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2023年02月17日23:37
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ロシアと西欧の狭間で揺れるセルビア共和国（3）2023年2月17日は、かつて自治州だったコソヴォ共和国の独立宣言から15年
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＜セルビア共和国とコソヴォ共和国の現在（いま）第3回目（終）コソヴォ共和国独立宣言15周年＞
本日のテーマは、東欧のセルビア共和国とコソヴォ共和国である。コソヴォ共和国は、旧ユーゴスラビアを構成したセルビア共和国の一つの自治州だった。2008年２月17日に、NATOの平和維持部隊が駐留する中、コソヴォの議会は「独立宣言」を行った。自国領土とみなすセルビア共和国は、今なお独立国と認めていない。
2022年11月18日から12月18日まで開催されたFIFAワールドカップ・カタール大会の期間中、3回にわたってセルビア関連の日記を連載した。うち1回目はセルビア代表チームの紹介、2回目と3回目は政治面から、セルビア共和国とコソヴォ共和国問題について考察した。
独立宣言15周年となる2023年2月17日には、セルビアとコソヴォの政治問題の日記、最終第3回目になる。コソヴォとセルビア間の車のナンバープレート付け替え問題が争点となる。ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まって丁度1年、東欧と西欧の狭間で揺れるセルビアのブチッチ政権の政策についても取り上げる。
セルビア関連日記
�ー匆饉腟創∨�解体から30年の日に作成した日記 コソヴォ紛争の原点についても記載
4/27(水）旧ユーゴスラビア社会主義連邦共和国崩壊30年 コソヴォ紛争 ボスニア紛争 大セルビア主義と大アルバニア主義
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��第1回 セルビアのサッカーについて
セルビア 対 ブラジル戦レポート https:/
�Ｂ�2回 EUとロシアの狭間で揺れるセルビアの政治 https:/
�ぢ�3回 98年から99年のコソヴォ紛争 少子化に苦しむ経済
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目次
・第1章 コソヴォ共和国独立までの経緯（過去3回のレポートを振り返る）
・第2章 セルビアとコソヴォの仲裁役アメリカの役割
・第3章 保守的なセルビア共和国
・第4章 中国からバルカン諸国を守るEUの方針 ティラナ採択 モンテネグロが債務の罠に陥る
・第5章 極右団体とEUの狭間に立つブチッチ政権
第1章 コソヴォ共和国独立までの経緯（過去3回のレポートを振り返る）
イスラム教徒の信者が多いアルバニア人が中心のコソヴォ共和国の独立は、NATOの力によって達成できた。事の発端は、98年2月にある。コソヴォ共和国の独立を掲げるコソヴォ解放軍と、セルビア軍の間で戦争が行われた。セルビア人によるアルバニア人虐殺問題が明るみにでると、NATOが介入し、最終的に武力を使って、阻止した。
NATOも当初は、平和的解決を目指していた。1999年2月に、フランスの首都パリの近郊ランブイエにて、コソヴォ自治州の主要民族アルバニア人の代表者と、セルビア共和国の大統領ミルティノヴィッチ氏を呼び、和平案を提案した。NATO側は、ユーゴスラビア連邦大統領のミロセヴィッチの参加を求めていた。ミロセヴィッチ大統領は、直接NATO側からアルバニア人虐殺についての追求を避けるため、欠席したのである。代理として出席したミルティノヴィッチは、ミロセヴィッチの意思に従い、セルビアに不利な案を飲まなかった。ランブイエ和平では、コソヴォの自治権を拡大すること、またNATOの平和維持部隊が駐留することなど、セルビア共和国から切り離すことを意味していた。ミルティノヴィッチは、コソヴォに一定程度自治を与えることについて容認したものの、NATO軍の駐留には反対した。結果的に和平は失敗に終わり、セルビア軍と、アルバニア人から成るコソヴォ解放軍との戦いが続いた。3月24日に、アメリカを主導としたNATO軍が、人道介入を掲げて、国連安保理決議なしで、セルビアに宣戦布告する。セルビア軍の軍事施設をターゲットに空爆を行った。名づけて「アライド・フォース作戦」という。セルビアの首都ベオグラードの中国大使館を誤爆するなど、他国からも非難の声が巻き起こった。圧倒的な軍事力を誇るNATOに、セルビア軍は太刀打ちできない。ユーゴスラヴィア連邦のミロシェヴィッチ大統領が降伏し、6月12日にKFOR（平和維持部隊）の到着により、コソヴォは事実上独立状態になった。国際連合のコソボ地位交渉特使フィンランド大統領を勤めるアハティサーリ氏（1993年３月1日から2000年3月1日まで、大統領職に就く）が、アルバニア人が中心のコソヴォ共和国とセルビア共和国の間に入り、和平に向けて動く。
写真＝アハティサーリ氏 2008年ノーベル平和賞を受賞、当時の写真
掲載元 REUTERS 2008年10月10日付け https:/
国連常任理事国のロシア連邦が、国家主権の尊重を重視し、セルビア共和国の意向を聞き入れるべきだと主張する
