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2023年12月15日02:52

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2023年12月のうた 選

小石と空


ひとり言を云い乍ら
ぽつぽつと歩いてきた
小石をひろっては
真上の空へ投げた
小石は飛んでいったまま
墜ちてはこなかった。



明るい花


明るい花は笑顔が優しく
ため息をつくように佇っていて
われの心を見透かしている。



雨の日の朝


雨の日の朝は
たとえ冬でもしめぼったい温もりがある

 おまえはそうやって生きていろ

死んだ父と母が
そう言っているような気がする。



思い出


ほっとするような
しずかなことを
思い出そうとしている
たとえば
月のひかりのようなことを。



蒼い夜


冷たい 水
蒼い 水
つめたい 手
蒼い夜は
ゆたかな針のない時計のように
昏い。



空のうえ


月光がみしみしと音をたて
下界を凍らせている
空のうえは
天国だとひとは云うが、
あんな
シベリアよりも寒いところに
誰が暮らすんだろう。






花は完璧ゆえに
自ら炎えようとしている
その焔は
誰にだって見える
ひとがただ
見ようとしないだけだ。



花の死


「花」という文字は
「死」という文字に、どこか似ている。



苦しみとは、私の名前


身を斬られるような想いがする
苦しみよ 死んでしまえ
そう 思うことは
自らをころすことだ
苦しみとは 私の名前なのだ。



世界が終る


明け方
空ぜんたいが輝(ひか)っていたので
世界が終ってしまったのだと思った。



〈何か〉


泥のなかから
引っぱりあげた何か
その何かの正体がわからないから
それを描き出そうとし
綺麗に研いてゆくことに
必死にもなり
くるしんでもいる。



鬼の隠れ蓑


鬼になって生きている
こんなに醜く
こんなにゆがんだ貌のまま
われは鬼として
生きてゆこうとしている
冬の夜の
深まる時間の
まくらがりの その奥底に
われの隠れ蓑がある。



息するつらさ


声を失い
息をするのもつらくなったから
息を止め、くるしんでいた。



祈りに似たかたち


手に手を握り
胸にあてていると
祈りにそれが似てきて
つらく死にたがるきもちが
だんだん内がわから融けてくる。



僕の価値


僕の価値は
ちょうど路傍の石ころのようなものだ
確固たる存在があって
しかも値のつけようのない
そういうものでありつづけたい
自身の詩才がたとえ
石ころの価値しかないとしても
玉石よりまばゆく輝るなら
わが本懐は遂げられたと思う。



冬の朝


冬の朝はどの窓硝子も
ぴいんと張りつめている
不用意に触れればひびわれてしまいそうに
〈気〉というものがあって
それが剃刀のような音の光を放っている
〈冬の朝〉というものには
あまり話しかけない方がいい。



悲しみ


幾年も経って
私はこれだけ歳をとった
途上 いろんな宝物を置いてきた
それらの各々には
いろんな悲しみが宿っていた
悲しみが深まると
痛みもそれだけ強くなる
それらをすべて背負っていたら
私は力尽きてしまっただろう。



公孫樹の青空


公孫樹の葉が落ちつくし
土が見えなくなると
頭上には蒼い浄土が広がっている
此の世の絶望の果てに
あんなものがあるのならば
われは救われる
多くのひとは
あんなに
世界が浄められていることを
知らない。



やさしい光景


やさしい光景がある
母がつくろいものをしている
冬の夜
死んでしまった母は
いまも私のかたわらで
私のつくろいものをしている。



雲になる


ぼくは死んだら雲になるよ
雲になって
生きてゆくよ。



無題


見た

見たと
おもって

私は
ふるえた。



冬の心


径のかたわらの芝草が
もう枯れていて
そのこころたちは
地に潜り〈根〉となって生きている
眠り眠っているものと思われる
元から猛々しいところがない
穏やかな生きものなので
こんな冬の
深まりゆく夕映えにも
優しく風に吹かれている。



