題名：旅するカラス屋
著者：松原 始（まつばら・はじめ）
出版：ハルキ文庫
価格：860円＋税（2023年3月 第一刷）
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面白い本を見つけました。
動物行動学を専門とされている松原始さんのカラスに関するエッセイです。
裏表紙の惹句を引用します。
“ここに行けば、どんなカラスに会える
だろう──カラスの生態を専門とする
動物行動学者・松原始先生は世界地図
を見ながら日々考える。
そんな松原先生がカラスを追いかけ、
日本を、そして世界を旅した距離はゆ
うに五万�卍供Ｄ敢困捻�秩父や屋久島
を駆け回り、冬の知床では雪の原野に
身を隠すため頭から白いテーブルクロ
スを被る。音楽の街ウィーンでもマレ
ーシアのジャングルでも、とにかくこ
このカラスが見たい！ と探し歩く。
カラスとカラス屋、どちらの生態も興
味深い「カラス旅」エッセイ！”
目次は次の通りです。
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本書に登場するカラスたち 画 松原 始
はじめに――さあ、カラスづくしの旅へ
第１章 調査のためのカラス旅
カラス訪ねて山々へ
世界遺産屋久島山頂域へ
第２章 学会もまた旅である
そもそも学会とは
東欧に暮らすカラスたち
第３章 カラス旅での出会い
知床のワタリガラス
世界のカラスを知る旅へ
北欧に棲むカラス
おわりに――旅はまだまだ終わらない
文庫版あとがき
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印象に残った文章を引用します。
【はじめに――さあ、カラスづくしの旅へ】から、松原博士が南米に行かない理由。
“子供のころは、世界地図を見ながら「ここに行けばどんな動物がいるのだろう」と考えた。今は「どんなカラスがいるのだろう」と考える。
だから南米は行き先として微妙だ。すべてにおいて魅力的だが、一つだけ重大な欠点がある。カラスがいないのだ。カラス科のサンジャク類はいるが、カラス属は分布しない。南米でカラスの代わりに死骸やゴミを漁るのはコンドル類である。”(11p)
【第１章 調査のためのカラス旅】《カラス訪ねて山々へ》から、日本のカラス旅であった出来事。
“調査中にはまあ、実にいろんなことがあった。天竜川ではヤギに出会い、日光ではバスに乗り遅れて中禅寺湖を徒歩で４分の３周し、川俣温泉では大雨に降られて温泉に逃げ込んだ。予備調査で千葉に行ったときは「イノシシによる落石に注意」という信じがたい看板を見かけた。秋川渓谷では迷い込んだ小屋の奥で猫軍団に出くわした。”(56p)
【第２章 学会もまた旅である】《東欧に暮らすカラスたち》から、世界最古のウィーン動物園で聞いたオオカミの遠吠えの話。
“オオカミは遠吠えを始めた。すぐにもう一頭も加わる。(略)
これを聞いた瞬間、ゾクリと鳥肌が立った。かつて、ヘンゼルとグレーテルが聞いたのは、こんな声だったのだ。
間もなく、森は闇に沈む。日本語では逢魔が時。フランスでは「entre chien et loup（イヌとオオカミの間）」、相手がイヌなのかオオカミなのかわからない時刻、まさに「たそがれ」時というわけだ。黄昏とも書くが、本来の意味は「誰そ彼」、「あれは誰だ」である。見慣れていた日常と入れ替わりに、闇と魔の彷徨い出る時刻が迫ってくる。そして、そこにオオカミがいて、こちらを見ている。中世の農民がこの声をどれほどの恐怖とともに聞いたか、多少は理解できた。”(158p)
【第３章 カラス旅での出会い】《知床のワタリガラス》から、初めてワタリガラスと出会った著者と、その時いっしょに調査をしていた森下英美子さん（東京大学農学部研究室）との会話。
“私たちはまたしても地図とコンパスで相手の行き先を予測し、車で移動した。車内で興奮してワタリガラスの感想を語り合う。
「ほんとにカポンカポンって鳴きましたね！」
「朝はキャハキャハ言ってたのに」
「会うたびに違う声で鳴いてません？」
真っ先に意見が一致したのは、「あんなのカラスの声じゃない！」という点だった。”(188p)
締めくくりに【第３章 カラス旅での出会い】《世界のカラスを知る旅へ》から、マレーシアのランカウイにカラス旅に行った時のエピソードを引用します。
“観光情報を見ていると「特に危険な生物はいない」となっていたランカウイだが、（出発の）直前に知り合いの研究者が渡航していたことがわかり、様子を聞いたらまるで違った。
「森の中はヒルだらけ、キングコブラはいるは、バイパー（毒ヘビ）を掴みそうになるわ」と恐ろしいことを言う。この人はダニを探してどこへでも行ってしまうのでちょっと話を割り引くとしても、一般の観光客と生物屋は行動が違うのだ。”(219p)
そんな恐ろしい事実を知っても、カラスに会うために現地へ行ってしまう情熱は尊敬に値します。
虫好き、動物好きを自任する私ですが、そこまでの決断はできそうにありませんから、本を読んで楽しむことで良しとします。
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松原 始（まつばら・はじめ）
1969年奈良県生まれ。京都大学理学部卒業。同大学院理学研究科博士課程修了。京都大学理学博士。
専門は動物行動学。東京大学総合研究博物館勤務。研究テーマはカラスの生態、行動と進化。
近著に『カラスの教科書』（講談社文庫）『カラスの補習授業』（雷鳥社）『カラスと京都』（旅するミシン店）『カラス屋の双眼鏡』（ハルキ文庫）『カラスは飼えるか』（新潮文庫）などがある。
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