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2023年10月08日08:57

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文にあたる[読書日記955]

題名:文にあたる
著者:牟田 都子(むた・さとこ)
出版:亜紀書房
価格:1600円+税(2022年11月 第1版第5刷)
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この本もマイミクさんのお薦めです。

表紙裏には次の言葉があります。
“〈本を読む仕事〉という天職に出会って10年と少し。
 無類の本読みでもある校正者・牟田都子は、今日も校正ゲラ
 をくり返し読み込み、書店や図書館をぐるぐる巡り、丹念に
 資料と向き合う。
 1冊の本ができあがるまでに大きな役割を担う校正・校閲の
 仕事とは? 
 知られざる校正者の本の読み方、つきあい方。”

【はじめに】で著者は自分の仕事を次のように説明しています。
“本を読むことを仕事にしています。
 といっても、いわゆる「読書」とは少し違います。本が出版される前にゲラ(校正刷り)と呼ばれる試し刷りを読み、「内容の誤りを正し、不正な点を補ったりする」(大辞林)のが私の仕事です。本作りの中で「校正」や「校閲」と呼ばれる工程です。”(8p)

目次は次の通りです。
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 はじめに
 1 赤鉛筆ではなく鉛筆で
 2 常に失敗している仕事
 3 探し続ける日々
 おわりに

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印象に残った文章を引用します。

【1 赤鉛筆ではなく鉛筆で】《サバをめぐる冒険》から、イタリアの詩人、ウンベルト・サバの詩の原典照合に関する話。
“はたして『コルシカ書店の仲間たち』巻頭にはサバの詩が引用されていました。ゲラとひとつの異同もない形で。(略)
 ゲラと原典の照合は数分ですが、図書館で資料を取り寄せるところから数えると、この十行足らずの校正を終えるのに四日間かかった計算でした。”(23p)
 ⇒サバの詩を引用したのは須賀敦子さん。須賀敦子さんのエッセイは自然体で素晴らしいです。

【1 赤鉛筆ではなく鉛筆で】《すべての本に》から、寺田寅彦の言葉。
“間違いだらけで恐ろしく有益な本もあれば、どこも間違いがなくてそうしてただ間違っていないというだけの事意外に何の取柄もないと思われる本もある。これほど立派な材料をこれほど豊富に寄せ集めて、そうしてよくもこれほどまでに面白くなくつまらなく書いたものだと思う本もある。”
(寺田寅彦『寺田寅彦 科学者とあたま』平凡社)(88p)
 ⇒寺田寅彦といえば“天災は忘れた頃にやってくる”がありますが、この言葉の出典を巡る話(寺田寅彦全集に、この言葉が無い)を読んだことがあります。

【2 常に失敗している仕事】《失敗のあとに》から、校正で失敗したあとの心得。
“付物や雑誌記事など短いゲラをたくさん読んでいた修業時代には、ほとんど毎日何かしら落としては人に拾われていました。そのたびに落ち込むのがつらいと先輩に打ち明けると、すぱっといわれました。
 「忘れなさい」
 いつまでも気に病んでいるとそのせいで注意散漫になってまた落とすから、一秒でも早く忘れて目の前のゲラに集中すべきだというのです。”(109p)
 ⇒この心得は、いろいろなシーンで役立ちますね(苦笑)

【2 常に失敗している仕事】《教科書には書いていない》から、著者が書籍一冊を任せてもらえるようになるまでの期間。
“はじめは週五日、フルタイムで出勤していました。付物と呼ばれる細かいゲラを中心に読み、次いで雑誌で経験を積んで、書籍を一冊任せてもらえるようになるまで六、七年はかかったでしょうか。徐々に在宅勤務の割合が増え、月の半分は自宅で書籍の校正をするというリズムができてきました。”(145p)
 ⇒“石の上にも三年”という格言を思い出しました。

【3 探し続ける日々】《辞書の買い方がわからなかった》から、著者の最初の失敗。
“練習を兼ねて渡されたゲラを、これ以上できないというくらい慎重に読んだつもりだったのに、最初のページを見るやいなや「ここ、落ちてるよ」と指さされたのが「にも関わらず」でした。
 あわてて『広辞苑』を引くと見出しは「拘わらず」。愕然としました。三十年間「関わらず」だと思って疑ったことがなかった。”(178p)
 ⇒著者は、このような例として「散りばめる」は「鏤める」。「言えども」は「雖も」。「笑い者」は「笑い物」などを挙げています。

【3 探し続ける日々】《天職を探す》から、他の本から引用された“天職”について。
“興味深いのはこの天職という言葉の英訳だ。この言葉、英語ではcallimgという。つまり「呼ばれる」もの。英語圏ではキリスト教的な背景もこの言葉にあるわけだが、それでもこの表現にはピンとくる。天職とは、自らつかみ取るものではなく、呼ばれるものだというのだ。
(影山知明『続・ゆっくりいそげ 植物が育つように、いのちの形をした経済・社会をつくる』クルミド出版)”(235p)
 ⇒同じ話を内田樹さんもエッセイで書かれていました。

校正を仕事にしている方の本を読むのは初めてでしたが、本書を読むとこれまでに何冊も校正に携わった人たちが本を出版されていることが分かりました。
校閲といえば、何年か前にドラマがありましたね。
検索すると『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』(2016年)でした。
この本を読んで、本当に地味ですが凄い仕事だと感じました。

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牟田 都子(むた・さとこ)
1977年、東京都生まれ。
図書館員を経て出版社の校閲部に勤務。2018年より個人で書籍・雑誌の校正を行う。
これまで関わった本に『へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』(鹿子裕文、ナナロク社/ちくま文庫)、『何度でもオールライトと歌え』(後藤正文、ミシマ社)、『ブスの自信の持ち方』(山崎ナオコーラ、誠文堂新光社)、『家族』(村井理子、亜紀書房)、『はじめての利他学』(若松英輔、NHK出版)ほか多数。
共著に『あんぱん ジャムパン クリームパン 女三人モヤモヤ日記』(亜紀書房)、『本を贈る』(三輪舎)。


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