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2022年12月03日22:59
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Wカップ企画（5）グループＧ最終節 セルビア 対 スイス戦レポート EUとロシアの狭間で揺れるセルビアの政治（２）98年から99年のコソヴォ紛争 少子化に苦しむ経済
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12月３日（土）
日本時間昨２に、日本対スペイン戦でのVARについて、FIFAが声明を出した。後半6分、三苫が、左足でボールを折り返した地点が、ゴールラインより内か外か、議論されたのである。ルール上、ボールが１ｍｍでもタッチラインより内側に残っていれば、インプレーと認められる。テクノロジーを駆使した結果、インプレーの結果が出た。FIFAは、ビデオ判定の正しさを改めて訴えた。
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Ｗカップ企画の５回目は、グループＧ最終節 セルビア 対 スイス戦のレポート、またセルビアの現代政治の２回目である。政治については、日本と同じく少子高齢化が進む状況と共に、NATOが介入した９８年から９９年にわたるコソヴォ紛争である。2020年3月2日に行われたロシア軍によるウクライナ侵攻に対する、国連の非難決議において、セルビアは西欧諸国の予想に反して、賛成に回った。2017年から大統領職に就くブチッチ大統領は、ＥＵ諸国のフランスのマクロン大統領から、電話にて外交の誘いを受けた。6月には、ドイツのショルツ首相から、対ロ経済制裁への参加を求められた。ＥＵ諸国と歩調を合わすことなく、ロシアとの外交関係を維持した。同国の過去と共に経済事情を紹介する。
目次
１．第１章 セルビアが抱える少子高齢化 コソヴォ紛争
�仝�共サービスの担い手不足
�▲灰愁凜�紛争が勃発
��コソヴォ独立宣言後のセルビアとの関係
2．第２章 グループＧ セルビア 対 スイス戦レポート
第１章 セルビアが抱える少子高齢化 コソヴォ紛争
前回のセルビアの政治関連日記 １１月３０日付けＷカップ企画３ ブチッッチ政権と政策について https:/
セルビアの歴史の全体をまとめた日記 2022年４月27日25時27分 https:/
�仝�共サービスの担い手不足
少子高齢化が進む同国は、日本と同じく働き手不足により、公共サービスの維持さえ難しくなる事態に陥っている。地方都市は、子供が育たず、高齢化が著しい。世界人口が80億人に達したと、国連が発表したことを受けて、朝日新聞社は、人口減少に直面する東欧の経済事情について特集していた。2022年11月16日の朝刊の記事では、セルビアとブルガリアを取り上げていた。セルビアは、人口のピークが1994年の770万人から2021年時点において680万人に減少している。欧州連合によると、セルビア産まれの外国人移住割合は約14％、世界平均の4倍にのぼる。人口が減っていく中、地方都市は衰退する運命にある。公共サービスの担い手不足も否めない。国内の大手バス会社「アリバ」は、運転手不足を解消するべく、積極的に外国人を登用した。目をつけたのは、2022年に経済破綻したスリランカだった。首都コロンボまで赴き、バスの運転暦があり、語学研修を終えた30人を採用した。バス運転手の平均月収は約900ユーロ（日本円換算13万円）、西欧諸国ではさらに1,5倍ほど賃金が高い。国全体では3000人の運転手が足りず、必要な便を確保できない事態に陥っている。日本も将来的には、バスの運転手不足により、便の削減に迫られると予想されている。
写真＝スリランカからきたバスの運転手 写真提供アリバより
一方、セルビアよりも早く人口減に直面したのはブルガリアだった。民主化前の1989年の人口は890万人、2021年は650万人に減少した。2021年までの10年間での減少幅は、84万4千人にのぼる。うち34万人は国外移住が原因だった。人口減少に追い討ちをかけたのは、同国が加盟するＥＵの政策にある。2014年以降、ＥＵ全域での就労制限がなくなり、賃金が高い西欧諸国へ若者が流出した。世界銀行によると、医療や保険分野での人材が、海外に引き抜かれているという。ＥＵ内での就労が自由に認められると、国内の政策を変えない限り、若者の海外移住はますます進む。世界銀行によると、2050年には530万人まで人口が落ち込むという。
働き手の海外流出を避けるためには、安定的なエネルギー確保は必須である。ブチッチ大統領は、EUを代表するドイツのショルツ首相に、対ロ制裁については拒否した。彼は、ショルツ首相と同じ時期に、ロシアのラブロフ外相を招いて、会談を行う予定だった。EUが対ロ制裁の一環として、対抗措置に踏み切ったことにより、ブチッチ大統領とラブロフ外相の会談は実現しなかった。NATO加盟国のモンテネグロ、北マケドニア、ブルガリアが、ロシアからの便の領空許可を認めず、拒否した。新たな飛行便の手配が難しく、ラブロフ外相はセルビアの訪問を諦めた。6月6日にモスクワでの記者会見にて、ラブロフ外相自身が明らかにしている。
詳細記事 RETUTERS https:/
ショルツ首相は、セルビアの首都ベオグラードの訪問に先立ち、6月6日にコソヴォ共和国のクルティ首相と会談した。共同声明において、ＥＵ加盟の優先事項としていると表明した。
写真 左側 ショルツ首相とブチッチ大統領 2022年6月10日 ベオグラードにて ロイター通信より
写真 右側 ショルツ首相とクルティ首相 2022年6月11日 プリシュティナにて(c)Armend NIMANI / AFP 掲載元 https:/
