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2023年12月31日09:58

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円城塔

まだ電子書籍に馴染めない。買っているのは特定のアカウントを使って本を読む権利であって、紙の実態を伴う本ではない。その分少し安いのだが、販売者の都合によってその権利が失われるのを見てきたし、オフラインでも読めるのかどうかは試してみなければわからない。そうは言ってもわたしの書架を受け継ぐものはいないし、膨大ではないがそこそこ多い紙の本を処分するのも骨だろう。まともな判断力があるうちに手持ちの書籍の電子化を進めなければならないことは理解している。

さて円城塔である。今年の春に北海道で買った文庫がなかなか衝撃的な出来だったのて、他にも読みたいと思っていた。だが時々立ち寄る書店には円城塔の本が全く置かれていなかった。なんということだ。円城塔氏はいまさら紙の本に未練はないということなのか。だがamazonで探せば紙の本はある。いつか買ってやろうと思っていたが、先のブラックフライデーで電子書籍がセールになっているのを見つけた。そう値引きしているのならと2000円少々で5冊をまとめ買いしてみた。

AIがシンギュラリティを達成したような「巨大知性体群」、巨大知性体群どうしが争う「演算戦」、人類で初めて大容量義脳を持った人物が唱えた、時空を越えるための「時間束理論」、アルファ・ケンタウリ星人とのファースト・コンタクトという「イベント」、他にもキーワードを拾えば、架空言語、フロイト、哲学、伝説の神々、古代の邪教、超越知性体、フォークト・カンプフ症候群など、こういった世界観のもと共通する登場人物がときおり現れながら、全体が20本の掌編で構成される。この構成は先に読んだ「文字禍」と同じ。こういう作風なのだろうか。

知性に裏打ちされた諧謔。モチーフの一部は幼年期の終わりであったり銀河ヒッチハイク・ガイドだったり座頭市だったり、必殺仕置人から引用されているようだ。きっと他にもあるんだろうけど私にはわからない。解説もあとがきもないから理解を助ける説明を誰もしてくれない。論理のアクロバットを繰り返す知的な万華鏡を覗いているようなもので、めくるめくイメージを理解はできないが読むのは愉しい。

円城塔氏は東大大学院などで博士研究員を務めていたそうだ。翌年の研究費がなくなることをきっかけに転職を余儀なくされ、そののち専業作家となったという。物理用語やコンピュータ理論の頻発する作品から伺うにかなり優秀な頭脳を持っていそうなので、この国の科学振興に大いに貢献してくれただろうに惜しいことをした、文科省の予算配分は間違っているとでも憤りたくなるものだが、いやだからこそこうして小説作品を読めるのだ。
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