけで会釈もしない。まるで汚物のように平山を見下していた。

トイレの前で幼い男児が泣いていた。迷子だ。平山はすぐ作業を止めて駆け寄り、
「大丈夫だからな」と子供を優しく励ましつつ、手を繋いで交番へ行こうとした。
そこへ、子供を探す若い母親が来た。彼女は作業服姿の平山を見るなり走り寄って
子供を引ったくり、ベビーカーから除菌ウェットを出して息子の手を拭き取ると、
平山に目もくれず、もちろん一言の礼も述べず、そそくさと立ち去った。
不作法な親に連れて行かれる男児は振り返って手を振り、平山は微笑みを返した。



平山は昼休憩をいつも神社で過ごす。大きな楓の木の向かいが彼の指定席だった。
コンビニのサンドイッチを食べながら木を見上げ、風にそよぐ木漏れ日を楽しむ。
食事が終わるとコンパクトカメラで木漏れ日を撮る。今どき、モノクロフィルムで。

平凡な日常の中に、一期一会の煌めきがある。その瞬間を、感動を、記録したい。
光と穏やかに戯れる平山は、幸せな微笑みを浮かべていた。

楓の根元に芽吹きを見つけると、いつもそうしているらしく、禰宜に身振りで断り、
大切に持ち帰って茶碗に植えていた。ああ、だから葉水だけなのか…と思った。

朝が早い分明るいうちに帰宅する平山は、自転車で銭湯へ行き、一番風呂を浴びる。
さっぱりした後は、また自転車を走らせ、浅草駅地下街の居酒屋で晩酌をする。
黙って座れば「おかえりー」と、温かな労いの声と共に、いつもの酒が出てくる。
1日の終わりは寝床で本を読む。下町の窓からは、スカイツリーの輝きが見える。
これが平山の規則正しい平日ルーティンだ。



休日のルーティンは違っていた。
日が昇ってから起き、ちぎった濡れ新聞と箒で部屋を掃除する。懐かしい作法だ。
次に溜まった洗濯物を大きなバッグに詰め、自転車に乗ってコインランドリーへ。

洗濯の間、まず写真屋に行く。写真を引き取り、現像に出し、フィルムを買う。
店主とは古馴染み、無言のまま阿吽の呼吸でプリントとフィルムを受け渡しする。
次に、古本屋で100円の文庫本を1冊買う。店主がいつも気の利いたことを言う。
そしてコインランドリー向かいのスナックに顔を出す。色っぽい美人ママの店だ。
口下手な平山はちょっとママが気になるらしい。ママに世話を焼かれて照れていた。
(石川さゆりが歌う「朝日の当たる家」は、絶妙な匙加減で水商売っぽかった)

帰宅すると、引き取ったプリントをチェックする。セレクトした写真は缶で保管。
押入れの中にはラベルを貼った缶が整然と積まれていた。長年の習慣らしかった。
畳に寝転んで音楽を聴き、夜は布団の上で文庫本を読む。質素だが、豊かな時間。

◆平山が読んでいた、幸田文の『木』
  https://booklive.jp/product/index/title_id/1096368/vol_no/001


平山の見る夢はモノクロームだった。 彼の写真と似ていた。



平山と組んでいる同僚・タカシは、「テキトー」を絵に描いたような若者だった。
平気で遅刻する。無駄口が多い。「平山さんは丁寧すぎなんですよー」と冷やかす。
入れあげてるガールズバーのアヤが仕事場を訪れると狂喜、現金に仕事を片付けると
「俺のバイク動かないんすよー。平山さんの車貸して」と強引に乗り込んでくる。
さらに「給料日前で金がない。アヤちゃんの店に行く金を貸して!」と頼み込み、
平山のカセットテープを売らせようとまでする。でも、彼は妙に憎めない男だ。

驚くほどの高額査定が出たカセットを取り返した平山は、タカシに所持金を渡す。
それでようやくタカシから解放されたものの、帰りに車がガス欠。だが金はない。
悩んだ挙句、平山は大事なカセットを売ってガソリンを買うことに。トホホ…。

アヤはアヤで、平山に聴かせてもらったカセットをパクった。気に入ったようだ。
彼女がバッグにカセットを入れる瞬間を見ていたのに、平山は何も言わなかった。

人々に失礼な態度を取られても、寡黙で誠実な平山は、常に至って穏やかだった。

彼の作業は速く、隅々まで丁寧に磨き上げると、すぐ次の現場へと向かっていた。
でも、ホームレスと会釈したり、未知の人と置き手紙で○✕ゲームをしたり。
彼は決してあくせくせず、日常を楽しんでいた。まさに「足るを知る」生き方。