コソヴォ共和国は、2008年にセルビア共和国の自治州から一方的に独立を宣言し、国連に加盟する113カ国の承認をとりつけた。いまだにセルビアは、アルバニア人が中心のコソヴォ共和国を自治州のひとつとの考えを示している。次は、1997年から1999年にかけて起こったコソヴォ紛争について取り上げる。
�◆．灰愁凜�紛争が勃発
セルビア共和国内で、南部のコソヴォ自治州は、イスラム教を信仰するアルバニア人が中心に暮らす土地だった。言語や宗教が異なるセルビア人とアルバニア人は、互いの文化を尊重できず、争いに発展する。1997年から1999年までの2年にわたり、アルバニア人が中心となるコソヴォ解放軍（通称ＫＬＡ）とセルビア軍との間で激しい戦いが起こった。1992年の社会主義崩壊前の1989年の憲法改正により、コソヴォの自治権は大幅に制限され、アルバニア語さえ使用禁止にされた。亜鉛を中心に鉱物資源もセルビア中央政府の管理下に置かれる。民族的に異なるアルバニア人は、アメリカで財を成したアルバニア・マフィアから資金援助を受けて、武装勢力が立ち上がった。当初自治州の首都プリュシティナは、非暴力主義のルコヴァを首班とする政治組織民主同盟が活動していた。KLAは、首都から離れ、南部のマレーシャボ司令部に拠点を置いていた。アメリカのバルカン特使、ロバート・ゲルバートは1998年、当初ＫＬＡを、イスラム過激派と同一視し、テロ集団と認定していたのである。同1998年2月に、ドレニツァ渓谷で、KLAとセルビアから派遣された警察との間で武力衝突が起きた。同年隣接するアルバニア本国からも、武器がコソヴォに流れたとの見方がある。セルビア正教の聖地ペヤでは、ＫＬＡによる聖堂破壊が行われると、事態はエスカレートした。
兵力で上回るセルビア軍によるアルバニア人虐殺疑惑が明るみに出たのである。民族の違いによる紛争を阻止するべく、NATOが動き出した。1999年2月、NATOに属する米英独仏伊と共に、ロシアが歩調を合わせ、フランスの首都パリ郊外のランブイエにて、和平会議を主催した。セルビア側からは、同国の大統領のミルティノヴィッチが出席した。対してコソヴォ自治州から、主要民族のアルバニア人代表団が会議にのぞむ。ロシア側は、セルビアに有利な展開へと運ぶ。対して、NATO側は、コソヴォの権利を守るため、治安維持部隊の派遣を認めるように要請した。セルビア側は、コソヴォ自治州に一定程度自治を認めることを確約したものの、ＮＡＴＯの平和維持部隊の駐留には反対した。3月にも和平交渉が再開され、ＮＡＴＯの要求をアルバニア人代表団は呑んだ。セルビア側は拒否を続けたことにより、ランブイエ和平は失敗に終った。ランブイエでの停戦プロセスが行われている間にも、戦闘は激化していた。1999年3月24日に、ＮＡＴＯは人道介入を掲げて、セルビアの首都ベオグラードを中心に軍事施設に空爆を行ったのである。国連安保理決議無しで行われた行為に、セルビアに肩を持つロシアのエリツィン大統領は、不当と訴えた。
写真＝NATO軍によるベオグラード空爆の様子 掲載元 ツィッターバルカン中東情報 2018年11月25日ツィートより https:/
当時セルビア共和国と共に新ユーゴスラビア連邦を形成するモンテネグロ共和国は、中立の立場を明確にした。圧倒的な軍事力を誇るＮＡＴＯに対して、セルビア軍は6月3日に降伏した。一連の行為により、87人の子供を含む、民間人2500人が犠牲になったといわれている。1週間後の6月10日、国連安保理決議1244に基づき、ＮＡＴＯの治安維持部隊KFORが、コソヴォ自治州に入り、セルビアから切り離し、独立を後押ししたのである。
��コソヴォ独立宣言後のセルビアとの関係
コソヴォは、NATOの平和維持部隊によって保護され、2008年2月17日に独立宣言をした。国連に関しては、常任理事国のロシアに拒否され、未加盟なままである。国際的地位が不安定なことにより、経済面ではＥＵ諸国から援助を受け、軍事面ではＮＡＴＯの保護を受けていた。コソヴォ共和国の自立に向けて、手を差し伸べたのはアメリカだった。2020年8月に、当時のドナルド・トランプ米大統領が、セルビアのブチッチ大統領と、当時のコソヴォ共和国のホティ首相を呼び、会談を開いた。両国の首脳は、国境に跨る湖の名称を「トランプ湖」とすることで合意に達する。最大の争点となった経済関係正常化に向けた合意文書に、両国首脳は署名した。
写真＝2020年9月4日、米ワシントンD.Cのホワイトハウスにて 掲載元 朝日デジタル 2020年9月6日朝5時付け https:/
1999年以来、21年間止まっていたセルビア国内とコソヴォ共和国の首都プリュシティナを往復する航空便も再開する。ただし、両国の間でしこりが残った。セルビアのブチッチ大統領は、コソヴォの国家承認を改めて否定したのである。航空便を再開するとはいえ、コソヴォ国籍を持っていると、セルビア共和国内の入国に際したビザ発給には制限がかかる。コソヴォ側も、国内で少数派のセルビア人に対して、特別な権利を与える考えは否定していた。セルヴィア正教の発祥の地と考える立場から、ブチッチ大統領は、ＥＵ加盟の申請が通っても、コソヴォを国家承認はしないとみられている。旧ユーゴスラヴィア時代から続くセルビア人とアルバニア人の緊張関係は、緩和されることはなかった。次回は、ロシア軍によるウクライナ侵攻の影で起こった問題を取り上げる。
第２章 グループＧ セルビア 対 スイス戦レポート
