mixiユーザー(id:1795980)

2022年11月13日17:07

20 view

メルケル 世界一の宰相[読書日記908]

題名:メルケル 世界一の宰相
著者:カティ・マートン(Kati Marton)
訳者:倉田 幸信(くらた・ゆきのぶ)、森嶋 マリ(もりしま・まり)
出版:文藝春秋
価格:2,250円+税(2020年4月 第4刷)
----------
昨年(2021年)まで、ドイツの首相だったメルケルの伝記を読みました。
著者はアメリカ人ジャーナリストで旧東欧圏出身のカティ・マートンです。

カバーの表紙裏にある惹句を引用します。

 世界で最も権力を持った女性宰相メルケル。
 その想いと人生を描き切った決定的評伝。
 牧師の娘として、秘密警察国家・東独で育つ。物理学を科に学び、科学者の道へ。
 ベルリンの壁崩壊に衝撃を受け、35歳で政界へ転身。
 男性中心のドイツ政界で屈辱的な経験もしつつ頭角を現し、51歳で初の女性首相へ。
 民主主義を守り、ドイツをEU盟主に導き、ユーロ危機も乗り越えた。
 トランプ、プーチン、習近平ら独裁者とも渡り合う。
 難民を大量に受け入れ、極右やポピュリズムの台頭に悩まされた。
 元科学者ゆえ、コロナとの戦いにも勝った。
 首相になっても普通のマンションに住み、スーパーで買い物をする。
 得意料理はジャガイモのスープ。夫の渾名は“オペラ座の怪人”。
 SNSは使わない。私生活も決して明かさない――。

ちなみに、夫のザウアー氏が“オペラ座の怪人”と渾名されるのは、ふだんは滅多に姿を現さず、メルケルとオペラを観劇する時だけ現れるからだそうです。

----------
目次は次の通りです。

 プロローグ 牧師の娘に生まれて
 第1章 秘密警察の共産主義国・東独で育つ
 第2章 物理学科の優秀過ぎる女子大生
 第3章 東独トップの科学アカデミーへ――袋小路の人生
 第4章 ベルリンの壁崩壊――35歳で政治家へ転身
 第5章 コール首相の“お嬢さん”と呼ばれて
 第6章 初の女性首相へ登りつめる
 第7章 ブッシュ大統領と親交を結ぶ
 第8章 プーチン、習近平――独裁者と付き合う方法
 第9章 ベールに包まれた私生活
 第10章 オバマ――条件付きのパートナー
 第11章 緊縮の女王――ユーロ危機と経済大国ドイツの責務
 第12章 民主主義の守護女神――ウクライナを巡る攻防
 第13章 難民少女へ見せた涙
 第14章 2016年、最悪の年――英国のEU離脱
 第15章 トランプ登場――メルケルは“猛獣使い”になれるか
 第16章 ドイツにもついにポピュリズムの波が
 第17章 ラスト・ダンスはマクロンと
 第18章 コロナとの死闘
 エピローグ 世界最大の権力を持つ女性、その素顔と遺産とは

----------
印象に残った文章を5つ引用します。

1.【第1章 秘密警察の共産主義国・東独で育つ】
“社会への奉仕というゴールに到達するために、メルケルは早い段階で権力の必要性に気づいた。権力を汚い言葉と見なしたことは一度もなかった。
「権力自体は悪いものではありません。それは必要なものです。権力とは "何かを可能" にしてくれるもの――何かをするためのものです。何かを実行したければ、それに適した道具が必要です。それが支えになってくれます……権力の反対は "無力" です。良いアイディアも実行に移せなければ意味がありません」
権力とは何か、また、権力を必要としていることを、これほど明確に言葉にする政治家は、男女を問わず、控えめに言ってもめったにいない。”(39p)
 ⇒まさしく、滅多にいませんね。たいていの政治家は権力の座についたことで満足し、それをどう使うかまで頭が回っていない気がします。

