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2023年06月18日09:24

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国道16号線 「日本」を創った道[読書日記939]

題名:国道16号線 「日本」を創った道
著者:柳瀬 博一(やなせ・ひろいち)
出版:新潮社
価格:1450円+税(2021年4月 第5刷)
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マイミクさんに教えてもらった興味深い本を読みました。
どんな風に興味深いかというと、私自身が大学時代から現在に至るまで約四十年間を国道16号線周辺で過ごしているからです。
ちなみに「16号線」は、横須賀からスタートし首都圏をぐるりと周って千葉県:富津までを囲む環状線です。

帯の惹句を紹介します。
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“首都圏をぐるり、330キロのこの全国一混雑する道は、
 日本誕生から
 頼朝、家康、ユーミン、
 そして令和までをつなぐ「地形」なのだ――
 痛快! 日本文明論。”

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目次は次の通りです。

 はじめに
 第1章 なにしろ日本最強の郊外道路
 第2章 16号線は地形である
 第3章 戦後日本音楽のゆりかご
 第4章 消された16号線――日本史の教科書と家康の「罠」
 第5章 カイコとモスラと皇后と16号線
 第6章 未来の子供とポケモンが育つ道
 あとがき

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印象に残った文章を引用します。

【第1章 なにしろ日本最強の郊外道路】から、「国道16号」が施行された時期が1963年だったという話。
“そして高度経済成長期真っ只中の1962年5月、16号線は現在のルートで指定を受ける。富津から木更津、木更津から千葉までの127号線の一部、千葉から横浜までの129号、横浜横須賀間の16号線、横須賀から走水までの道路がすべて「国道16号」として指定され、翌1963年4月1日施行された。”(29p)
⇒著者は国道16号沿線を“1100万人が住む最強の「郊外」”と書いています。

【第2章 16号線は地形である】から、「弥生時代」という呼び名の由来。
“そもそも「弥生時代」という呼び名は、東京・文京区の東京大学キャンパスのある弥生町の貝塚で見つかった土器を「弥生式土器」と名付けたことに由来する。東京が「弥生時代」「弥生式土器」という名の発祥の地なのだ。”(78p)
⇒「縄文時代」の縄文が土器の文様からきていることは知っていましたが、「弥生」の由来は初めて知りました。

【第3章 戦後日本音楽のゆりかご】から、数多くのミュージシャンが16号線沿線で育った要素の1つ「第2のカギ「シルク」について。
“ユーミンのインタビューに「八王子の生まれで」という台詞がある。ユーミンの実家は1912年に八王子で創業した荒井呉服店だ。江戸末期から盛んになったシルク=生糸・絹産業は、明治期に日本経済を支える巨大ビジネスに成長し、八王子は各地で生産された生糸が集まる「絹の都」として栄えた。八王子と横浜を結ぶのちの16号線ルートは「絹の道」とも呼ばれ、近代日本のシルクロードとなった。横浜港から生糸が大量輸出され、日本最大の外貨獲得手段になった。”(103p)
⇒ちなみに国道16号線が音楽を生む道となった3つの要素を著者は、1)軍,2)シルク,3)港と説明しています。

【第4章 消された16号線――日本史の教科書と家康の「罠」】
“複数の研究者が同様の指摘をしている。江戸東京博物館の学芸員を務める歴史学者の齋藤慎一は、『中世を道から読む』(講談社現代新書、2010)の中で、「家康以前、江戸はすでに都市だった」という項を立て、「徳川家によって繁栄した江戸というイメージを高めるために、そのコントラストとして以前の江戸をきわめて寂しく描いたものである」と断じる。”(142p)
⇒著者は“家康が江戸入りした時点では江戸城がオンボロで周囲も寒村でススキ野原のさびしい場所だったという描写は、家康が巨大都市をゼロからつくりあげた「家康伝説」を強化するために江戸時代初期に作られた「お話」かもしれない”(140p)という歴史学者の説も紹介しています。

【第5章 カイコとモスラと皇后と16号線】
“横浜開港時の日本は、まだ鎖国状態を全面的に解いたわけではなかった。そこで開港場から外国人が自由に歩ける「遊歩区域」が設けられた。横浜港ではおおよそ10里までの地域だったという。10里といえば約40キロ、横浜から八王子までの距離である。(略)
当時の様子を中央大学の松尾正人名誉教授はこう説明する。
「外国人は、この遊歩区域を貿易の商売に利用しました。それは、八王子まで欧米人あるいはその商人の番頭であった中国人がやってきて、生糸の品定めや買い付けをしていることからわかります」”(183p)
⇒学生時代に私が歩き回った地方都市:八王子が明治初期から栄えていたとは想像すらしていませんでした。

冷静に考えれば、首都圏を囲む国道16号線周辺から、産業や音楽、流行が誕生するのは当然の成り行きですが、本書に私が歩いた地域や訪れた街が登場すると、知らず知らずのうちに著者の意見に賛同している自分に気づき、内心苦笑しながら読んでいました。

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柳瀬 博一(やなせ・ひろいち)
1964(昭和39)年、静岡県生れ。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。慶應義塾大学卒業後、日経マグロウヒル社(現・日経BP社)に入社。「日経ビジネス」記者、単行本の編集、「日経ビジネスオンライン」のプロデューサーを務める。2018(平成30)年に退社し、現職に。2023(令和5)年、『国道16号線 「日本」を創った道』で手島精一記念研究賞を受賞。著書に、『親父の納棺』『インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ』(小林弘人氏との共著)『「奇跡の自然」の守りかた』(岸由二氏との共著)『混ぜる教育』(崎谷実穂氏との共著)がある。
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