12月3日（土）日本時間午前4時、グループＧ セルビア 対 スイス戦が、スタジアム974で行われる。引き分け以上で予選2位通過の可能性があるスイスに対して、セルビアは勝利が絶対条件となった。両チームは4年前の2018Ｗカップでも対戦した。セルビアが、先制しながら、スイスが2対１で逆転勝利を飾った。右エンドにセルビア、左エンドにスイスが入り、セルビアボールで始まった。
写真 無記載 FIFA.com LIVE BLOG より https:/
早速開始0分、スイスはエリア内でこぼれたボールにエンボロが、反応する。ジャンプしながら右足のつま先でシュートした。前目にポジションをとったGKバンヤ・ミリンコヴィッチサヴィッチが、胸に当てて阻んだ。エリアの手前で、こぼれたボールをジャカが拾う。ジャカルタは、右足でボールをかぶせるようにシュートした。力強くバウンドしたボールを、重心を右に倒したバンヤ・ミリンコヴィッチサヴィッチが、再度跳ね返した。
写真＝バンヤ・ミリンコヴィッチサヴィッチのセーブシーン
勝利が絶対条件となるセルビアは9分、ダディッチが左サイドを仕掛け、ボランチのジャカを交わす。ゴールライン上に止まったボールを、ダディッチはコントロールしたものの、もう一人のボランチであるフロイラーにカバーされた。結果的にボールは、ゴールラインを割った。スイスの守備は、1対１の強さを持ち味とし、ボランチの一人フロイラーはカヴァーリングに定評がある、もう一人のボランチをつとめるジャカは、キープ力と共にパスの精度が高く、攻守のバランスをとる選手である。続くセルビアは10分、右に流れたダディッチが、斜め後ろのジブコヴィッチにパスを出す。助走をつけながらジブコヴィッチは、左足を振りぬいた。キッカーからみて右側にポジションをとった初先発のGKコーヴェルから逃げていく軌道を描いたものの、ポストに阻まれた。前半13分頃からセルビアがボールを支配する展開に変わる。スイスは17分に、ハーフウェー・ライン付近からエンボロがカウンターを仕掛けるものの、ダディッチのスライディングに阻まれた。
19分、スイスは、サイドバックのリカルド・ロドリゲスが、左サイドを駆け上がり、エリア内で折り返した。体勢が崩れた3バックの左に入るパヴロヴィッチの足に当たって前にこぼれた。トップ下のソウが拾い、コスヴィッチをひきつけて、右斜め前に構えたシャチリにボールを預ける。シャチリは、左足でシュートした。グラウダーのボールは、体を倒したミリンコヴィッチサヴィッチの左手を抜けて、右ネットを揺らした。1対０．狙っていたカウンターからスイスが得点を奪った。得点のきっかけを作った1989年生まれの33歳リカルド・ロドリゲスは、サイドバックながら攻撃力があり、隙を見て、前線へとびだすタイプである。ゴールを上げたシャチリも同じく33歳、169ｃｍながら、肩幅が広く、ボール際の競り合いにも簡単には負けない。足元のテクニックも優れている。
写真＝ゴールを決めたシャチリ
一点のビハインドを負ったセルビアは29分、左サイドからタディッチが、ヴィドルからボールを奪って、突破し、ゴール前のミトロヴィッチを狙って、クロスを送った。ミトロヴィッチは、センターバックのアカンジの前に入り、ヘディングで合わせた。右へ流れていくボールに、ＧＫコーヴェルは反応するものの、全く届かず、右ネットを鮮やかに揺らした。1対１．ミトロヴィッチは、センターバックのアカンジとシェアのマークから離れ、ニアに走りながら、反対サイドを狙って、ヘディングシュートを打った。キーパーのコーヴェルは、意表を突かれ、ボールに対する反応が遅れていた。
写真＝ミトロヴィッチ
同点に追いついて前がかりになるセルビアの裏を突き、スイスは30分チャンスを作った。ハーフウェー・ラインの後ろ側の左から、リカルド・ロドリゲスがロングボールを送った。シャチリは胸でボールをトラップし、パブロヴィッチのスライディングを受けながら、左足でシュートした。ＧＫミリンコヴィッチサヴィッチの指先を抜けていくボールは、わずかにゴールから外れた。
セルビアは、前回のカメルーン戦でも、攻撃に出た際、守備のカヴァーリングが遅れ、カウンターから失点した。一人一人のフィジカルは強いものの、攻守の切り替えに度々ミスを犯す。持ち味の中盤での競り合いから、インターセプトを狙う。34分、スイスのシャチリが、ボランチのシャカへパスを出した。ボールが予想以上に速く、シャカの足元を流れていった。セルビアのダディッチがボールを拾って、前に運ぶ。2トップの1角ブラボヴィッチにパスを出す。後ろから急いで戻ったボランチのフロイラーの右足のつま先にボールが当たったものの、コースを変えられない。22歳のブラボヴィッチは、腰を捻りながら左足でシュートした。ジャストミートせず、ボールは、右ネットへ転がっていく。体勢を崩したＧＫコーヴェルはボールに届かず、ネットを揺らした。2対１．セルビアは、再びインターセプトからゴールを奪った。アシストしたダディッチは、足元が柔らかく、ブラボヴィッチに正確にパスを出した。ブラボヴィッチは、シュートミスを犯したとはいえ、キーパーの逆を突いたことにより、ゴールを決めた。
写真＝ブラボヴィッチのゴール 左側FIFAより 右側毎日新聞より別角度 掲載元 毎日新聞 https:/
2022年12月3日 撮影者：宮武祐希
ビハインドを負ったスイスは37分、ゴールライン際まで左サイドバックのリカルド・ロドリゲスが切り込んでクロスを送った。ミドルレンジからバルガスが右足でシュートした。体を投げ出したパヴロヴィッチの背中に当たり、右タッチラインを超えていった。パヴロヴィッチは、起き上がって、ガッツポーズした。彼は、一失点目に繋がるクリアミスを犯していた。バルガスのシュートに対して、怖がらず、滑り込みながらブロックした。
