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2023年06月04日19:41

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広重ぶるう[読書日記937]

題名:広重ぶるう
著者:梶 よう子(かじ・ようこ)
出版:新潮社
価格:2,100円+税(2022年5月 発行)
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二月に『我、鉄路を拓かん』を読んで感銘を受け、梶よう子さんの『広重ぶるう』を読みました。安藤重右衛門こと歌川広重を主人公にした小説です。
歌川広重と言えば、『東海道五捨三次』が有名ですね。

目次は次の通りです。
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 第一景 一枚八文 
 第二景 国貞の祝儀
 第三景 行かずの名所絵
 第四景 男やもめと出戻り女
 第五景 東都の藍

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印象に残った文章を引用します。

【第一景 一枚八文】から、主人公:重右衛門が葛飾北斎の画を見て驚嘆する場面。
“北斎の画そのものには唸らざるを得ない。曲亭馬琴と組んだ合巻本の挿絵など、常人ではとても思いつかないような発想の奇抜さがある。
 鬼気迫る圧倒的な画力。それは、名所絵でも同様だった。近景、遠景の対比を極端に表すことで奥行きを出す絵組。山肌の陰影など、見るべきところ、学ぶべきところは随所にある。”(28p)

【第一景 一枚八文】から重右衛門と絵双紙屋:喜三郎の会話。本書のタイトル『広重ぶるう』に関係するやりとりです。
“「異国の色?」
 「そう、ぷるしあんぶるう、という舌を噛みそうな色名だそうだよ。舶来の色だから、まだ値が張るそうだがねぇ。なんでも伯林(ベルリン)ってところで作られた物らしい。けど、そんなんじゃ皆、いいづらいってんで、伯林の藍だからベロ藍っていっているようだがね」”(55p)

【第三景 行かずの名所絵】から、絵師の力が及ぶ範囲が試し摺りまで、という話。
“重右衛門に否やはない。絵師は版下絵を描き、試し摺りで色を確かめるまでが仕事だ。それ以後、後摺りで色が変わろうと、別段、文句もつけない。版木が別の版元に売られてしまっても、絵師は異を唱えることはない。要するに画料を得てしまえば、あとはすべて版元に委ねられる。”(170p)

【第五景 東都の藍】から、江戸の元旦の風情を描いた描写。
“元日の朝は、弟子たちが勢ぞろいする。重右衛門が若水を汲み、それぞれの硯に水を満たして墨を磨らせる。その墨で宝珠を描き、長押に貼りつける。そのあとで屠蘇を皆でいただく。”(290p)

最後に【第五景 東都の藍】から、ちょっと滑稽な会話を抜き書きします。
“と、階段をけたたましく上がってくる音がした。
 「なんだ、うるせいぞ」
 「うるせえじゃありませんよ、広重師匠!」
 蔦屋吉蔵が汗みずくで画室に入って来た。
 「あ、蔦屋さん、生きていたのかい。そいつはなによりだ。」”(345p)

こんなやりとりから、作者は落語も好きにちがいないと思います。
そして、主人公が名所絵に取り組む真面目さと、江戸っ子らしい軽妙さが物語に奥行きを与えていると感じました。

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梶 よう子(かじ・ようこ)
東京都生まれ。フリーライターとして活躍するかたわら小説を執筆。
2005(平成17)年「い草の花」で九州さが大衆文学賞を大賞。2008年『一朝の夢』で松本清張賞を受賞。16年『ヨイ豊』で直木賞候補、歴史時代作家クラブ賞受賞。
著作に「みとや・お瑛仕入帖」シリーズのほか『宝の山 商い同心お調べ帖』『立身いたしたく候』『ことり屋おけい探鳥双紙』『葵の月』『北斎まんだら』『とむらい屋颯太』『菊花の仇討ち』『噂を売る男 藤岡屋由蔵』『吾妻おもかげ』など多数。

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