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2023年12月03日08:28

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ことばのくすり[読書日記963]

題名:ことばのくすり 感性を磨き、不安を和らげる33篇
著者:稲葉 俊郎(いなば・としろう)
出版:大和書房
価格:1500円+税(2023年6月 第2刷)
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マイミクさんが紹介していた本を読みました。
病院長を務めるお医者さん:稲葉俊郎氏のエッセイです。

帯の惹句を引用します。
“私は「ことば」が「くすり」になると考えています。
 何気ない一日が、すべて新鮮に感じられるよう、
 目覚めてから眠るまでをテーマに、33篇を紡ぎました。”

目次(テーマ)は次の通りです。
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 はじめに
 未明のことば
 朝のことば
 昼のことば
 夜のことば
 休日のことば
 おわりに

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印象に残った文章を引用します。

【昼のことば】《仕事の始まりと「門」》から、“仕事は非日常の世界”という著者の考え方。
“仕事も(スポーツと)同じようなものです。枠組みやルールの内側で行われているだけの非日常の世界なのです。「今から人工的なルールを持った世界へと入っていく。いずれその世界から出て日常の生活に戻る」とイメージするのが大事なのは、そのことを忘れないためです。(略)
 するとある時点で、仕事の中にある秘められたルールが見えてくるでしょう。それは明文化されていないため、気付かないまま働いている人も多くいます。例えば、次のようなものです。
建設的な意見を言っても採用されず、一部の管理者の判断だけが優先される。経験の少ないものは会議ではあまり自由に発言してはいけない。休みを取ると仕事に不熱心な人間だと思われるため既定の休みも取れない……など。”(67p)
 ⇒“仕事は人工的なルールを持った非日常の世界”と考えれば、仕事上のストレスは減りそうです(笑)

【昼のことば】《行きたくない「場」について》から、真面目に登校できない場合もあるという話。
“うまく学校に通えなかった、あるいは今も学校に通いたくない、という人は多くいると思います。そのような人たちに対し、学校の必要性を偉そうに書く資格はありません。私自身も、あまり真面目に学校に通っていなかったからです。それでも頑張って、朝だけ出席してみることはありました。しかし、たいていは原因不明の腹痛が訪れ、けっきょくは早退してしまうのでした。(略)
 当時、そのような体の拒否反応は謎としか思えないものでしたが、今考えてみると、学校という「場」自体に原因があったのだとわかります。”(84p)
 ⇒「学校は真面目に通うべきところ」という日本の常識からは距離をとった冷静な考え方だと思います。

【昼のことば】《食事と礼節》から、著者と親交のある横尾忠則さんが著者に話した言葉。
“青年期の横尾さんは、三島由紀夫にこう言われたそうです。
「縦糸が芸術だとすると横糸が礼節だ。その2つの交点に霊性が宿る。地上的な作品を作りたければ無礼でいいだろうが、天に評価される作品を創造したければそこに霊性が宿らなければならない」。
実際に横尾さんはとても礼節を重んじる方でした。”(101p)
 ⇒横尾忠則さんと言えば、私より上の世代で有名なアーティストですが、私より若い著者も憧れる存在だったんですね。

【昼のことば】《医療ドラマに思う》から、マンガ『ブラック・ジャック』について。
“同じ医師として、これもときどき聞かれるのが、手塚治虫の『ブラック・ジャック』をどう思うかという質問です。
『ブラック・ジャック』は、医療がテーマである以上に、人間や生命について、その光も影も深く掘り込んだドラマだと思います。手塚治虫は医師免許を取得していたため、医師や医療者側の視点も持っていました。ただ、そうした特殊な視点だけでつくられた作品ではありません。誰もが当事者となりうる生死の場面を扱い、一般の人の視線も重ね合わせるようにしながら、漫画ならではの飛躍した発想を経由して「いのち」の本質に切り込む内容ばかりでした。”(127p)
 ⇒そう言えば、最近、生成AIを使って執筆(?)。息子の手塚眞さんが総監督された『ブラック・ジャック』が少年誌に掲載されましたね。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231129/k10014270761000.html

【夜のことば】《眠りこそはすべて》から、“「眠り」は人生のメイン”という考え方。
“繰り返すように、「眠り」は人生のメインとなる行為です。起きている時間など、眠りのおまけのようなものです。多くの方は逆に考えていますが、起きている時は社会に適応している時間に過ぎません。ある意味では自分自身を見失っている時間でもあると理解して欲しいと思います。眠りの重要さを強く意識することで、眠りの質が深まります。”(141p)
 ⇒そう言えば、大リーグの大谷翔平選手も睡眠時間を削ることは、絶対にしないそうですね。

【休日のことば】《プラセボと茶道》から、プラセボの効果について。
“新しく使われる薬剤が世に出るにあたっては、臨床試験が行われます。その時に提出されるのが、実際の薬を投与する「実薬群」と「プラセボ群」の比較データです。そのデータを見る時、製薬会社の方はいかに実薬群の効果かあったかを力説してくれるのですが、むしろ私は、プラセボ群でも一定の効果が出ていることに驚き、注目していました。実薬群で効果がみられるのは、ある意味では当たり前のことです。しかし、プラセボ群での効果は実薬群と同じような説明ができません。そこに、人間の自然治癒力が持つ新しい可能性すら感じます。”(170p)
 ⇒お医者さんでありながら、「実薬群」ではなく「プラセボ群」に注目するとは、ユニークです。

著者紹介にあるように、著者は医師でありながら様々な分野に関心を持ち、山形ビエンナーレ芸術監督をされるなど型破りな方です。ユニークな視点からの意見に刺激を受けました。
本書の中には著者が推薦する本も紹介されているので、このあと何か読んでみたいと思います。

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稲葉 俊郎(いなば・としろう)
1979年熊本生まれ。医師、医学博士。軽井沢病院長。山形ビエンナーレ芸術監督。東京大学医学部付属病院時代には心臓を内科的に治療するカテーテル治療や先進性心臓疾患を専門とし、夏には山岳医療にも従事。医療の多様性と調和への土壌づくりのため、西洋医学だけでなく伝統医療、補完代替医療、民間医療も広く修める。国宝『医心方』(平安時代に編集された日本最古の医学書)の勉強会も主宰していた。
未来の医療と社会の創発のため、伝統芸能、芸術、民俗学、農業など、あらゆる分野との接点を探る対話を積極的に行っている。

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