スイスは43分、右サイドのシャチリが、中央突破すると、エリアすぐ外のトップ下に起用されたソウに繋ぐ。ソウは、ディフェンスラインを確認し、パヴロヴィッチをひきつけ、エリア内まで上がる右サイドバックのヴィドルの足元にパスを送った。フリーでランニングしたヴィドルは、右足でグラウダーのクロスを出す。ＧＫミリンコヴィッチサヴィッチは、体を右に傾けながら、反対サイドに向う。オフサイドラインを掻い潜ったワントップのエンボロが、右足でゴールへ流し込んだ。浮いたボールに、ＧＫミリンコヴィッチサヴィッチの両手は全く届かず、ネットに突き刺さった。2対２．シャチリとヴィドルの中盤でのパス交換により、セルビアの3バックは完全に引っ張り出された。アシストした右サイドバックのヴィドルを見失い、戻りながら守備をすることにより、ボールウォッチャーになった。フリーになったエンボロは、ノンプレッシャーの状態で、落ち着いてクロスを合わせていた。
写真左＝エンボロの2点目のゴール 掲載元 twitter opta jodan 12月3日より https:/
写真右＝別角度 掲載元 毎日新聞 2022年12月3日 撮影者：宮武祐希
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前半は2対２で終えた。カウンターが得意なスイス、フィジカルの強さを生かすセルビア、両チームの個性が発揮されていた。セルビアは、カメルーン戦から通して、守備の修正が利かず、裏を狙われている。スイスは、左サイドバックのリカルド・ロドリゲスと共に、右サイドバックのヴィドルがゴール前に上がり、アシストを記録したことにより、ポジティブな前半だったといえる。
後半は、エンドが代わり、右にセルビア、左にスイスが入り、セルビアボールで始まった。開始早々チャンスを掴んだのはスイスだった。ハーフウェー・ラインより後ろ側からリカルド・ロドリゲスが大きくボールを蹴った。エリアの前まで上がったセルビアの3バックの真ん中ヴェリコヴィッチの胸でのトラップが大きくなり、ボールはバウンドする。スイスのワントップに入るエンボロが拾い、エリア内まで入ると、体の向きを変えて、コスティッチまでひきつけ、エリアすぐ外のシャチリにバックパスをする。シャチリは左足でゴール前にクロスを送った。バルガスがヒールキックにて、エリアの外から上がるフロイラーの足元にダイレクトでパスを出す。ペナルティーキックポジションのすぐ右横からフロイラーは、左足でシュートを打った。重心を右に倒すＧＫミリンコヴィッチサヴィッチの反対サイドのネットを揺らした。３対２．スイスが勝ち越した。ゴールを決めたトップ下のフロイラーは、ミリンコヴィッチサヴィッチの動きを見極め、反対サイドに蹴り込んだ。トップのエンボロのキープ力から産まれた逆転ゴールである。
写真＝ゴールを決めたフロイラー
2点が必要なセルビアは、前半から一気にペースが落ちている。27分、攻撃の基点になるボランチ起用のミリンコヴィッチサヴィッチに出るボールを、速やかにスイスのザカリア（途中出場）にカットされ、カウンターを未然に防がれた。セルビアは32分、交代出場のマクシモヴィッチが、ハーフウェーラインより後ろの右側から突破を図ったところ、リカルド・ロドリゲスのチャージを受けて、スピードを落とされた。左足でシャカにクリアされると、自身の足に当たって、タッチラインを割った。判定はスイスボールである。時間が経過するたびに、セルビアのプレーはラフになりがちである。34分、センターサークル内でボランチのジャカが、キープすると、ボランチのルキッチが激しいプレスをかける。主審は、肩をぶつけて押し倒したと判断したルキッチにファウルを告げた。スイスは、急がず慌てず、球をキープして、ファウルを誘っていた。ジャカは43分に、右サイドからドリブルしながら、ルキッチをひきつけた。焦ってボールを奪おうとするルキッチに足をひっかけられて、倒れた。意図的にファウルを誘ったのである。43分、セルビアに止めをさす4点目を狙う。途中から入ったボランチのザカリアが、左斜めから駆け上がる途中出場のファスナハトにパスを出す。ファスナハトは、ランニングしながらコースを確認する。的確に飛び出たミリンコヴィッチサヴィッチが滑り込む。ファスナハトのシュートは、ミリンコヴィッチサヴィッチの右足に当たって、跳ね返された。身長2ｍを超えるミリンコヴィッチサヴィッチは、速やかに飛び出たことにより、シュートコースを狭くしていた。ロスタイムは7分と表示された。時計の針を進めるスイスの選手に対して、セルビアの選手は苛立ちを隠せず、小競り合いになった。喧嘩両成敗として、原因を作ったスイスのジャカとセルビアのミレンコヴィッチには、イエローカードが出された。
写真＝スイスのジャカとセルビアのミレンコヴィッチの小競り合い 提供：Getty Images 掲載元 Mirror https:/
スイスはロスタイム5分に、トップのエンボロに代えて、交代選手を入れて、さらに時計の針を進める。ロスタイムは9分と表示され、フリーキックからのこぼれ球を速やかに反応したセルビアは、交代出場のラドニッチが、左足でシュートした。ジャストミートせず、右ゴールラインに外れてしまった。ＧＫコーヴェルが、ゴールキックポジションにボールをセットすると、長い笛が吹かれた。3対２でスイスがセルビアに勝利し、3大会連続ベスト16進出を果たした。
写真＝試合終了後のスイスの選手達
後半早々にリードを奪ったスイスは、したたかに相手のミスを誘った。陰のＭＶＰといえるのはボランチのシャカである。彼は、キープ力とテクニックを兼ね備え、中盤で間合いを作ることができる。ジャカに対して、セルビアはルキッチがファウルを誘われた。セルビアは、守備陣から中盤、攻撃陣まで、屈強な選手をそろえる。トップのミトロヴィッチは、カメルーン戦に次いで、2試合で2ゴールを記録する。この試合は、22歳のヴラノヴィッチと2トップ起用となった。それぞれ1ゴールずつあげたものの、劇的に流れを押し戻すようなプレーはなかった。いかに最前線の選手と中盤の選手が攻撃面で連携をとれるか、チームの課題である。終了後、双方の選手は握手をかわして、ピッチを去っていった。