私の視線


星空を見る
私の視線が空を飛んでゆく
その視線が数百万年後にその星にとどく
その頃私はとっくの昔にこの世にはいない
私の子孫もいないだろう。






駅前にお茶の問屋さんがあって
その店さきには何故か
旬の大根や根深や芋なんぞがごちゃっと並んでいる
そこの前を通るのが好きで
何を買うのでもないけれど
あれを離れて見ていても
何だか切実な純情が胸に込みあげてくる。



光る雨


みんなプラチナ
濁ろうとも しない。



夜風


夜風に逆らい
新聞紙が舞ってくる夜ふけ
いっぴきの猫が
闇のなかをまっすぐ
光るようにやってくる
闇のなかをのっすのっすと
怒りながらやってくる。



さかばどおり


うらまちの
しょんべんくさいさかばどおりを
あるくとき
ふいにしんでしまったさけなかまに
であうことがある
うれしいのだ
むかしのぼくがそらをゆく
よいどれながらちどりあしに
そらをあるく。



燃える闇


もえるのは
闇だ
闇が
ごうごうともえている
生きている
灯を点けて見たところで無駄だ
そこには何もない。



もっと生きよ


死なせてはいけない
自分の想いをころしてまで
のさばろうと思うな
もっと生きよ
想いながら生きよ。



光になりたい


胸に明りが欲しい
光になりたい
光になって
私は小さな宇宙を創りたい。



夜明け


おもてへ出
伸びをしていると
夜明けの雲が動いた
つられて山がみしっとうごいた
そして空が 宇宙が
また みしっと
幽かに動いたのだった
それに気づいた朝
われはきゅうに怖くなった
      死にたくなかった。



宇宙の眸


月は宇宙では小さな衛星なのに
あんなにも大きく見える
小さな〈こどものような地球〉の恋びと
妻(つれあい)と言ってもいい、
宇宙の眸となって
いつも地球をみつめている。



夜露


月が夜空を通りすぎてゆく
雲が夜空を通りすぎてゆく
夜が世界を通りすぎ
松葉のさきの
氷の雫となって、ひかっている。






枯山は星のまんなかに聳えている
星を瑞々しく称えている
星に吹く北風は夜の海にも黝く吹く
枯山は海と対峙し
海のみ心を称えている。






冬が深まると
どの児(こども)の貌も
真赤な炎になって遊んでいる。






冬になると
指が透けてみえる。



無題


目をつむると
自分の行く末が
まっしろに光っている。



涕いていたのかも知れない


ゆう空が昏くなり
あの雲が木立にかかって燃えているのを
じいんと痺れるように感じていた。






縁側にぺたんと坐り
夕空のまんなかへ干柿を吊るす母を
  ぼんやりと眺めていた。



つぶて


私は天へつぶてを抛ったことを
忘れていた
つぶてはあれから幾日もたったきょう、墜ちてきた
返答なのか天罰なのかもわからなかった。



花の街


花が降ってきて
詩(うた)の街に 積もった
まっしろな花が つもり
悲しみを光のなかに閉じこめた。



冷たい怒り


怒りの涙がつめたくなって
私の頬を流れる
歯を食いしばり耐えていることが何なのか
二の腕に噛みついて耐えていることが
その怒りが何なのか!



光はつらい


明るみのなかに
かげがあるなら
そのかげに隠れたままでいたい。



血文字


寂しいから
声を出すのが苦しくなってしまった
指をわざと傷つけ
てのひらに血文字をつづった
血文字は洗ったら消える
しかし心についた血文字は
       けっして消えない。



つんざく悲しみ


人生をどうやって生きたらいいのか
この歳になってもまだわからない、
仕方がないので
頭をてのひらで叩いた
まだ悲しいので
げんこつで叩いてみた
しかし物足りず
ハンマーで思いきり叩いてみた
脳みそが みし みしと音をたてた
生きている痛みに
つうずるものを感じた
にもかかわらず依然として寂しいので
地面(コンクリート舗装)に頭をぶつけてみた
すると目のまえが光って
涙がにじんできた
きいんと 悲しみが耳をつんざいた。