。2007年3月末、国際社会の監視下で、実質的なコソボの独立を容認する最終調停案を国連に手渡した。コソヴォに肩を持つ米国とEU、セルビア寄りのロシアとの3者が、コソヴォの地位を巡って、議論する。2008年12月に行われるセルビア大統領選挙の結果後に、協議を再開することで一致した。コソヴォへの対応が争点となったセルビア大統領選挙戦において、現職のダディッチ大統領が、コソヴォへの厳しい態度で臨むと宣言したニコリッチ候補を小差で破り、2期目に突入する。ダディッチ大統領は、コソヴォを独立国として反対の立場をとるとはいえ、EU入りへ向けて、西欧諸国の意向を聞き入れる姿勢を示していた。EUと米国の後押しを受けて、コソヴォは独立への道を突き進む。2008年2月17日に、議会によって、独立宣言を行った。定数120の議員のうち、109人によって採択された。2016年時点で国連加盟113カ国から承認が得られた。常任理事国の一つであるロシア連邦によって、拒否され、国連は未加盟なままだった。2022年2月24日、ロシア軍によるウクライナ侵攻が長期化する中、セルビア共和国とコソヴォ共和国の間でも緊張状態に陥っている。2022年現在の両国の関係を紹介する。
第2章 セルビアとコソヴォの仲裁役アメリカの役割
セルビアとコソヴォの国交正常化に向けて、仲裁役を引き受けたのはアメリカだった。2020年の秋に、両国の国境に跨る湖を「トランプ湖」と命名することで合意に達した。2021年1月に、大統領の座が共和党のトランプ氏から、民主党のバイデン氏に代わった。バイデン氏は、バルカン半島と中東問題の介入を避け、2022年以降ウクライナへの武器支援の対応に追われた。次第にセルビアとコソヴォの争いも再熱した。2021年9月26日、コソヴォ政府は、北隣のセルビアのナンバープレートをつけた車の入国を禁止する措置を下した。コソヴォ共和国内で少数派のセルビア人はただちに抗議する。アルバニア人が中心のコソヴォ政府機関に対して手榴弾を投げつける。
写真＝11月6日にミトロヴィツァで政府に抗議するセルビア人 掲載元 KWP News 2022年11月7日付 https:/
セルビア人組織の肥大化を警戒して、コソヴォ政府は、国境を厳重に管理する。セルビアから入国するためには、事前申請手続きを義務化した。国境検問所では、60日間有効の臨時車両登録証明書の提示が必須となった。EUは、両国の首脳を本部があるベルギーの首都ブリュッセルに呼び、解決に向けて、話し合いの場を設けた。コソヴォ政府は、2022年11月に、新たに共和国内で暮らす1万人のセルビア人に対して、2023年4月までナンバープレートを付け替えるように求めた。強制的にセルビア色を排除するコソヴォ政府の方針に反対して、いっせいに公職を辞職する事態に発展した。
コソヴォ北部では、人口7万1千人（２０１１年時点）のミトロヴィツァを中心に、2008年の独立宣言後も、セルビア人がまとまって暮らしている。ミトロヴィツァは、コソヴォ紛争において、民族分断の象徴的な町となった。町の南部では、新たにアルバニア人の入植が進んだ。セルビア人は、全て北部に移住し、イルバ川によって、アルバニア人の居住区と隔てられている。セルビア人の人口は推定8000から1万、民族間の争いを避けるため、KFORのフランス人兵士7000人が治安維持に当たっていた。
ＥＵのボレル外交安全保障上級代表（外相）は、2022年11月21日の仲裁協議で「危機的な状況を避け得る」（ボレル氏）妥協案を提示した。セルビア側は承諾したものの、コソボ側が拒否したと報道陣に明らかにした。
写真＝ボレル外相 欧州連合（ＥＵ）のボレル外交安全保障上級代表（外相）＝２２日、仏東部ストラスブール（ＥＰＡ時事）https:/
セルビアのブチッチ大統領は地元テレビに、妥協案は「何度も」修正され、支持することに異論はないと表明する。対して、コソヴォのクルティ首相は、両国関係の完全な正常化を目指した、より広範な議論を要求した。日本時間11月24日付けの報道によると、ＥＵのボレル外相の仲介により、両国の責任者の間で、決着点を見出した。外相のツィート文には次のように書かれている。「コソボとセルビアの交渉責任者がＥＵの仲介で、さらなるエスカレーションを回避し、両国の関係正常化に関する提案に完全に集中するための方策で合意した」
詳細記事 JlJl.com 2022年11月23日 https:/
写真＝コソボのジャリニエ国境交差点で車のナンバーの国家マークを覆うステッカーを剥がす運転手で９月撮影（２０２２年 ロイター／Ognen Teofilovski）掲載元 NEWS WEEK 2022年11月24日付 https:/
両国の行方を、1999年に武力介入に踏み切ったＮＡＴＯは注視している。8月17日には、ＮＡＴＯのストルテンベルク事務総長が、本部のあるベルギーの首都ブリュッセルにて、ブチッチ大統領を招き、会談した。ストルテンベルク事務総長は、コソヴォ国内に駐留する400人の治安維持部隊について、必要があれば、増強すると、説明したのである。翌18日に、ＥＵ仲介により、ブチッチ大統領とクルティ首相との三者協議が行われた。クルティ首相は、同日ストルテンベルク事務総長との会談において、将来的にＮＡＴＯ加盟申請する意向を示したのである。
詳細記事 REUTERS 2022年8月18日付 https:/
クルティ首相は、2022年6月の段階で、同年末までＥＵ加盟申請を手続きする予定を示した。2009年に申請書を出しているセルビアは、コソヴォ共和国との関係改善が求められている。1997年から99年まで2年に渡ったコソヴォ紛争をNATOが阻止して、ユーゴースラビア問題は一旦落ち着いた。コソヴォは、独立国家として、2022年5月12日、欧州加盟評議会への加盟申請をした。対して、コソヴォをセルビアの一部と主張するブチッチ大統領は、平和的で外交手段で、反対意見を表明すると誓った。同団体から、加盟国の反発を受けて、2022年3月にロシアが脱退した。
第3章 保守的なセルビア共和国