日本時間昨２に、日本対スペイン戦でのVARについて、FIFAが声明を出した。後半6分、三苫が、左足でボールを折り返した地点が、ゴールラインより内か外か、議論されたのである。ルール上、ボールが１ｍｍでもタッチラインより内側に残っていれば、インプレーと認められる。テクノロジーを駆使した結果、インプレーの結果が出た。FIFAは、ビデオ判定の正しさを改めて訴えた。
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Ｗカップ企画の５回目は、グループＧ最終節 セルビア 対 スイス戦のレポート、またセルビアの現代政治の２回目である。政治については、日本と同じく少子高齢化が進む状況と共に、NATOが介入した９８年から９９年にわたるコソヴォ紛争である。2020年3月2日に行われたロシア軍によるウクライナ侵攻に対する、国連の非難決議において、セルビアは西欧諸国の予想に反して、賛成に回った。2017年から大統領職に就くブチッチ大統領は、ＥＵ諸国のフランスのマクロン大統領から、電話にて外交の誘いを受けた。6月には、ドイツのショルツ首相から、対ロ経済制裁への参加を求められた。ＥＵ諸国と歩調を合わすことなく、ロシアとの外交関係を維持した。同国の過去と共に経済事情を紹介する。
目次
１．第１章 セルビアが抱える少子高齢化 コソヴォ紛争
�仝�共サービスの担い手不足
�▲灰愁凜�紛争が勃発
��コソヴォ独立宣言後のセルビアとの関係
2．第２章 グループＧ セルビア 対 スイス戦レポート
第１章 セルビアが抱える少子高齢化 コソヴォ紛争
前回のセルビアの政治関連日記 １１月３０日付けＷカップ企画３ ブチッッチ政権と政策について https:/
セルビアの歴史の全体をまとめた日記 2022年４月27日25時27分 https:/
�仝�共サービスの担い手不足
少子高齢化が進む同国は、日本と同じく働き手不足により、公共サービスの維持さえ難しくなる事態に陥っている。地方都市は、子供が育たず、高齢化が著しい。世界人口が80億人に達したと、国連が発表したことを受けて、朝日新聞社は、人口減少に直面する東欧の経済事情について特集していた。2022年11月16日の朝刊の記事では、セルビアとブルガリアを取り上げていた。セルビアは、人口のピークが1994年の770万人から2021年時点において680万人に減少している。欧州連合によると、セルビア産まれの外国人移住割合は約14％、世界平均の4倍にのぼる。人口が減っていく中、地方都市は衰退する運命にある。公共サービスの担い手不足も否めない。国内の大手バス会社「アリバ」は、運転手不足を解消するべく、積極的に外国人を登用した。目をつけたのは、2022年に経済破綻したスリランカだった。首都コロンボまで赴き、バスの運転暦があり、語学研修を終えた30人を採用した。バス運転手の平均月収は約900ユーロ（日本円換算13万円）、西欧諸国ではさらに1,5倍ほど賃金が高い。国全体では3000人の運転手が足りず、必要な便を確保できない事態に陥っている。日本も将来的には、バスの運転手不足により、便の削減に迫られると予想されている。
写真＝スリランカからきたバスの運転手 写真提供アリバより
一方、セルビアよりも早く人口減に直面したのはブルガリアだった。民主化前の1989年の人口は890万人、2021年は650万人に減少した。2021年までの10年間での減少幅は、84万4千人にのぼる。うち34万人は国外移住が原因だった。人口減少に追い討ちをかけたのは、同国が加盟するＥＵの政策にある。2014年以降、ＥＵ全域での就労制限がなくなり、賃金が高い西欧諸国へ若者が流出した。世界銀行によると、医療や保険分野での人材が、海外に引き抜かれているという。ＥＵ内での就労が自由に認められると、国内の政策を変えない限り、若者の海外移住はますます進む。世界銀行によると、2050年には530万人まで人口が落ち込むという。
働き手の海外流出を避けるためには、安定的なエネルギー確保は必須である。ブチッチ大統領は、EUを代表するドイツのショルツ首相に、対ロ制裁については拒否した。彼は、ショルツ首相と同じ時期に、ロシアのラブロフ外相を招いて、会談を行う予定だった。EUが対ロ制裁の一環として、対抗措置に踏み切ったことにより、ブチッチ大統領とラブロフ外相の会談は実現しなかった。NATO加盟国のモンテネグロ、北マケドニア、ブルガリアが、ロシアからの便の領空許可を認めず、拒否した。新たな飛行便の手配が難しく、ラブロフ外相はセルビアの訪問を諦めた。6月6日にモスクワでの記者会見にて、ラブロフ外相自身が明らかにしている。
詳細記事 RETUTERS https:/
ショルツ首相は、セルビアの首都ベオグラードの訪問に先立ち、6月6日にコソヴォ共和国のクルティ首相と会談した。共同声明において、ＥＵ加盟の優先事項としていると表明した。
写真 左側 ショルツ首相とブチッチ大統領 2022年6月10日 ベオグラードにて ロイター通信より
写真 右側 ショルツ首相とクルティ首相 2022年6月11日 プリシュティナにて(c)Armend NIMANI / AFP 掲載元 https:/
コソヴォ共和国は、2008年にセルビア共和国の自治州から一方的に独立を宣言し、国連に加盟する113カ国の承認をとりつけた。いまだにセルビアは、アルバニア人が中心のコソヴォ共和国を自治州のひとつとの考えを示している。次は、1997年から1999年にかけて起こったコソヴォ紛争について取り上げる。
