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2023年10月01日08:19

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棋承転結 24の物語[読書日記954]

題名:棋承転結 24の物語 棋士たちのいま
著者:松本 博文(まつもと・ひろふみ)
出版:文春文庫
価格:1600円+税(2023年6月 第1刷)
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マイミクさんの読書日記で知った本です。
初出は週刊誌「AERA」の連載「棋承転結」で、棋士や女流棋士にインタビューした内容で構成されています。
筆者の松本博文さんは、観る将として有名な方で、NHK Eテレの『将棋フォーカス』にも何度か出演されています。

帯の惹句を引用します。
“棋士にとって
 将棋とは
 家族とは
 人生とは。

 藤井聡太論
 書き下ろし8ページ”

目次は次のとおりです。
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 はじめに
 [書き下ろし]藤井聡太論
 [第1局]渡辺 明
 [第2局]森内 俊之
 [第3局]蛸島 彰子
 [第4局]中倉 彰子
 [第5局]藤森 哲也
 [第6局]木村 一基
 [第7局]谷合 廣紀
 [第8局]山口 恵梨子
 [第9局]戸部 誠
 [第10局]石田 和雄
 [第11局]瀬川 晶司
 [第12局]中倉 宏美
 [第13局]島井 咲諸里
 [第14局]上村 亘
 [第15局]中村 修
 [第16局]藤田 麻衣子
 [第17局]羽生 善治
 [第18局]斎藤 慎太郎
 [第19局]桐谷 広人
 [第20局]佐藤 天彦
 [第21局]森下 卓
 [第22局]飯島 栄治
 [第23局]鎌田 美礼
 [第24局]谷川 浩司

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印象に残った言葉・文章を引用します。

【[第1局]渡辺 明】から、渡辺明九段が感じる将棋とスポーツの共通点。
“「スポーツ中継は好きです。(略)
 どの競技でも選手がミスをして、そのプレーで負けたということが起きるわけです。そうするとバッシングがすごい。自分のプレーに対して責任を負わなきゃいけないのは将棋も一緒で、自分が詰みを逃して負けると『勝率99%から転落』とか書かれる。だから失敗したスポーツ選手を見ると『いや、これはきついだろうな』って考えます。これはもう、次のプレーで打ち消していくしかないわけですけど」”(20p)
 ⇒渡辺明九段は野球観戦以外にも競馬やマンガなど多趣味な方で、それで通算タイトル獲得数31期(歴代4位)なのは、すごいことですね。

【[第2局]森内 俊之】から、2020年ABEMAトーナメントで活躍した時の森内俊之九段の話。
“森内は超早指しの団体戦、ABEMAトーナメントにレジェンドチームのメンバーとして2年続けて参加。昨年の準決勝では現役タイトルホルダーの永瀬拓矢、藤井聡太を連破して健在ぶりを見せつけた。(略)
「ABEMAトーナメントはアクシデントが付き物ですし、将棋本来の面白さとは違う面白さもあるようですね。気合を入れるためにバンジージャンプとかやっているチームに入らなくてよかったです(笑)」”(39p)
 ⇒ABEMAトーナメントは、インターネットのABEMA・将棋チャンネルで放映されるトーナメント
戦です。

【[第6局]木村 一基】から、2019年に王位戦で豊島将之王位に挑戦した時のエピソード。
“豊島はスキがなく強かった。木村は出だしで2連敗。そこから巻き返して3勝3敗で最終第7局を迎えた。勝てばタイトル獲得という重大な対局の直前。木村は財布を無くすアクシデントに慌てた。
「近所にマッサージに行く途中で落として、交番に行ったら届いていた。これは運を使い果たしたと見るか。それともツイていると見るか。人それぞれ考え方は違うでしょうね。私はいいほうに考えたことはほぼない。そうやって生きてきたからしょうがない」”(81p)
 ⇒“豊島はスキがなく”でニヤリとした人は将棋マニアですね。ちなみに結果は会心の一局で七番勝負を4勝3敗で制しました。

【[第9局]戸部 誠】から、渡辺明九段と戸部誠七段の信頼関係。
“ABEMAトーナメントでは戸部が不出来な一局を指したあと、リーダーの渡辺が酷評する場面が話題になった。
「ネットで『圧力ナベ』って書かれてましたね(笑)。でも見ている人には面白かったんじゃないですか。あれはいつもの調子なんです。ボロボロの将棋を指しているのに『まあまあ』って気を使われるよりよっぽどいいです。20年来の信頼ですね」”(114p)
 ⇒インターネット中継では楽屋裏まで中継されてしまうんですね(苦笑)

【[第19局]桐谷 広人】から、升田幸三の弟子:桐谷広人七段が若い頃に励まされた言葉。
“桐谷の将棋人生に偶然希望を与えたのは、升田の弟弟子にして最高のライバルで、当時将棋界の絶対王者として君臨していた大山康晴だった。(略)
 「実家で伏せっていたら高校の同級生のお母さんが走り込んできて、『電車で偶然、大山名人におうたんよ! 息子の同級生で桐谷くんというのが将棋のプロになるために東京行っとるんよって言うたら、ああ、桐谷さんですか。よく知っています。彼は八段になりますよって言うちょったよ』って教えてくれて、急に光明が見えてきたっていうかね」”(236p)
 ⇒升田幸三と大山康晴がライバルということは知っていましたが、二人が兄弟弟子とは知りませんでした。

【[第21局]森下 卓】から、羽生善治九段が七冠同時制覇を達成した時の森下卓九段の言葉。
“96年。羽生は谷川浩司から王将を奪い、将棋史上初の七冠同時制覇を達成。解説者として現地にいた森下は感想を問われ、次のように語った。
「『夢の七冠』と言われますけれども、われわれにとっては屈辱以外の何物でもありません」”(258p)
 ⇒天才集団の将棋界ですから、一人の棋士がすべてのタイトルを保持することを潔しとしない棋士も大勢いることでしょう。

【[第24局]谷川 浩司】から、谷川永世名人が感じる初の七冠:羽生善治さんと二度目の七冠:藤井聡太さんの違い。
“「羽生さんが七冠を目指していたのが24、25歳の頃で、いまの藤井聡太さんより少し年長になります。羽生さんはもちろん、その当時、圧倒的な強さでした。でもまだ『ここをなんとかすれば勝てる』というのがあったんですよね。(略)」
「ちょっと現状の藤井さんはですね(笑)。『ここをなんとかすれば勝てる』というのが、私の目からではなかなか見当たらない。少し先輩の他の棋士も、ちょっと困ってるんじゃないかと思います」”(299〜300p)
 ⇒同じような感想を羽生善治九段がNHKの特番で語っていました。

本書に登場する人は、最年長の蛸島彰子さん(77歳)から、最年少:鎌田美礼さん(15歳)まで幅広い年代です。
今、将棋界は史上初の八冠達成を目前にした藤井聡太さんばかり注目されていますが、実際の将棋界は、本書に登場するような多くの棋士・女流棋士によって支えられていると実感しました。

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松本 博文(まつもと・ひろふみ)
将棋ライター。1973年、山口県生まれ。東京大学法学部卒。在籍時、将棋部で団体戦全国優勝。2003年から「青葉」の名で将棋のネット中継に多く携わる。著書に
『ルポ電王戦』『藤井聡太 天才はいかに生まれたか」(NHK出版新書)など。現在はネットニュースを多数執筆中。

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