正教徒が多いセルビア人は、西側諸国と歩み寄れず、ＥＵ加盟へまた一つ遠のく事態が起きた。2022年9月11日に首都ベオグラードにて、性的少数者ＬＧＢＴＱの権利を保護するために開かれる集会「ユーロプライド」の開催に反対するデモが起きたのである。参加者は数千人、デモ隊の中から、プーチン大統領と共に、第2次大戦中の大セルビア主義者ミハイロヴィッチ氏の写真が貼られた旗も掲げられていた。ミハイロヴィッチ氏は、2次対戦中に、ナチス・ドイツを含め、旧ユーゴスラビアの国土を支配した枢軸国との戦いに挑んだ。大セルビア主義を唱える彼が率いる軍団はチェトニックという。目下の敵は、ナチス・ドイツの傀儡クロアチア独立国だった。クロアチア独立国に住むセルビア人の解放を掲げて戦っていたのである。当初はイギリス、アメリカを中心に連合国から支持されていた。次第に意向に沿わなくなり、同じく連合国側のソ連側が支持する共産主義者から成るパルチザン部隊とも戦った。枢軸側の傀儡国家ユーゴスラビア救国政府と協力して、パルチザン部隊と戦ったチェトニックは、1945年には解散した。後のユーゴスラビア社会主義連邦共和国の終身大統領となったチトーによって、ミハイロヴィチは銃殺刑に処されている。
写真＝2022年8月28日／セルビア、首都ベオグラード、LGBTQ集会に反対する抗議デモ（Darko Vojinovic／AP通信）左側の旗写真ミハイロヴィッチ、右側の旗写真プーチン大統領
掲載元 KWP News 2022年8月29日付 https:/
ＮＡＴＯを牽引する米国を名指して「悪魔軍団」との叫びも聞こえてきた。ブチッチ大統領自身、8月末にユーロプライドの開催を拒否する声明を出している。集会の方は、ＥＵ加盟・非加盟に問わず、欧州各国で持ち回りに開催している。9月12日から18日にはベオグラードで開催する番だった。イギリスの首都ロンドンで第1回目が開催して30周年の節目の行事に、ブチッチ大統領自身が歯止めをかけたことになる。一方で、国家行事でない限り、大統領の許可がなくても、法律上開催は可能だった。ユーロプライドの主催団体「European Pride Organisers」は、西欧諸国の力を借りて、予定通りベオグラードでのイベントを強行すると決意を表明した。
一方、セルビア正教会は、イベント開催に断固たる反対意見を述べる。「悪の勢力は男女の結婚と家族の代わりに不自然な結合を押し付けている」と声明を発表した。
主催団体European Pride Organisersは2019年、正教会の元で、権利を奪われた性的少数者を保護し、同国を先進的な西欧に少しでも近づけるため、開催地に選んだ。
ブチッチ大統領は、開催を反対する理由について、2点上げた。
・コソヴォ問題やエネルギー危機への取り組みが最優先事項にあるからである。
・ユーロプライドの警備に人員を割く余裕がないからである。
保守的な正教徒が中心のセルビア共和国の中でも、西側諸国の考えに近い人々から成る団体が、結成されていた。ブチッチ政権への抗議の意思として、ユーロパレードに積極に参加するように呼び掛けている。
EUの高官数名はユーロパレードへの参加を表明した。米国のブリンケン（Antony Blinken）国務長官を含む多くの政府高官が中止命令を撤回するよう求めている
詳細 KWP NEWS 2022年9月12日付 https:/
第4章 中国からバルカン諸国を守るEUの方針 ティラナ採択 モンテネグロが債務の罠に陥る
伝統的にセルビアは、ロシアと同じスラブ系民族で、正教徒が数多い。ブチッチ大統領は、ロシア軍によるウクライナ侵攻の非難決議において、西欧と足並みをそろえて、賛成した。武力攻撃には一貫して反対の立場をとりながらも、対ロ制裁には加わっていない。ロシア側は、同じスラブ系民族で、同じ東方教会に属するセルビアとの仲間意識が強い。セルビア政府が、2022年3月に行われた国連の非難決議で賛成に回る中、国民の間では、ロシアを支持する声がある。欧州内で、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が、セルビア国内で勧誘活動しているとの情報が流れた。
EU入りを目指すセルビア政府は、ロシアに動じず、ただちに対策を練る。2023年1月19日、首都ベオグラードを拠点にする弁護士と反戦団体が、ロシア大使とセルビア保安・情報局（BIA）のトップを刑事告発した。その根拠として、首都ベオグラード中心部の建造物の壁に、ワグネルのどくろのエンブレムが現れたからである。極右団体「国民パトロール」の署名も入っていた。ひそかにロシア軍によるウクライナ侵攻の支持集会が開かれていたとはいえ、参加者は少数にとどまったと、政府は発表している。
写真＝ベオグラードのワグネルのエンブレムが書かれた壁画 参考文献 掲載元 BBC NEWS JAPAN 2023年1月20日付 https:/
セルビアの法律では、政府の許可なしで、外国の戦争に参加する行為は違法とみなす。現にロシア軍に加担して、ウクライナへ参加した25人が、裁判で有罪判決を受けていた。
ブチッチ大統領は、公式な声明において「クリミア半島もドンバス地域もウクライナである」との見解を表明している。
一方で、2022年6月には、ロシアからの原油輸入について、3年間の延長契約を更新した。ロシアの国営天然ガス会社ガスプロムは、セルビアの石油会社NISの株式の過半数を所有する。資源が乏しい同国において、対ロ制裁に加わると、悪い物価高に襲われ、経済が疲弊する。
欧州議会は、対ロ制裁の抜け穴になるセルビア共和国に対して、厳しい目で見ていた。欧州議会は、セルビアが制裁に同意するまでEU加盟交渉を中断するよう求める決議を可決した。セルビアがEU加盟交渉を中断されるのは2回目になる。加盟の条件として、コソヴォの独立を認める以外選択肢はない。
ブチッチ大統領が属するセルビア進歩党は、かつての大統領ミロセヴィッチが率いた急進党から離党した穏健派のメンバーで構成されている。2008年10月21日に結党以来、EUと融和を図ってきた。2016年に首相時代にブチッチ氏は、2020年までのEU入りを目標に掲げてきた。実際2012年に加盟国の候補入りし、2014年1月から交渉が開始されてきた。コソヴォを独立国と否定する立場から、EU入りは難航した。2022年4月に投開票が行われた総選挙で、ブチッチ氏が属する進歩党が、引き続き、第一党に選ばれた。ロシアとの関係を維持しながら、EU入りを目指す政策に、国民から支持を得たといえる。