�◆．灰愁凜�紛争が勃発
セルビア共和国内で、南部のコソヴォ自治州は、イスラム教を信仰するアルバニア人が中心に暮らす土地だった。言語や宗教が異なるセルビア人とアルバニア人は、互いの文化を尊重できず、争いに発展する。1997年から1999年までの2年にわたり、アルバニア人が中心となるコソヴォ解放軍（通称ＫＬＡ）とセルビア軍との間で激しい戦いが起こった。1992年の社会主義崩壊前の1989年の憲法改正により、コソヴォの自治権は大幅に制限され、アルバニア語さえ使用禁止にされた。亜鉛を中心に鉱物資源もセルビア中央政府の管理下に置かれる。民族的に異なるアルバニア人は、アメリカで財を成したアルバニア・マフィアから資金援助を受けて、武装勢力が立ち上がった。当初自治州の首都プリュシティナは、非暴力主義のルコヴァを首班とする政治組織民主同盟が活動していた。KLAは、首都から離れ、南部のマレーシャボ司令部に拠点を置いていた。アメリカのバルカン特使、ロバート・ゲルバートは1998年、当初ＫＬＡを、イスラム過激派と同一視し、テロ集団と認定していたのである。同1998年2月に、ドレニツァ渓谷で、KLAとセルビアから派遣された警察との間で武力衝突が起きた。同年隣接するアルバニア本国からも、武器がコソヴォに流れたとの見方がある。セルビア正教の聖地ペヤでは、ＫＬＡによる聖堂破壊が行われると、事態はエスカレートした。
兵力で上回るセルビア軍によるアルバニア人虐殺疑惑が明るみに出たのである。民族の違いによる紛争を阻止するべく、NATOが動き出した。1999年2月、NATOに属する米英独仏伊と共に、ロシアが歩調を合わせ、フランスの首都パリ郊外のランブイエにて、和平会議を主催した。セルビア側からは、同国の大統領のミルティノヴィッチが出席した。対してコソヴォ自治州から、主要民族のアルバニア人代表団が会議にのぞむ。ロシア側は、セルビアに有利な展開へと運ぶ。対して、NATO側は、コソヴォの権利を守るため、治安維持部隊の派遣を認めるように要請した。セルビア側は、コソヴォ自治州に一定程度自治を認めることを確約したものの、ＮＡＴＯの平和維持部隊の駐留には反対した。3月にも和平交渉が再開され、ＮＡＴＯの要求をアルバニア人代表団は呑んだ。セルビア側は拒否を続けたことにより、ランブイエ和平は失敗に終った。ランブイエでの停戦プロセスが行われている間にも、戦闘は激化していた。1999年3月24日に、ＮＡＴＯは人道介入を掲げて、セルビアの首都ベオグラードを中心に軍事施設に空爆を行ったのである。国連安保理決議無しで行われた行為に、セルビアに肩を持つロシアのエリツィン大統領は、不当と訴えた。
写真＝NATO軍によるベオグラード空爆の様子 掲載元 ツィッターバルカン中東情報 2018年11月25日ツィートより https:/
当時セルビア共和国と共に新ユーゴスラビア連邦を形成するモンテネグロ共和国は、中立の立場を明確にした。圧倒的な軍事力を誇るＮＡＴＯに対して、セルビア軍は6月3日に降伏した。一連の行為により、87人の子供を含む、民間人2500人が犠牲になったといわれている。1週間後の6月10日、国連安保理決議1244に基づき、ＮＡＴＯの治安維持部隊KFORが、コソヴォ自治州に入り、セルビアから切り離し、独立を後押ししたのである。
��コソヴォ独立宣言後のセルビアとの関係
コソヴォは、NATOの平和維持部隊によって保護され、2008年2月17日に独立宣言をした。国連に関しては、常任理事国のロシアに拒否され、未加盟なままである。国際的地位が不安定なことにより、経済面ではＥＵ諸国から援助を受け、軍事面ではＮＡＴＯの保護を受けていた。コソヴォ共和国の自立に向けて、手を差し伸べたのはアメリカだった。2020年8月に、当時のドナルド・トランプ米大統領が、セルビアのブチッチ大統領と、当時のコソヴォ共和国のホティ首相を呼び、会談を開いた。両国の首脳は、国境に跨る湖の名称を「トランプ湖」とすることで合意に達する。最大の争点となった経済関係正常化に向けた合意文書に、両国首脳は署名した。
写真＝2020年9月4日、米ワシントンD.Cのホワイトハウスにて 掲載元 朝日デジタル 2020年9月6日朝5時付け https:/
1999年以来、21年間止まっていたセルビア国内とコソヴォ共和国の首都プリュシティナを往復する航空便も再開する。ただし、両国の間でしこりが残った。セルビアのブチッチ大統領は、コソヴォの国家承認を改めて否定したのである。航空便を再開するとはいえ、コソヴォ国籍を持っていると、セルビア共和国内の入国に際したビザ発給には制限がかかる。コソヴォ側も、国内で少数派のセルビア人に対して、特別な権利を与える考えは否定していた。セルヴィア正教の発祥の地と考える立場から、ブチッチ大統領は、ＥＵ加盟の申請が通っても、コソヴォを国家承認はしないとみられている。旧ユーゴスラヴィア時代から続くセルビア人とアルバニア人の緊張関係は、緩和されることはなかった。次回は、ロシア軍によるウクライナ侵攻の影で起こった問題を取り上げる。
第２章 グループＧ セルビア 対 スイス戦レポート
12月3日（土）日本時間午前4時、グループＧ セルビア 対 スイス戦が、スタジアム974で行われる。引き分け以上で予選2位通過の可能性があるスイスに対して、セルビアは勝利が絶対条件となった。両チームは4年前の2018Ｗカップでも対戦した。セルビアが、先制しながら、スイスが2対１で逆転勝利を飾った。右エンドにセルビア、左エンドにスイスが入り、セルビアボールで始まった。
写真 無記載 FIFA.com LIVE BLOG より https:/
