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2023年01月21日00:30

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Netflixドラマ「舞妓さんちのまかないさん」是枝裕和総合演出

Netflixドラマである。是枝裕和監督が総合演出。分福の若手監督たちがスタッフに加わっている。脚本に砂田麻美。演出に3話・4話に津野愛(『十年 Ten Years Japan』)、5話・6話に奥山大史(『僕はイエス様が嫌い』)、8話・9話に佐藤快磨(『泣く子はいねぇが』)が入っている。

この連続ドラマは、是枝監督のテレビドラマへのオマージュだ。テレビドラマで育ち、テレビドラマへの愛を公言している是枝裕和監督。松坂慶子の韓流スターのポスターへの語りかけは『時間ですよ』(久世光彦演出)の樹木希林(当時は悠木千帆)の「ジュリー♪」だし、屋根の上の物干し台のセットも『時間ですよ』で浅田美代子が歌った舞台だ。そもそも祇園の置屋という日本の伝統的な徒弟制度のある特殊な空間が、倉本聰の『前略おふくろ様』の料亭の板前の世界に通じるものだし、キヨの独白ナレーションもあった。さらに舞妓と常連客が集まるバーは、倉本聰の『優しい時間』の喫茶店そのものではないか。バーにいつもいる井浦新や尾美としのり、古舘寛治は倉本聰的なドラマの常連客だ。リリー・フランキーが寺尾聰のようにカウンターの向こう側で冷静に状況を見つめている。そんなテレビドラマ的な仕掛けや遊びを取り入れつつ、登場人物たちのキャラクターと関係の物語だけでドラマはほのぼのと進行していく。劇的な事件や事故、ドラマはほとんど起きず、日常的なささやかな出来事が淡々と描かれていく。

フードスタイリストの飯島奈美が作る食事がなんとも美味しそうだ。美味しい食事が出てくる映画には欠かせないスタッフなのだろう。森七菜演じるキヨが作る食事がみんなに幸せを運ぶ。多幸感に満ちたドラマであり、嫉妬や恨みや妬み、憎しみや暴力的な負の感情はほとんど描かれない。キヨが美味しい食事を作っても、「食べたくない」だの「いらない」といった否定は全くない。卓袱台をひっくり返すような場面もないのだ。キヨは親友のすみれ(出口夏希)のことをいつも思っている優しいいい子だし、すみれもまたキヨのことをいつも気にかけている。9話ですみれの舞妓の先輩・福地桃子が「まだ出会ってない気がする」と言って置屋から去って行くように、誰もが自分にとっての「出会い」や「居場所」を探している。そんな「出会い」や「居場所」を見つけたキヨとすみれ。すみれを演じた出口夏希の美しき変身・成長ぶりにも目を見張る。どんどん綺麗に、女へと変わっていく様が映像に刻み込まれている。『海街ダイアリー』にも通じる少女や女の子たちを描くのを得意とする是枝監督の演出力が発揮されている。複雑な負の感情は、常盤貴子の娘役の蒔田彩珠に表現されているが、それも大袈裟なものではなく、誰にでもあるささやかな感情の揺れが描かれるだけだ。何も起きないこのドラマを物足りないと見るか、多幸感に満ちた安心して楽しめるドラマと見るかは人それぞれだろう。『ベイビー・ブローカー』にも通じる優しさと愛に満ちた物語であるのは間違いない。

<追記>このドラマを見て、かつて正月にTBSがいつもやっていた向田邦子新春スペシャル、久世光彦演出のドラマも思い出した。必ず年末から正月にかけての仕来たりにのっとった家族の様子が描かれていたからだ。何話目かで、台所の神様のお札をもらうために、キヨが夜に山の上の神社にお参りに行く場面がある。あのような古くからの仕来たり、家の守り神的なもの、場所が持つ力が、人間たちを見守っている京都の文化的な素晴らしさがとても気持ちよく美しかった。

Netflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』
2023年1月12日(木)Netflixにて全世界独占配信
45分×9話
原作:小山愛子「舞妓さんちのまかないさん」(小学館「週刊少年サンデー」連載)
総合演出:是枝裕和
企画:川村元気
監督:是枝裕和 津野愛 奥山大史 佐藤快磨
脚本:是枝裕和 砂田麻美 津野愛 奥山大史 佐藤快磨
キャスト:森七菜、出口夏希、蒔田彩珠、松坂慶子、橋本愛、松岡茉優、常盤貴子

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