2022年12月6日、EU入りへ新たな動きがあった。西バルカン地域6カ国（セルビア、コソボ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニア、モンテネグロ）とアルバニアを含む、7カ国のEU加盟に向けて、協議が行われた。中華人民共和国が、一帯一路政策において、モンテネグロまで影響力を及ぼしている事態から、EU側も手を売ったのである。6カ国のEU加盟に向けた取り組みの加速や安全保障面での協力拡大などを柱とする「ティラナ宣言」を採択した。
ティラナ宣言の詳細 日本経済新聞 2022年12月7日付け https:/
写真＝会議の一場面 ＥＵと西バルカン諸国の首脳会議の記者会見で話すミシェルＥＵ大統領（中央）ら＝６日、アルバニア・ティラナ（ロイター＝共同）
最も手続きが進むセルビアとモンテネグロは、2025年までEU加盟国となる見通しが立っていた。ロシア軍によるウクライナ侵攻への対応から、セルビアは難しい事態に陥った。対照的にモンテネグロは、2020年3月に、北マケドニアと共にNATOへ加盟済みである。同国は中国から受けた1100億円の借金を返済できる目処がたたず、2021年4月にEUに肩代わりを要請していた。GDP（国内総生産）はわずかに49億ユーロ（約6500億円）、国家予算で建設費用を賄えなかった。
人口62万の同国は、住民投票を経て、2006年にセルビア共和国から独立していた。小国の経済成長のため、交通網の整備が必要だった。交易路を確保するため、南部のアドリア海に面する港湾都市バールからセルビアの首都ベオグラードを結ぶ全長１６５キロの高速道路建設計画が立ち上がった。2014年に、積極的に融資の意思を表明した中国輸出入銀行と契約を結んだ。融資合意文章には、返済期限は2021年７月、担保は建設計画に含まれた土地だった。
写真＝高速道路の一部区間 （2021年5月11日撮影）。(c)SAVO PRELEVIC / AFP
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高速道路建設計画は、欧州の各銀行から融資を断られていた経緯がある。港湾都市バールからベオグラードまでは、高速鉄道が結ぶ。新たに高速道路の建設費用を投じても、採算が合わないと判断されたのである。2021年7月13日に、モンテネグロ初となる高速道路は、首都ポトゴリッツァ近郊第1区間41kmのみ開通した。同区間のみの建設費用は9億4400万ドル（約1000億円）、対外債務は、同国のGDPの8倍に達した。政府の見通しでは、高速道路の全区間が開通した場合、通行料からの収益では、推定で年間7700万ユーロ（約100億円）とされる道路のメンテナンス費用さえ補えなかったのである。採算ベースに乗るには、政府が発表した交通量の4倍は必要だった。既に財政の悪化から、国民には増税をお願いし、公務員の賃上げを凍結した。子育て支援策の一つ子を持つ母親向けの給付金も停止したのである。EU加盟へ向けて、財政健全化が求められている。
詳細 モンテネグロの高速道路計画 zakzak 夕刊フジ 2021年4月24日付け
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詳細 高速道路の財政面について Yutaka Asaka official blog 2021年6月11日付け
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第5章 極右団体とEUの狭間に立つブチッチ政権
セルビア政府を悩ます事態が、2023年に再び起こった。2月15日に、ベオグラードにて、EU側が提示したコソヴォ問題解決策について、数百人規模の抗議集会が開かれた。態度を保留にしたブチッチ大統領に、コソヴォに対して厳しい態度で接するように訴えたのである。現にコソヴォ政府は、2021年から、セルビアのナンバープレートをつけた車の入国を制限していた。
セルビア国営メディアによると、大胆なグループでは、「ロシアを裏切るな！米国に屈するな！」との叫び、大統領府に迫ったという。
西欧のメディアは、デモ隊の背後にはロシアがいるのではないかとみている。ロシアが、セルビアの右派団体を援助して、現政権のEU加盟手続きを妨害する狙いがある。ブチッチ政権は、EU加盟手続きについて、はっきりとした態度を示していない。以前から「西側の提案を検討する用意がある」と述べていた。
これまでのEUとの会議の内容から、コソヴォ共和国の国際機関の加盟について、反対票を投じないように忠告を受けた可能性がある。
98年から99年の2年にわたったコソヴォ紛争の死者は推定1万人にのぼる。難民の列車や病院、自動車工場まで被害にあった。軍事施設をターゲットにしながら、民間施設にも被害が及び、罪のない人々の血が流れた。
写真＝2023年2月15日、ベオグラードでの支持集会の一幕（Darko Vojinovic／AP通信） 掲載元 KWP NEWS 2023年2月16日付け https:/
ロシア軍によるウクライナ侵攻は、セルビア人を分断させた。ブチッチ政権も、EU加盟手続きが順調に進みながら、対ロ制裁を拒否したことにより、一端停止させられた。EUの各首脳は、中国の経済圏拡大を恐れ、ティラナ採択にて、セルビアを含め、西バルカン地域の加盟申請手続きを進める方向で一致した。セルビア共和国は、南隣のコソヴォ共和国との領土問題が残る。一方1992年にセルビア共和国と共に一時は新ユーゴスラビア連邦共和国を結成したモンテネグロは、財政赤字を抱えている。EU加盟手続きは、第49条に従い、自由、民主主義、人権と 基本権、法の支配を尊重する国であることが求められ ている。加盟申請中の西バルカン地域は、民主主義や、人権と基本権に問題を抱えている国もある。EUは、加盟の条件を緩和し、旧東側の社会主義国家を取り込み、ロシア、ベラルーシ、中国を含め、専制主義国家に対抗する狙いを持つ。コソヴォは、セルビア正教の発祥の地、17世紀末まではセルビア人が数多く暮らし、西部ペーヤを中心に聖堂も残る。親ロ派国家でありながら、ＥＵとの間に入り、政権運営を続けていく。