平山は聖人かな、と私は思った。 まるで修行僧のような人だと感じた。



 歌詞和訳 https://resion.hatenablog.com/entry/2022/11/03/001255



しかし、平山は「聖人」ではなかった。
タカシがふいに仕事を辞め、姪のニコが現れて、「人間・平山」が見えてきた。


「タカシが辞めた。代わりを手配するまでの間とりあえず1人で現場を回してくれ」
と本社から指示され当惑する平山。だが、黙って仕事を頑張った。余裕が失われた。
タカシは後で電話してきた。「借金は返しますからー」と呑気にヘラヘラしていた。

必死で仕事をしていると、タカシの幼馴染だというダウン症の若者がやってきた。
彼はタカシの耳を触ることに強い執着がある。「タカシは?」「いないよ」
若者はむくれた顔で飛び出していった。平山は捨て子を見たように辛そうだった。

数日は耐えた平山も我慢の限界だった。道端で声を荒げ、電話で本社に抗議した。
温厚で我慢強い平山が怒ったのには本社の人間もさぞ驚いたことだろう。
しばらくして、見るからにしっかり者の女性スタッフがタカシの穴を埋めに来た。


そんなこんなの間の話。

ある晩、平山がアパートに戻ると、高校生くらいの可愛い女の子が彼を待っていた。
「ニコ。どうしたんだ?」「おじさん、久しぶり。家出してきたの。泊めて」
平山は黙って姪に2階の寝室を使わせ、自分は1階の物置部屋で寝ることにした。
モノクロームの夢はざわついていた。

翌朝。ニコを起こさないよう忍び足で支度した平山だったが、彼女に気づかれた。
ニコは仕事に付いてくるという。平山はバンの助手席に彼女を乗せた。
公衆トイレを清掃する平山に最初は驚いたニコだったが、やがて尊敬の眼差しに。

神社境内の指定席で休憩しながら「この楓は、おじさんの友達の木なんだね」と。
ニコは感受性が強くて洞察力の鋭い子だった。2人で木漏れ日の撮影を楽しんだ。
仕事が終わると、一緒に銭湯へ行った。ニコはのびのび楽しそうに笑っていた。

ニコは平山の蔵書にパトリシア・ハイスミス『11の物語』を見つけて読み始めた。
家に帰るよう促す平山を「私、ヴィクターになっちゃうよ」と笑いながら脅した。
ニコの母親は強圧的らしい。耐えかねて「母と正反対の」平山を頼ってきたのだ。

ニコは「お母さんは、おじさんの話をするなって。住む世界が違うからって」と。
平山の実家はかなり闇が深い様子。平山も逃げ出してきたのでは…と私は察した。

ニコが平山を覚えていたということは、平山が実家と縁を切ったのは直近10年以内。
何があったのかは全く不明だ。が、よほどの経緯があったに違いない。

数日後、平山とニコが帰宅すると、アパートの前に黒塗りの高級車が停まっていた。
運転手(!)が後部座席のドアを開けた。中から出てきた女は「兄さん、久しぶり」。
ニコの母親だった。おそらく平山が連絡したのだろう、彼は驚いていなかった。

「兄さん、これ好きだったでしょ」と高級菓子の薄い手提げを平山に渡すと、
女は「ニコ、帰るわよ。車に乗りなさい」と命じた。ニコは抵抗せず従った。
兄妹はぎこちない関係だった。確かに「住む世界が違いすぎる」2人だった。

去り際、見るからに裕福だが幸せそうでない妹は、平山にそっと囁いた。
「たまには施設に面会に来て。
 お父さん、もう何も分からなくなっちゃったから、大丈夫よ」
平山は傷ついた顔をしたが、妹と姪とハグを交わし、走り去る高級車を見送った。

彼の辛い過去が垣間見えた。父親との深い確執。大人しい彼は勘当されたのかも。
贅沢な生活を捨て、全ての人間関係を断ち、大都会の片隅で彼は隠者となった。
やはりよほどのことがあったようだ。



妻も子もいない平山は、うぶな男だった。
ある日の作業中、ひょっこりアヤが現れた。カセットテープを返しに来たのだ。
車の中で話した別れ際、アヤは突然、平山の頬にキスをした。ドギマギする平山。
風采が良い元セレブなのに、この歳になるまで女性関係は少なかったのだろうか。

週末。平山がコインランドリーで洗濯物をセットしていると、向かいのスナックに
ママと男が入っていった。(あ、開店するな)と思った平山は店に入ろうとした。
そこで彼は目撃した。ママと男が、固く抱擁しているのを。平山は思わず逃げた。

日が暮れた頃、平山はスナックに顔を出さず、川沿いのコンビニでビールを2本買い、
遊歩道で独り呑みを始めようとしていた。彼の顔には(ちぇーっ)と書いてあった。
川の柵にもたれタバコに咽せていると男がやってきた。ママと抱き合っていた男だ!
好奇心と嫉妬に駆られた平山は、珍しく積極的に、見ず知らずの男と話し始めた。