2.【第5章 コール首相の“お嬢さん”と呼ばれて】から、ドイツ生まれでアメリカに渡ったキッシンジャー元国務長官がメルケルを贔屓にしたという話。
“キッシンジャーは自身の新たな弟子に特異なものを感じていた。「メルケルはドイツの大半の政治家が落ちる罠には、決して落ちない。かけひきに夢中になり、政治家同士で話してばかりいるという罠に」と語った。
キッシンジャーは著名なアメリカ人をメルケルに紹介する役目を買って出たものの、カリスマ性のない地味な科学者上がりの政治家が前途有望だとは思っていなかった。いや、誰ひとりとしてそんな期待はしていなかった――アンゲラ・メルケル本人を除いては。”(95p)
 ⇒キッシンジャーでも、メルケルの政治家としての資質を見抜けなかったということですね。

3.【第6章 初の女性首相へ登りつめる】から、2011年3月11日に日本で起きた原発事故を受けて脱原発に舵を切った時のメルケルの言葉。
“「核エネルギーにつきもののリスクは制御できません。人間が決してミスを犯さないのであれば、核エネルギーというリスクを許容できるのかもしれない。でも、人がミスを犯せば、その結果はあまりにも壊滅的で、長期に及び、核以外のすべての力によるあらゆるリスクを合せたものを完全に上まわります」
 激しい反核運動に難色を示す大企業のトップを長いあいだ支持してきたメルケルだったが、本格的な議論も、各省庁での手順どおりの調査もなしに、ドイツの核エネルギーの即時の段階的廃止を提言したのだ。”(144p)
 ⇒当事国の日本で原発の稼働期間を延ばそうとしていることが恥ずかしくなる決断です。

4,【第12章 民主主義の守護女神――ウクライナを巡る攻防】から、2014年にロシアがウクライナを侵攻した際の描写。
“西側諸国が(ロシアのウクライナ侵攻に)ショックによろめいている間にも、プーチンは動き続けた。山のような嘘をまき散らし、実際に起きていることが違って見えるよう手を打った。その筋書きは、埃をかぶったソビエト時代のものと何ら変わっていない。
「ファシストによる非合法の暫定軍事政権が、キエフとクリミア在住ロシア人の脅威となっている」と主張し、同時にソーシャルメディアやその他あらゆるコミュニケーション手段を用いて現地の群衆をあおり立てた。”(254p)
 ⇒ロシアは2014年と同じ筋書きで今回(2022年)もウクライナを侵攻したことが分かります。

5.【エピローグ 世界最大の権力を持つ女性、その素顔と遺産とは】から、本書を締めくくる言葉。
“歴史の本にどのような人として描かれたいか、と聞かれた彼女はかつてこう答えている。「努力の人だった、と」――。自信たっぷりのデマゴークが横行するこの時代、彼女が選んだ碑文の謙虚さと慎ましさは、それだけで多くのことを物語っている。(442p)
 ⇒「謙虚であること」は、私を含めて、多くの男性には難しいことかもしれません。

最後に【第18章 コロナとの死闘】からコロナ対策としてロックダウンを決断したメルケルが国民に呼びかけた場面を引用します。
“この日メルケルが行った演説は、国内におけるこの致死的なウイルスの流れを変えた。いや、その感染の強さを考えれば、国境の外側における流れさえも変えたと言っていい。
「事態は深刻です」。めったにない強い口調で彼女は言った。「この問題を重く受け止めてください」と何度も忠告を繰り返した。そして、ドイツ人はその言葉を信じた。なぜなら、これまでの十五年間でメルケルに嘘をつかれたことは一度もないからだ。”(409p)

「嘘をついたことが一度もない政治家」、日本にも現れて欲しいものです。

---------- ----------
カティ・マートン(Kati Marton)
米 NPR、ABCニュースの元記者。受賞歴のあるベテランジャーナリスト。
旧東欧圏・ハンガリーで生まれ育つ。ユダヤ人の祖父母はアウシュビッツで亡くなった。6歳のときに両親が秘密警察に連行される。のちに一家で米国に移住。
ソルボンヌ大学、パリ政治学院で学び、ジョージワシントン大学で国際関係の修士号を取得。
著書も多く、Enemies of the People: My Family's Journey to Americaは、全米批評家協会賞の最終候補になった。
私生活では、ABCニュースのアンカーであるピーター・ジェニングスと離婚後、元駐ドイツ大使のリチャード・ホルブルックと結婚。
本書は、メルケル政権やオバマ政権のインサイダーに取材して執筆された。旧東欧圏出身の自らの経験も、メルケルという人物を理解するうえで役に立ったという。

0 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2022年11月>
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930