早速開始0分、スイスはエリア内でこぼれたボールにエンボロが、反応する。ジャンプしながら右足のつま先でシュートした。前目にポジションをとったGKバンヤ・ミリンコヴィッチサヴィッチが、胸に当てて阻んだ。エリアの手前で、こぼれたボールをジャカが拾う。ジャカルタは、右足でボールをかぶせるようにシュートした。力強くバウンドしたボールを、重心を右に倒したバンヤ・ミリンコヴィッチサヴィッチが、再度跳ね返した。
写真＝バンヤ・ミリンコヴィッチサヴィッチのセーブシーン
勝利が絶対条件となるセルビアは9分、ダディッチが左サイドを仕掛け、ボランチのジャカを交わす。ゴールライン上に止まったボールを、ダディッチはコントロールしたものの、もう一人のボランチであるフロイラーにカバーされた。結果的にボールは、ゴールラインを割った。スイスの守備は、1対１の強さを持ち味とし、ボランチの一人フロイラーはカヴァーリングに定評がある、もう一人のボランチをつとめるジャカは、キープ力と共にパスの精度が高く、攻守のバランスをとる選手である。続くセルビアは10分、右に流れたダディッチが、斜め後ろのジブコヴィッチにパスを出す。助走をつけながらジブコヴィッチは、左足を振りぬいた。キッカーからみて右側にポジションをとった初先発のGKコーヴェルから逃げていく軌道を描いたものの、ポストに阻まれた。前半13分頃からセルビアがボールを支配する展開に変わる。スイスは17分に、ハーフウェー・ライン付近からエンボロがカウンターを仕掛けるものの、ダディッチのスライディングに阻まれた。
19分、スイスは、サイドバックのリカルド・ロドリゲスが、左サイドを駆け上がり、エリア内で折り返した。体勢が崩れた3バックの左に入るパヴロヴィッチの足に当たって前にこぼれた。トップ下のソウが拾い、コスヴィッチをひきつけて、右斜め前に構えたシャチリにボールを預ける。シャチリは、左足でシュートした。グラウダーのボールは、体を倒したミリンコヴィッチサヴィッチの左手を抜けて、右ネットを揺らした。1対０．狙っていたカウンターからスイスが得点を奪った。得点のきっかけを作った1989年生まれの33歳リカルド・ロドリゲスは、サイドバックながら攻撃力があり、隙を見て、前線へとびだすタイプである。ゴールを上げたシャチリも同じく33歳、169ｃｍながら、肩幅が広く、ボール際の競り合いにも簡単には負けない。足元のテクニックも優れている。
写真＝ゴールを決めたシャチリ
一点のビハインドを負ったセルビアは29分、左サイドからタディッチが、ヴィドルからボールを奪って、突破し、ゴール前のミトロヴィッチを狙って、クロスを送った。ミトロヴィッチは、センターバックのアカンジの前に入り、ヘディングで合わせた。右へ流れていくボールに、ＧＫコーヴェルは反応するものの、全く届かず、右ネットを鮮やかに揺らした。1対１．ミトロヴィッチは、センターバックのアカンジとシェアのマークから離れ、ニアに走りながら、反対サイドを狙って、ヘディングシュートを打った。キーパーのコーヴェルは、意表を突かれ、ボールに対する反応が遅れていた。
写真＝ミトロヴィッチ
同点に追いついて前がかりになるセルビアの裏を突き、スイスは30分チャンスを作った。ハーフウェー・ラインの後ろ側の左から、リカルド・ロドリゲスがロングボールを送った。シャチリは胸でボールをトラップし、パブロヴィッチのスライディングを受けながら、左足でシュートした。ＧＫミリンコヴィッチサヴィッチの指先を抜けていくボールは、わずかにゴールから外れた。
セルビアは、前回のカメルーン戦でも、攻撃に出た際、守備のカヴァーリングが遅れ、カウンターから失点した。一人一人のフィジカルは強いものの、攻守の切り替えに度々ミスを犯す。持ち味の中盤での競り合いから、インターセプトを狙う。34分、スイスのシャチリが、ボランチのシャカへパスを出した。ボールが予想以上に速く、シャカの足元を流れていった。セルビアのダディッチがボールを拾って、前に運ぶ。2トップの1角ブラボヴィッチにパスを出す。後ろから急いで戻ったボランチのフロイラーの右足のつま先にボールが当たったものの、コースを変えられない。22歳のブラボヴィッチは、腰を捻りながら左足でシュートした。ジャストミートせず、ボールは、右ネットへ転がっていく。体勢を崩したＧＫコーヴェルはボールに届かず、ネットを揺らした。2対１．セルビアは、再びインターセプトからゴールを奪った。アシストしたダディッチは、足元が柔らかく、ブラボヴィッチに正確にパスを出した。ブラボヴィッチは、シュートミスを犯したとはいえ、キーパーの逆を突いたことにより、ゴールを決めた。
写真＝ブラボヴィッチのゴール 左側FIFAより 右側毎日新聞より別角度 掲載元 毎日新聞 https:/
2022年12月3日 撮影者：宮武祐希
ビハインドを負ったスイスは37分、ゴールライン際まで左サイドバックのリカルド・ロドリゲスが切り込んでクロスを送った。ミドルレンジからバルガスが右足でシュートした。体を投げ出したパヴロヴィッチの背中に当たり、右タッチラインを超えていった。パヴロヴィッチは、起き上がって、ガッツポーズした。彼は、一失点目に繋がるクリアミスを犯していた。バルガスのシュートに対して、怖がらず、滑り込みながらブロックした。
スイスは43分、右サイドのシャチリが、中央突破すると、エリアすぐ外のトップ下に起用されたソウに繋ぐ。ソウは、ディフェンスラインを確認し、パヴロヴィッチをひきつけ、エリア内まで上がる右サイドバックのヴィドルの足元にパスを送った。フリーでランニングしたヴィドルは、右足でグラウダーのクロスを出す。ＧＫミリンコヴィッチサヴィッチは、体を右に傾けながら、反対サイドに向う。オフサイドラインを掻い潜ったワントップのエンボロが、右足でゴールへ流し込んだ。浮いたボールに、ＧＫミリンコヴィッチサヴィッチの両手は全く届かず、ネットに突き刺さった。2対２．シャチリとヴィドルの中盤でのパス交換により、セルビアの3バックは完全に引っ張り出された。アシストした右サイドバックのヴィドルを見失い、戻りながら守備をすることにより、ボールウォッチャーになった。フリーになったエンボロは、ノンプレッシャーの状態で、落ち着いてクロスを合わせていた。