本日のテーマは、東欧のセルビア共和国とコソヴォ共和国である。コソヴォ共和国は、旧ユーゴスラビアを構成したセルビア共和国の一つの自治州だった。2008年２月17日に、NATOの平和維持部隊が駐留する中、コソヴォの議会は「独立宣言」を行った。自国領土とみなすセルビア共和国は、今なお独立国と認めていない。
2022年11月18日から12月18日まで開催されたFIFAワールドカップ・カタール大会の期間中、3回にわたってセルビア関連の日記を連載した。うち1回目はセルビア代表チームの紹介、2回目と3回目は政治面から、セルビア共和国とコソヴォ共和国問題について考察した。
独立宣言15周年となる2023年2月17日には、セルビアとコソヴォの政治問題の日記、最終第3回目になる。コソヴォとセルビア間の車のナンバープレート付け替え問題が争点となる。ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まって丁度1年、東欧と西欧の狭間で揺れるセルビアのブチッチ政権の政策についても取り上げる。
セルビア関連日記
�ー匆饉腟創∨�解体から30年の日に作成した日記 コソヴォ紛争の原点についても記載
4/27(水）旧ユーゴスラビア社会主義連邦共和国崩壊30年 コソヴォ紛争 ボスニア紛争 大セルビア主義と大アルバニア主義
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��第1回 セルビアのサッカーについて
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目次
・第1章 コソヴォ共和国独立までの経緯（過去3回のレポートを振り返る）
・第2章 セルビアとコソヴォの仲裁役アメリカの役割
・第3章 保守的なセルビア共和国
・第4章 中国からバルカン諸国を守るEUの方針 ティラナ採択 モンテネグロが債務の罠に陥る
・第5章 極右団体とEUの狭間に立つブチッチ政権
第1章 コソヴォ共和国独立までの経緯（過去3回のレポートを振り返る）
イスラム教徒の信者が多いアルバニア人が中心のコソヴォ共和国の独立は、NATOの力によって達成できた。事の発端は、98年2月にある。コソヴォ共和国の独立を掲げるコソヴォ解放軍と、セルビア軍の間で戦争が行われた。セルビア人によるアルバニア人虐殺問題が明るみにでると、NATOが介入し、最終的に武力を使って、阻止した。
NATOも当初は、平和的解決を目指していた。1999年2月に、フランスの首都パリの近郊ランブイエにて、コソヴォ自治州の主要民族アルバニア人の代表者と、セルビア共和国の大統領ミルティノヴィッチ氏を呼び、和平案を提案した。NATO側は、ユーゴスラビア連邦大統領のミロセヴィッチの参加を求めていた。ミロセヴィッチ大統領は、直接NATO側からアルバニア人虐殺についての追求を避けるため、欠席したのである。代理として出席したミルティノヴィッチは、ミロセヴィッチの意思に従い、セルビアに不利な案を飲まなかった。ランブイエ和平では、コソヴォの自治権を拡大すること、またNATOの平和維持部隊が駐留することなど、セルビア共和国から切り離すことを意味していた。ミルティノヴィッチは、コソヴォに一定程度自治を与えることについて容認したものの、NATO軍の駐留には反対した。結果的に和平は失敗に終わり、セルビア軍と、アルバニア人から成るコソヴォ解放軍との戦いが続いた。3月24日に、アメリカを主導としたNATO軍が、人道介入を掲げて、国連安保理決議なしで、セルビアに宣戦布告する。セルビア軍の軍事施設をターゲットに空爆を行った。名づけて「アライド・フォース作戦」という。セルビアの首都ベオグラードの中国大使館を誤爆するなど、他国からも非難の声が巻き起こった。圧倒的な軍事力を誇るNATOに、セルビア軍は太刀打ちできない。ユーゴスラヴィア連邦のミロシェヴィッチ大統領が降伏し、6月12日にKFOR（平和維持部隊）の到着により、コソヴォは事実上独立状態になった。国際連合のコソボ地位交渉特使フィンランド大統領を勤めるアハティサーリ氏（1993年３月1日から2000年3月1日まで、大統領職に就く）が、アルバニア人が中心のコソヴォ共和国とセルビア共和国の間に入り、和平に向けて動く。
写真＝アハティサーリ氏 2008年ノーベル平和賞を受賞、当時の写真
掲載元 REUTERS 2008年10月10日付け https:/
国連常任理事国のロシア連邦が、国家主権の尊重を重視し、セルビア共和国の意向を聞き入れるべきだと主張する
。2007年3月末、国際社会の監視下で、実質的なコソボの独立を容認する最終調停案を国連に手渡した。コソヴォに肩を持つ米国とEU、セルビア寄りのロシアとの3者が、コソヴォの地位を巡って、議論する。2008年12月に行われるセルビア大統領選挙の結果後に、協議を再開することで一致した。コソヴォへの対応が争点となったセルビア大統領選挙戦において、現職のダディッチ大統領が、コソヴォへの厳しい態度で臨むと宣言したニコリッチ候補を小差で破り、2期目に突入する。ダディッチ大統領は、コソヴォを独立国として反対の立場をとるとはいえ、EU入りへ向けて、西欧諸国の意向を聞き入れる姿勢を示していた。EUと米国の後押しを受けて、コソヴォは独立への道を突き進む。2008年2月17日に、議会によって、独立宣言を行った。定数120の議員のうち、109人によって採択された。2016年時点で国連加盟113カ国から承認が得られた。常任理事国の一つであるロシア連邦によって、拒否され、国連は未加盟なままだった。2022年2月24日、ロシア軍によるウクライナ侵攻が長期化する中、セルビア共和国とコソヴォ共和国の間でも緊張状態に陥っている。2022年現在の両国の関係を紹介する。
