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2023年12月17日07:07

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差別する人の研究[読書日記965]

題名:差別する人の研究 変容する部落差別と現代のレイシズム
著者:阿久澤 麻理子(あくざわ・まりこ)
出版:旬報社
価格:1700円+税(2023年10月 初版第1刷)
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図書館で、興味深いタイトルの本を見つけました。
【プロローグ】で、著者は次のように述べています。
“本書の目的は、ここに例示したような現代社会の部落差別の変容の姿と、それが、なぜ・どのように起こるのかを示すことである。それは、言い換えるなら、差別「する人(側)」が、なぜ・どのように差別を変容させているのか、その意識構造や行為を分析することである。”(5p)

帯の惹句を引用します。
“変わりゆく
 差別の姿を
 あきらかにする。

 差別は「される側」ではなく
 「する側」の問題
 部落差別をつくりかえ、
 再生産するのは誰なのか?”

目次は次の通りです。
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 プロローグ
 第1章 差別とは何か?
 第2章 社会構築主義はマイノリティを無化するものか?
 第3章 レイシズム研究に手がかりをもとめて
 第4章 社会システムに埋め込まれた差別
 第5章 部落出身者判定の手がかりにされる部落の所在地情報(地名等)
 第6章 「全国部落調査」裁判
 第7章 ふたたび、言説の変容を考える
 第8章 「現代的レイシズム」を強化するものは何か
 終 章―どこへ向かうのか
 エピローグ

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印象に残った文章を引用します。

【第1章 差別とは何か?】《5|歴史の中の、部落を「異化」するまなざし》から、血筋を理由にした差別について。
“そして部落問題に限らず、血筋を理由にした差別は、世界中で日常に埋め込まれている。さもなければ、どこかの国の王室メンバーが結婚するといっては、お相手のルーツを遡って報道が過熱するなんてことは、起こらないなずである。”(35p)
 ⇒推測ですが、これは英国王室を念頭に置いた発言ですね。

【第2章 社会構築主義はマイノリティを無化するものか?】《3|差別を無視・放置する論理――カラーブラインド・レイシズム》から、差別が生み出される原因。
“そもそも差別は、そもそも「する人(側)」の問題だ。「する人(側)」が、なぜ差別が生み出されるのか、自らもその一員である社会の構造に目を向けることを放棄して、部落(もちろん、黒人、女性も……)はそもそも科学的には存在しない「あるべからざる属性」だと言うだけで、差別がなくなると考えているのなら、あまりにも「おめでたい」考えとしか言いようがない。”(48p)
 ⇒差別という解決が難しい問題を、無視・放置するのは、もっとも簡単な対応ですね。

【第3章 レイシズム研究に手がかりをもとめて】《6|「新しいレイシズム」のいくつかのパターン》から、社会システムで優位な側にいる人々の特権について。
“すべての白人は社会体制(社会システム)の恩恵を受けており、生活水準のあらゆる面で黒人よりはるかに優位である一方で、黒人はそのような社会システムによって継続的に不利な立場に置かれてきた。だが社会システムとは、白人にとっては慣れ切った日常にすぎず、ことさら問題だと感じられない。黒人に対して偏見に満ちた言葉を発したり、排除行動に及ぶことはさすがに差別だと認識するが、白人が労なくして優位な位置を与えられていること――これを近年「マジョリティ特権」と呼んでいる――には、無自覚なのだ。”(68p)
 ⇒私も日本社会にえ有利な「男性」というマジョリティに属していますが、その優位性について無自覚かもしれません。

【第4章 社会システムに埋め込まれた差別】《6|部落の土地を避ける理由》から、行政が行った調査結果から“かつて部落があった土地は購入したくない人が多い”という結果についての考察。
“つまり、部落差別は市場(マーケット)に組み込まれており、そのために「自分が経済的不利益を被らない」ために、部落の土地を購入することは避けたい、と考えているのである。”(95p)
 ⇒自分の立場に置き換えて、「そんなことはしない」という自信はありません。

【第5章 部落出身者判定の手がかりにされる部落の所在地情報(地名等)】《コラム|戸籍等の不正取得》から、1970年代に廃止された戸籍を閲覧できる第三者がいるという話。
“戸籍の閲覧制度は1970年代に廃止されたが、司法書士や行政書士等による大規模な不正取得は、
2000年以降も起きている。先に述べた通り、8種の専門的職業(八士業)には、職務上必要な場合、第三者の戸籍、改正原戸籍、除籍簿、住民票など(以下、戸籍等)の請求権が認められ、各資格者の団体が発行している「職務上請求権」を使えば、本人の同意なくこれらを請求できる。有資格者がこうした立場を悪用し、戸籍等を不正入手し、横流しする事件が繰り返し起きている。”(120p)
 ⇒ちなみに「八士業」とは“弁護士、司法書士、行政書士、土地家屋調査士、税理士、弁理士、社会保険労務士、海事代理士”(122p)だそうです。

【終 章―どこへ向かうのか】《2.人権教育にも責任がある》から、六つの大学で若者に「人権」についてアンケート調査した結果について。
“人権とは、(中略)日本の学校では、自分がどんな権利を持っているか、具体的に学ぶような取り組みは低調で、代わりに、社会的弱者に対して「おもいやり」「やさしさ」「いたわり」を持ちなさいと教えられる。かくして、人権問題とは私的な人間関係の中で、「心の持ちよう」で解決するものだと学んでしまい、社会システムへの関心が育たない。市民の人権を実現する公的機関の責務、法・制度による問題解決に対して、あまりにも無頓着なのだ。”(207p)
 ⇒法・制度の問題を個人の頑張りで解決しようとするのは、いたるところで見る気がします。

締めくくりに、表紙裏の言葉を紹介します。
“研究者となって四半世紀、この間、幾度となく研究テーマをたずねられる経験をした。専門分野や方法論の説明は後回しにして、今はごくシンプルに、こう答えることにしている。
 「差別する人(側)の研究です」
 たいていは、怪訝な顔をされる。時に警戒される”
この言葉の解説として、著者は【終 章―どこへ向かうのか】で、“警戒するのは「自分がどちら側に分類されるのか」と身構えるからであろう。”(206p)と分析しています。
一筋縄ではいかない、そして解決までに時間のかかる社会的な課題に取り組んだ著作でした。

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阿久澤 麻理子(あくざわ・まりこ)
大阪公立大学人権問題研究センター教授。1963年生まれ。
上智大学法学部国際関係法学科卒業。奈良教育大学教育学研究科修士課程修了。大阪大学人間科学研究科博士後期課程修了(人間科学博士)。教育学・法学・社会学の学際的視点から、人権教育および変容する差別について研究。
主な著書に、『フィリピンの人権教育――ポスト冷戦期における国家・市民社会・国際人権レジームの役割と関係性の変化を軸として』(解放出版社、2016年/単著)、『地球市民の人権教育 15歳からのレッスンプラン』(解放出版社、2015年/共著)。

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