「あの、ママとはどういう…」「ああ、見られていましたか。元夫です」

男はガンで余命宣告をされたという。それで元妻に別れの挨拶をしに来たのだ。
思いがけぬ真相に絶句する、善良な平山。
死を前にして心乱れる男の後悔を聞くうち、平山は何とか彼を励ましたいと感じ、
饒舌に対話を始めた。自分が生きてきた意味を考える男に、彼は共鳴したのかも。

「影は重なると濃くなるか」を実験するうち、おじさん達は影踏み遊びを始めた。
平山は「影は重なると濃くなるよ」と男を励ましたかったが、証明できなかった。
光源が1つだと影は濃くならない。複数の街灯が照らす橋の影は重なりが濃かった。
男とふざけ合う平山は、それに気付かなかった。



そんなことがあった翌朝。平山は車で出勤していた。
何本かのカセットから選んだ1本には「JAZZ」と書かれていた。おっ♪何かな?

いつものように朝日を浴びるポイントで、平山は音楽を聴き始めた。
あ、この声は…。ニーナ・シモンだ! 曲は「Feeling Good」だった。


◆歌詞和訳  https://abbiek.net/lyrics/feeling-good.html


 It’s a new dawn,
 it’s a new day,
 it’s a new life for me.
 And I’m feelin’ good…


オレンジ色の朝日を顔いっぱいに浴びながら、平山は感極まって泣いていた。

思うに任せない人生。苦い後悔。若い娘の鬱屈。もうすぐ死ぬ男の苦悩…。

それでも、それでも、俺は、新しい今日を生きていくんだ!


ニーナ・シモンがどんな歌手かを知っていれば、この歌の意味が分かるだろう。
平山は本物のインテリだな、と私は感銘を受けた。


◆ドキュメンタリー映画『サマー・オブ・ソウル』の名シーン
  https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1980656827&owner_id=1833905
  https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1980637330&owner_id=1833905


新しい夜明けを走る、すべての「平山」に、どうか幸あらんことを。



https://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=1833905&id=5630139


主人公は寡黙だが、映像と音楽が素晴らしく雄弁な物語。

全編に流れる静謐なリズムがとても心地よかった。
やるせない人生の哀歓を、色彩豊かに描いた傑作。

都会の片隅でひっそり生きる地味な中年男「平山」の人生は、実はなかなかドラマチックだった。「平山」はきっと市井に実在するはずと感じた。
作り手たちの、人間に対する温かな愛とリスペクトに胸を打たれた。

本作は「何でもあからさまに表現することは、はしたない」という美意識で作られている。まるで昔の日本映画みたいな作品だ。小津安二郎に心酔するヴィム・ヴェンダース監督は、本作の舞台挨拶で「これがドイツ人の作った映画に見えますか?ドイツ人の私に日本の魂があると感じました」と胸を張っていた。

大衆に分かりやすいことが至上命題であるハリウッド映画とは、まさしく対極の作品と言えよう。ゆえに、これを鑑賞する側には、繊細で鋭敏な感性と深い洞察力とが求められる。

ハリウッド式に慣れた観客は「ひたすら地味だけど、何となく素敵な作品」くらいの、ふわっとした印象しか持てないかもしれない。とりあえず、それで良いと思う。まずは感覚的に慣れることが大事。
劇場で物語にどっぷり浸り、ニーナ・シモンにノックアウトされる体験をしてみてほしい。


フランスの名匠トラン・アン・ユン監督は溝口健二を、ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダース監督は小津安二郎を敬愛し、それぞれオマージュ的な傑作を撮った。奇しくもそれらの日本公開が重なった。
この機会に、「古い日本映画」の素晴らしさを、我々もぜひ再発見していこうではないか。



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映画.com https://eiga.com/movie/99306/
Filmarks https://filmarks.com/movies/109454



【関連情報・随時追加します】

監督インタビュー  「孤独」の強さと美しさを描く
https://www.gqjapan.jp/article/20231220-perfect-days-wim-wenders-interview

ヴィム・ヴェンダース監督「ドイツ人が作った映画に見えますか?
ドイツ人の私に日本の魂があると感じました」『PERFECT DAYS』舞台挨拶
https://youtu.be/kgZVe2G0m2o

役所広司 ──芸歴45年のベテラン俳優、パーフェクトな日常
https://www.gqjapan.jp/article/20231208-moty2023-koji-yakusho


マイミク・まーさん情報「平山の妹が渡した菓子は鎌倉・紅屋のクルミッ子」
https://beniya-ajisai.co.jp/products/kurumicco/


『PERFECT DAYS』で使用された楽曲の紹介
https://note.com/twovirgins/n/n3f6830651cce

THE TOKYO TOILETの全トイレを紹介
https://www.artarchi-japan.art/2023/05/toilet-project-perfect-days.html


 
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