第2章 セルビアとコソヴォの仲裁役アメリカの役割
セルビアとコソヴォの国交正常化に向けて、仲裁役を引き受けたのはアメリカだった。2020年の秋に、両国の国境に跨る湖を「トランプ湖」と命名することで合意に達した。2021年1月に、大統領の座が共和党のトランプ氏から、民主党のバイデン氏に代わった。バイデン氏は、バルカン半島と中東問題の介入を避け、2022年以降ウクライナへの武器支援の対応に追われた。次第にセルビアとコソヴォの争いも再熱した。2021年9月26日、コソヴォ政府は、北隣のセルビアのナンバープレートをつけた車の入国を禁止する措置を下した。コソヴォ共和国内で少数派のセルビア人はただちに抗議する。アルバニア人が中心のコソヴォ政府機関に対して手榴弾を投げつける。
写真＝11月6日にミトロヴィツァで政府に抗議するセルビア人 掲載元 KWP News 2022年11月7日付 https:/
セルビア人組織の肥大化を警戒して、コソヴォ政府は、国境を厳重に管理する。セルビアから入国するためには、事前申請手続きを義務化した。国境検問所では、60日間有効の臨時車両登録証明書の提示が必須となった。EUは、両国の首脳を本部があるベルギーの首都ブリュッセルに呼び、解決に向けて、話し合いの場を設けた。コソヴォ政府は、2022年11月に、新たに共和国内で暮らす1万人のセルビア人に対して、2023年4月までナンバープレートを付け替えるように求めた。強制的にセルビア色を排除するコソヴォ政府の方針に反対して、いっせいに公職を辞職する事態に発展した。
コソヴォ北部では、人口7万1千人（２０１１年時点）のミトロヴィツァを中心に、2008年の独立宣言後も、セルビア人がまとまって暮らしている。ミトロヴィツァは、コソヴォ紛争において、民族分断の象徴的な町となった。町の南部では、新たにアルバニア人の入植が進んだ。セルビア人は、全て北部に移住し、イルバ川によって、アルバニア人の居住区と隔てられている。セルビア人の人口は推定8000から1万、民族間の争いを避けるため、KFORのフランス人兵士7000人が治安維持に当たっていた。
ＥＵのボレル外交安全保障上級代表（外相）は、2022年11月21日の仲裁協議で「危機的な状況を避け得る」（ボレル氏）妥協案を提示した。セルビア側は承諾したものの、コソボ側が拒否したと報道陣に明らかにした。
写真＝ボレル外相 欧州連合（ＥＵ）のボレル外交安全保障上級代表（外相）＝２２日、仏東部ストラスブール（ＥＰＡ時事）https:/
セルビアのブチッチ大統領は地元テレビに、妥協案は「何度も」修正され、支持することに異論はないと表明する。対して、コソヴォのクルティ首相は、両国関係の完全な正常化を目指した、より広範な議論を要求した。日本時間11月24日付けの報道によると、ＥＵのボレル外相の仲介により、両国の責任者の間で、決着点を見出した。外相のツィート文には次のように書かれている。「コソボとセルビアの交渉責任者がＥＵの仲介で、さらなるエスカレーションを回避し、両国の関係正常化に関する提案に完全に集中するための方策で合意した」
詳細記事 JlJl.com 2022年11月23日 https:/
写真＝コソボのジャリニエ国境交差点で車のナンバーの国家マークを覆うステッカーを剥がす運転手で９月撮影（２０２２年 ロイター／Ognen Teofilovski）掲載元 NEWS WEEK 2022年11月24日付 https:/
両国の行方を、1999年に武力介入に踏み切ったＮＡＴＯは注視している。8月17日には、ＮＡＴＯのストルテンベルク事務総長が、本部のあるベルギーの首都ブリュッセルにて、ブチッチ大統領を招き、会談した。ストルテンベルク事務総長は、コソヴォ国内に駐留する400人の治安維持部隊について、必要があれば、増強すると、説明したのである。翌18日に、ＥＵ仲介により、ブチッチ大統領とクルティ首相との三者協議が行われた。クルティ首相は、同日ストルテンベルク事務総長との会談において、将来的にＮＡＴＯ加盟申請する意向を示したのである。
詳細記事 REUTERS 2022年8月18日付 https:/
クルティ首相は、2022年6月の段階で、同年末までＥＵ加盟申請を手続きする予定を示した。2009年に申請書を出しているセルビアは、コソヴォ共和国との関係改善が求められている。1997年から99年まで2年に渡ったコソヴォ紛争をNATOが阻止して、ユーゴースラビア問題は一旦落ち着いた。コソヴォは、独立国家として、2022年5月12日、欧州加盟評議会への加盟申請をした。対して、コソヴォをセルビアの一部と主張するブチッチ大統領は、平和的で外交手段で、反対意見を表明すると誓った。同団体から、加盟国の反発を受けて、2022年3月にロシアが脱退した。
第3章 保守的なセルビア共和国
正教徒が多いセルビア人は、西側諸国と歩み寄れず、ＥＵ加盟へまた一つ遠のく事態が起きた。2022年9月11日に首都ベオグラードにて、性的少数者ＬＧＢＴＱの権利を保護するために開かれる集会「ユーロプライド」の開催に反対するデモが起きたのである。参加者は数千人、デモ隊の中から、プーチン大統領と共に、第2次大戦中の大セルビア主義者ミハイロヴィッチ氏の写真が貼られた旗も掲げられていた。ミハイロヴィッチ氏は、2次対戦中に、ナチス・ドイツを含め、旧ユーゴスラビアの国土を支配した枢軸国との戦いに挑んだ。大セルビア主義を唱える彼が率いる軍団はチェトニックという。目下の敵は、ナチス・ドイツの傀儡クロアチア独立国だった。クロアチア独立国に住むセルビア人の解放を掲げて戦っていたのである。当初はイギリス、アメリカを中心に連合国から支持されていた。次第に意向に沿わなくなり、同じく連合国側のソ連側が支持する共産主義者から成るパルチザン部隊とも戦った。枢軸側の傀儡国家ユーゴスラビア救国政府と協力して、パルチザン部隊と戦ったチェトニックは、1945年には解散した。後のユーゴスラビア社会主義連邦共和国の終身大統領となったチトーによって、ミハイロヴィチは銃殺刑に処されている。