写真左＝エンボロの2点目のゴール 掲載元 twitter opta jodan 12月3日より https:/
写真右＝別角度 掲載元 毎日新聞 2022年12月3日 撮影者：宮武祐希
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前半は2対２で終えた。カウンターが得意なスイス、フィジカルの強さを生かすセルビア、両チームの個性が発揮されていた。セルビアは、カメルーン戦から通して、守備の修正が利かず、裏を狙われている。スイスは、左サイドバックのリカルド・ロドリゲスと共に、右サイドバックのヴィドルがゴール前に上がり、アシストを記録したことにより、ポジティブな前半だったといえる。
後半は、エンドが代わり、右にセルビア、左にスイスが入り、セルビアボールで始まった。開始早々チャンスを掴んだのはスイスだった。ハーフウェー・ラインより後ろ側からリカルド・ロドリゲスが大きくボールを蹴った。エリアの前まで上がったセルビアの3バックの真ん中ヴェリコヴィッチの胸でのトラップが大きくなり、ボールはバウンドする。スイスのワントップに入るエンボロが拾い、エリア内まで入ると、体の向きを変えて、コスティッチまでひきつけ、エリアすぐ外のシャチリにバックパスをする。シャチリは左足でゴール前にクロスを送った。バルガスがヒールキックにて、エリアの外から上がるフロイラーの足元にダイレクトでパスを出す。ペナルティーキックポジションのすぐ右横からフロイラーは、左足でシュートを打った。重心を右に倒すＧＫミリンコヴィッチサヴィッチの反対サイドのネットを揺らした。３対２．スイスが勝ち越した。ゴールを決めたトップ下のフロイラーは、ミリンコヴィッチサヴィッチの動きを見極め、反対サイドに蹴り込んだ。トップのエンボロのキープ力から産まれた逆転ゴールである。
写真＝ゴールを決めたフロイラー
2点が必要なセルビアは、前半から一気にペースが落ちている。27分、攻撃の基点になるボランチ起用のミリンコヴィッチサヴィッチに出るボールを、速やかにスイスのザカリア（途中出場）にカットされ、カウンターを未然に防がれた。セルビアは32分、交代出場のマクシモヴィッチが、ハーフウェーラインより後ろの右側から突破を図ったところ、リカルド・ロドリゲスのチャージを受けて、スピードを落とされた。左足でシャカにクリアされると、自身の足に当たって、タッチラインを割った。判定はスイスボールである。時間が経過するたびに、セルビアのプレーはラフになりがちである。34分、センターサークル内でボランチのジャカが、キープすると、ボランチのルキッチが激しいプレスをかける。主審は、肩をぶつけて押し倒したと判断したルキッチにファウルを告げた。スイスは、急がず慌てず、球をキープして、ファウルを誘っていた。ジャカは43分に、右サイドからドリブルしながら、ルキッチをひきつけた。焦ってボールを奪おうとするルキッチに足をひっかけられて、倒れた。意図的にファウルを誘ったのである。43分、セルビアに止めをさす4点目を狙う。途中から入ったボランチのザカリアが、左斜めから駆け上がる途中出場のファスナハトにパスを出す。ファスナハトは、ランニングしながらコースを確認する。的確に飛び出たミリンコヴィッチサヴィッチが滑り込む。ファスナハトのシュートは、ミリンコヴィッチサヴィッチの右足に当たって、跳ね返された。身長2ｍを超えるミリンコヴィッチサヴィッチは、速やかに飛び出たことにより、シュートコースを狭くしていた。ロスタイムは7分と表示された。時計の針を進めるスイスの選手に対して、セルビアの選手は苛立ちを隠せず、小競り合いになった。喧嘩両成敗として、原因を作ったスイスのジャカとセルビアのミレンコヴィッチには、イエローカードが出された。
写真＝スイスのジャカとセルビアのミレンコヴィッチの小競り合い 提供：Getty Images 掲載元 Mirror https:/
スイスはロスタイム5分に、トップのエンボロに代えて、交代選手を入れて、さらに時計の針を進める。ロスタイムは9分と表示され、フリーキックからのこぼれ球を速やかに反応したセルビアは、交代出場のラドニッチが、左足でシュートした。ジャストミートせず、右ゴールラインに外れてしまった。ＧＫコーヴェルが、ゴールキックポジションにボールをセットすると、長い笛が吹かれた。3対２でスイスがセルビアに勝利し、3大会連続ベスト16進出を果たした。
写真＝試合終了後のスイスの選手達
後半早々にリードを奪ったスイスは、したたかに相手のミスを誘った。陰のＭＶＰといえるのはボランチのシャカである。彼は、キープ力とテクニックを兼ね備え、中盤で間合いを作ることができる。ジャカに対して、セルビアはルキッチがファウルを誘われた。セルビアは、守備陣から中盤、攻撃陣まで、屈強な選手をそろえる。トップのミトロヴィッチは、カメルーン戦に次いで、2試合で2ゴールを記録する。この試合は、22歳のヴラノヴィッチと2トップ起用となった。それぞれ1ゴールずつあげたものの、劇的に流れを押し戻すようなプレーはなかった。いかに最前線の選手と中盤の選手が攻撃面で連携をとれるか、チームの課題である。終了後、双方の選手は握手をかわして、ピッチを去っていった。
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