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2023年06月11日08:27

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諦念後[読書日記938]

題名:諦念後 男の老後の大問題
著者:小田嶋 隆(おだじま・たかし)
出版:亜紀書房
価格:1600円+税(2022年12月 第1版第1刷)
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昨年亡くなった小田嶋隆さんのコラム集を読みました。
小田嶋隆さんは、マイミクさんの紹介で知りました。ウェブに連載されていた「ア・ピース・オブ・警句」から選抜された著書『超・反知性主義入門』が印象に残っています。

帯の惹句を引用します。
“《ジジイだって、歳を取るのは初めての経験なのだ。許してあげてほしい。》
  男の「定年」は「諦念」なのか?
  還暦を過ぎた男の気分や期待や虚栄や子供っぽさをオダジマ節で軽快につづったコラム集”

目次は次の通りです。
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  1 定年後のオヤジたちは、なぜ「そば打ち」をするのか?
  2 定年男はギターを買ってみた。非モテだったせい青春時代を取り戻すために。
  3 逆三角形の体の自分になりたくて、スポーツジムに通ってみた。
  4 過去を清算しようと思って、「断捨離」をしてみた。
  5 立派な死に方だったと言われたくて、「終活」をしてみた。
  6 卒業後40年を経て、同窓会に出席してみた。
  7 ひまつぶしのために麻雀を打ってみた。
  8 職人を志して、鎌倉彫をやってみた。
  9 しがらみから逃れられなくて選挙に出てみる。
 10 植物の魅力に目覚め、盆栽をはじめてみた。
 11 バカな虚栄心とわかりつつ、大学講師をやってみた。
 12 自分は永遠に健康だと思っていたら、脳梗塞で入院してしまいました。
 13 実りある無駄話をするためにSNSをやってみた。
 14 定年後、何歳まで働けばいいか考えてみた。
 15 「がん」での死に方に思いを巡らせてみた。
 あとがきにかえて──小田嶋美香子

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読んでいて、身につまされた文章を4つ引用します。

【4 過去を清算しようと思って、「断捨離」をしてみた。】から、読み終わった本をブックオフに売り払った経験。
“私自身、3年前の冬、近所のブックオフに200冊ほどの書籍を200冊ほどの書籍を持ち込んで売却(半分以上は値段がつかずに、そのまま廃棄という運びとなった)したことのダメージからいまだに立ち直れていない。
 無論、それらの書籍は不要だから売り払ったブツでもあれば、邪魔だったから整理した紙ゴミでもある。その点は間違いない。が、それでもなお、いまだに夢に見るほど私が苦しんでいることもまた事実なのである。”(53p)
⇒私も昔読んだ本を売りに行って値段がつかず、「面白い本なのに……」と愕然とした経験があります。

【5 立派な死に方だったと言われたくて、「終活」をしてみた。】から、著者が取材した「第4回エンディング産業展」の開会式で抱いた感想。
“しかもまた、スピーチをしたお偉方がいちいち水際立っていて、誰もが1分以内でスピーチを切り上げている。誰ひとり笑いをとろうとか、ウケを狙おうとかいった浅ましい仕事は見せない。(略)
 どの業界でも、この種の儀式では必ずやひとりかふたり、不必要に長いスピーチをカマすバカなオヤジが登場することになっている。もちろん、中には面白いスピーチをするおっさんがいないわけではない。
 だが、面白いからといって聞かされている参加者がうれしいのかというと、断じてそんなことはない。われわれは笑いに来ているのではない。ただただ、早く帰るためにのみ現場に参集している。”(71p)
⇒著者は“簡素でさりげなく、しかも無駄のない、極限まで考え抜かれた儀式”(69p)と絶賛しています。

【7 ひまつぶしのために麻雀を打ってみた。】から、定年者が集まる同窓会についての辛辣な感想。
“諦念者は何かにつけて集まっては無事を確認しあう。でもって
 「おお、変わってないな」
 などと本当は目の前の相手の落魄ぶりに驚愕しているにもかかわらず、見え透いたおべんちゃらを吐き出すことになっている。
 理由は自分にも同じお愛想を向けてほしいからだ。”(90p)
⇒“目の前の相手の落魄ぶり……”などとあからさまに指摘されると、同窓会を企画しづらくなりますね(苦笑)

【13 実りある無駄話をするためにSNSをやってみた。】から、諦念者がスマホを苦手になる理由。
“実際、勇んでスマホを導入したものの、半年ほどでガラケーに戻った《幼年》高齢者は少なくない。
 理由は、ミスタッチだ。
 老眼で細かい字がろくに見えない上に、指先も不器用になっている諦念者は、スマホを思う通りに操作できない。
 違う相手に電話をかけてしまったり、手元が狂ってうっかり詐欺広告アプリを立ち上げたり、誤字だらけのメールを一括送信して恥をかいたりという、そういうどうにも恥ずかしいミスを繰り返したあげくに、ある日、懐かしのガラゲーに回帰する決断に至るわけだ。”(178p)
⇒私もスマホに替えたものの、同じような経験をしています。

締めくくりに【15 「がん」での死に方に思いを巡らせてみた。】からも引用します。
“「終活」という言葉が発明されたのは、いつ頃のことだろうか。そんなに昔の話ではない。にもかかわらず、この言葉はこの10年ほどの間に、多くの高齢の日本人にとっての新たな強迫観念になりおおせている。(略)
 個人的に、私は「終活」というこの言葉を安易に振り回す人々や企業を信用しない。”(199p)
著者のさりげない反骨精神が感じられます。
軽妙な文体ですが軽薄ではない、魅力的なコラム集でした。

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小田嶋 隆(おだじま・たかし)
1956年東京赤羽生まれ。早稲田大学卒業。食品メーカー勤務などを経て、テクニカルライターの草分けとなる。国内では稀有となったコラムニストの一人。
著作は、『我が心はICにあらず』(BNN、1988年)をはじめ、『パソコンゲーマーは眠らない』(朝日新聞社、1992年)、『地雷を踏む勇気』(技術評論社、2011年)、『小田嶋隆のコラム道』(ミシマ社、2012年)、『ポエムに万歳!』(新潮社、2014年)、『ア・ピース・オブ・警句』(日経BP社、2020年)、『日本語を、取り戻す。』(亜紀書房、2020年)、『災間の唄』(サイゾー、2020年)、『小田嶋隆のコラムの向こう側』(ミシマ社、2022年)など多数がある。
また共著に『人生2割がちょうどいい』(岡康道、講談社、2009年)などの他、『9条どうでしょう』(内田樹・平川克美・町山智浩共著、毎日新聞社、2006年)などがある。
2022年、はじめての小説『東京四次元紀行』(イースト・プレス)を刊行、6月24日病気のため死去。
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