写真＝2022年8月28日／セルビア、首都ベオグラード、LGBTQ集会に反対する抗議デモ（Darko Vojinovic／AP通信）左側の旗写真ミハイロヴィッチ、右側の旗写真プーチン大統領
掲載元 KWP News 2022年8月29日付 https:/
ＮＡＴＯを牽引する米国を名指して「悪魔軍団」との叫びも聞こえてきた。ブチッチ大統領自身、8月末にユーロプライドの開催を拒否する声明を出している。集会の方は、ＥＵ加盟・非加盟に問わず、欧州各国で持ち回りに開催している。9月12日から18日にはベオグラードで開催する番だった。イギリスの首都ロンドンで第1回目が開催して30周年の節目の行事に、ブチッチ大統領自身が歯止めをかけたことになる。一方で、国家行事でない限り、大統領の許可がなくても、法律上開催は可能だった。ユーロプライドの主催団体「European Pride Organisers」は、西欧諸国の力を借りて、予定通りベオグラードでのイベントを強行すると決意を表明した。
一方、セルビア正教会は、イベント開催に断固たる反対意見を述べる。「悪の勢力は男女の結婚と家族の代わりに不自然な結合を押し付けている」と声明を発表した。
主催団体European Pride Organisersは2019年、正教会の元で、権利を奪われた性的少数者を保護し、同国を先進的な西欧に少しでも近づけるため、開催地に選んだ。
ブチッチ大統領は、開催を反対する理由について、2点上げた。
・コソヴォ問題やエネルギー危機への取り組みが最優先事項にあるからである。
・ユーロプライドの警備に人員を割く余裕がないからである。
保守的な正教徒が中心のセルビア共和国の中でも、西側諸国の考えに近い人々から成る団体が、結成されていた。ブチッチ政権への抗議の意思として、ユーロパレードに積極に参加するように呼び掛けている。
EUの高官数名はユーロパレードへの参加を表明した。米国のブリンケン（Antony Blinken）国務長官を含む多くの政府高官が中止命令を撤回するよう求めている
詳細 KWP NEWS 2022年9月12日付 https:/
第4章 中国からバルカン諸国を守るEUの方針 ティラナ採択 モンテネグロが債務の罠に陥る
伝統的にセルビアは、ロシアと同じスラブ系民族で、正教徒が数多い。ブチッチ大統領は、ロシア軍によるウクライナ侵攻の非難決議において、西欧と足並みをそろえて、賛成した。武力攻撃には一貫して反対の立場をとりながらも、対ロ制裁には加わっていない。ロシア側は、同じスラブ系民族で、同じ東方教会に属するセルビアとの仲間意識が強い。セルビア政府が、2022年3月に行われた国連の非難決議で賛成に回る中、国民の間では、ロシアを支持する声がある。欧州内で、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が、セルビア国内で勧誘活動しているとの情報が流れた。
EU入りを目指すセルビア政府は、ロシアに動じず、ただちに対策を練る。2023年1月19日、首都ベオグラードを拠点にする弁護士と反戦団体が、ロシア大使とセルビア保安・情報局（BIA）のトップを刑事告発した。その根拠として、首都ベオグラード中心部の建造物の壁に、ワグネルのどくろのエンブレムが現れたからである。極右団体「国民パトロール」の署名も入っていた。ひそかにロシア軍によるウクライナ侵攻の支持集会が開かれていたとはいえ、参加者は少数にとどまったと、政府は発表している。
写真＝ベオグラードのワグネルのエンブレムが書かれた壁画 参考文献 掲載元 BBC NEWS JAPAN 2023年1月20日付 https:/
セルビアの法律では、政府の許可なしで、外国の戦争に参加する行為は違法とみなす。現にロシア軍に加担して、ウクライナへ参加した25人が、裁判で有罪判決を受けていた。
ブチッチ大統領は、公式な声明において「クリミア半島もドンバス地域もウクライナである」との見解を表明している。
一方で、2022年6月には、ロシアからの原油輸入について、3年間の延長契約を更新した。ロシアの国営天然ガス会社ガスプロムは、セルビアの石油会社NISの株式の過半数を所有する。資源が乏しい同国において、対ロ制裁に加わると、悪い物価高に襲われ、経済が疲弊する。
欧州議会は、対ロ制裁の抜け穴になるセルビア共和国に対して、厳しい目で見ていた。欧州議会は、セルビアが制裁に同意するまでEU加盟交渉を中断するよう求める決議を可決した。セルビアがEU加盟交渉を中断されるのは2回目になる。加盟の条件として、コソヴォの独立を認める以外選択肢はない。
ブチッチ大統領が属するセルビア進歩党は、かつての大統領ミロセヴィッチが率いた急進党から離党した穏健派のメンバーで構成されている。2008年10月21日に結党以来、EUと融和を図ってきた。2016年に首相時代にブチッチ氏は、2020年までのEU入りを目標に掲げてきた。実際2012年に加盟国の候補入りし、2014年1月から交渉が開始されてきた。コソヴォを独立国と否定する立場から、EU入りは難航した。2022年4月に投開票が行われた総選挙で、ブチッチ氏が属する進歩党が、引き続き、第一党に選ばれた。ロシアとの関係を維持しながら、EU入りを目指す政策に、国民から支持を得たといえる。
2022年12月6日、EU入りへ新たな動きがあった。西バルカン地域6カ国（セルビア、コソボ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニア、モンテネグロ）とアルバニアを含む、7カ国のEU加盟に向けて、協議が行われた。中華人民共和国が、一帯一路政策において、モンテネグロまで影響力を及ぼしている事態から、EU側も手を売ったのである。6カ国のEU加盟に向けた取り組みの加速や安全保障面での協力拡大などを柱とする「ティラナ宣言」を採択した。