凛々たる冬


ぴしいんと
夜空が張りつめている
一本の絹糸のように
まるで身を斬られるような
風のない夜も
爪を光らせている。



天国


松の木に 松葉が灯っている
かなしいかな
雨のしずくとなって冷たく灯っている
考えてみれば
天国なんてものは存在しないことが
はっきりわかる。






山が動いている夢をみた。






神と仲の良いのはこどもだ
こどもは分別をもたぬかわりに
無心で話をする
人は歳をとればとるほどに
心をもって分別がつき
分別がつけばつくほどに
神から離れてゆく。



重たい鳩


飛ぶ
翔けるではなく、飛ぶ
あの重たげな鳩が
もしも飛べなくなったなら
彼らはどうやって
生きてゆくのだろう。






ぼくは南洋の
白長須鯨(しろながすくじら)の昼寝を夢にみた
わが想いを募らせれば募らせるほど
鯨は自由になり
遂には空を飛んで――
……雲はみな 鯨の化身だ。



天才


年を取ればとるほど
感覚は鋭くなってゆく
そういう表現者・詩人がいる
歳月が闌けて鋭くなる その刹那を
彼は気づいているのだろうか
天才は死期にあっても
感覚を研ぎすませようとする。



海の底


あの月光の秋から
水底にいるようなきもちが続いている
悲しみは深まれば深まるほど
透んでゆくものだ
われよ 生きよ
もっと生きよ。



未来


薄暮
未来はいつも未来で
決してやっては来ないもののように
思われる時がある。






公園の枯芝の
風よけになっている陽だまりに
幾羽かの
鳩が身を寄せ合い
じっと目をつむっている。



氷る歳月


歳月は一歩一歩 深まってゆく
冬 その夜明けに
草は氷って 声さえ上げられずにいる。



綿虫


忘れられながら
綿虫は游ぐ
日なたを溺れながら行く
かれは傷つかないし
死なない。



冬深し


冬が深まってゆくと
街を行くどのひとの影も
薄っすらと透きとおって見える
(見えなくなる、こともある)。



夕さりの薄やみ


木立に木立のかげが重なっている
時(というもの)をつつもうとしている。



寒い朝


寒い朝
危うく自分の命を失くしてしまうところだった
神さまなんて
此の世にはいないんだと思ったり
いるんだと思ったりしている
ひとはみな淋しい。



朝日よ


朝日よ
朝日よ
雀が哭いているよ
犬の子が哭いているよ
冬の蜂が
哭いている、よ
朝日よ、生きものは
みんなあなたから生れたのです
あなたのこどもです。



たんぽぽ(冬)


空を見つめるため
たんぽぽは生きている。



冬日


路上に枯れたものと
緑のものがともにある
妙なるものが隠れているときも
まれにあるけれど
多くは寂しく
暖かい光にまもられて
醜いけれど、ときどき美しい。



解放


病んでいるもの
苦しんでいるもの
その〈もの〉に花束を捧げ、詠いたい。



皸(あかぎれ)


冬の日なたには
うつくしい心になっている

日が一時でも翳れば
心は昏くなり悲しく裂けてゆく

ともあれ心は
傷ついていつも頽れている。



佳いこと


佳いことをしていたかった
たれも見ていないところで
悦んでいたかった。



木目


木を縦に切ると
木目が生きているそのものの〈愕(おどろ)き〉となり
悶えくるしんでいるように思われる。



花と風


花と風とが 闘っている
自意識と痛みとが 闘っている。



描こうとしている


描(か)こうとしている
何かを描こうとしているのが筆圧でわかる
文字に書き起こそうとしている
眠りから目ざめさせようとしている
描くとは何なのか
そこに辿りつきたいと願われる。



美しいものへ


生きている
美しいものへ呼びかける
愛するものへ
呼びかける 伝える
失われながら
ため息をつきながら愛(いつく)しむ。



闇と光


闇しか知らぬ心は
闇を恐れない
一旦 光のなかへ出
光を知ると
かれは闇の怖さを思い知る
闇というものに必要以上に怯えるのは
光を知ってしまったからだ。






死への扉がそこにあって
そこはつねに開かれている
死ぬのはかんたんだ
だからいま
できることをやっておく
いつでも死ねる
そう思うから、生きられる
気が楽になってくる。


指田悠志
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