ティラナ宣言の詳細 日本経済新聞 2022年12月7日付け https:/
写真＝会議の一場面 ＥＵと西バルカン諸国の首脳会議の記者会見で話すミシェルＥＵ大統領（中央）ら＝６日、アルバニア・ティラナ（ロイター＝共同）
最も手続きが進むセルビアとモンテネグロは、2025年までEU加盟国となる見通しが立っていた。ロシア軍によるウクライナ侵攻への対応から、セルビアは難しい事態に陥った。対照的にモンテネグロは、2020年3月に、北マケドニアと共にNATOへ加盟済みである。同国は中国から受けた1100億円の借金を返済できる目処がたたず、2021年4月にEUに肩代わりを要請していた。GDP（国内総生産）はわずかに49億ユーロ（約6500億円）、国家予算で建設費用を賄えなかった。
人口62万の同国は、住民投票を経て、2006年にセルビア共和国から独立していた。小国の経済成長のため、交通網の整備が必要だった。交易路を確保するため、南部のアドリア海に面する港湾都市バールからセルビアの首都ベオグラードを結ぶ全長１６５キロの高速道路建設計画が立ち上がった。2014年に、積極的に融資の意思を表明した中国輸出入銀行と契約を結んだ。融資合意文章には、返済期限は2021年７月、担保は建設計画に含まれた土地だった。
写真＝高速道路の一部区間 （2021年5月11日撮影）。(c)SAVO PRELEVIC / AFP
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高速道路建設計画は、欧州の各銀行から融資を断られていた経緯がある。港湾都市バールからベオグラードまでは、高速鉄道が結ぶ。新たに高速道路の建設費用を投じても、採算が合わないと判断されたのである。2021年7月13日に、モンテネグロ初となる高速道路は、首都ポトゴリッツァ近郊第1区間41kmのみ開通した。同区間のみの建設費用は9億4400万ドル（約1000億円）、対外債務は、同国のGDPの8倍に達した。政府の見通しでは、高速道路の全区間が開通した場合、通行料からの収益では、推定で年間7700万ユーロ（約100億円）とされる道路のメンテナンス費用さえ補えなかったのである。採算ベースに乗るには、政府が発表した交通量の4倍は必要だった。既に財政の悪化から、国民には増税をお願いし、公務員の賃上げを凍結した。子育て支援策の一つ子を持つ母親向けの給付金も停止したのである。EU加盟へ向けて、財政健全化が求められている。
詳細 モンテネグロの高速道路計画 zakzak 夕刊フジ 2021年4月24日付け
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詳細 高速道路の財政面について Yutaka Asaka official blog 2021年6月11日付け
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第5章 極右団体とEUの狭間に立つブチッチ政権
セルビア政府を悩ます事態が、2023年に再び起こった。2月15日に、ベオグラードにて、EU側が提示したコソヴォ問題解決策について、数百人規模の抗議集会が開かれた。態度を保留にしたブチッチ大統領に、コソヴォに対して厳しい態度で接するように訴えたのである。現にコソヴォ政府は、2021年から、セルビアのナンバープレートをつけた車の入国を制限していた。
セルビア国営メディアによると、大胆なグループでは、「ロシアを裏切るな！米国に屈するな！」との叫び、大統領府に迫ったという。
西欧のメディアは、デモ隊の背後にはロシアがいるのではないかとみている。ロシアが、セルビアの右派団体を援助して、現政権のEU加盟手続きを妨害する狙いがある。ブチッチ政権は、EU加盟手続きについて、はっきりとした態度を示していない。以前から「西側の提案を検討する用意がある」と述べていた。
これまでのEUとの会議の内容から、コソヴォ共和国の国際機関の加盟について、反対票を投じないように忠告を受けた可能性がある。
98年から99年の2年にわたったコソヴォ紛争の死者は推定1万人にのぼる。難民の列車や病院、自動車工場まで被害にあった。軍事施設をターゲットにしながら、民間施設にも被害が及び、罪のない人々の血が流れた。
写真＝2023年2月15日、ベオグラードでの支持集会の一幕（Darko Vojinovic／AP通信） 掲載元 KWP NEWS 2023年2月16日付け https:/
ロシア軍によるウクライナ侵攻は、セルビア人を分断させた。ブチッチ政権も、EU加盟手続きが順調に進みながら、対ロ制裁を拒否したことにより、一端停止させられた。EUの各首脳は、中国の経済圏拡大を恐れ、ティラナ採択にて、セルビアを含め、西バルカン地域の加盟申請手続きを進める方向で一致した。セルビア共和国は、南隣のコソヴォ共和国との領土問題が残る。一方1992年にセルビア共和国と共に一時は新ユーゴスラビア連邦共和国を結成したモンテネグロは、財政赤字を抱えている。EU加盟手続きは、第49条に従い、自由、民主主義、人権と 基本権、法の支配を尊重する国であることが求められ ている。加盟申請中の西バルカン地域は、民主主義や、人権と基本権に問題を抱えている国もある。EUは、加盟の条件を緩和し、旧東側の社会主義国家を取り込み、ロシア、ベラルーシ、中国を含め、専制主義国家に対抗する狙いを持つ。コソヴォは、セルビア正教の発祥の地、17世紀末まではセルビア人が数多く暮らし、西部ペーヤを中心に聖堂も残る。親ロ派国家でありながら、ＥＵとの間に入り、政権運営を続けていく。
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