伊能忠敬――僕の住む千葉県が生んだ、日本人ならほとんどの人が知る偉人だ（写真）。
◎５０歳で隠居し、佐原を出て江戸へ
その偉業とは、むろん幕末の列強の外国人も驚いたという正確無比な日本全図である（写真）。歩測で距離を測り、地図を作った。
しかし実は日本地図作りは、伊能が全力を傾けた科学調査事業の副産物だった。それを、ＮＨＫ−ＢＳプレミアムの「コズミック フロント『地球という星をつかめ・伊能忠敬』」で知った。
佐原の豪商だった彼は、５０歳で隠居し、江戸に出てきた。人生５０年と言われた当時なら、順当な隠居だが、彼は佐原で隠棲せず、わざわざ江戸に出てきて、深川に居を構えた。
◎地球を測るためにできるだけ遠くにと蝦夷地へ
心に秘めた目的があった。彼は、「超」が付くほどの天文学マニアで、星の観測を志し、中でも足下の地球を調べる、具体的には地球の大きさを測ろうとしていたというのである。浅草にある幕府の天文台の天文方・高橋至時に指導を受けた。
今と違い、江戸でも伊能の住んだ佐原と同じように空は暗く、また空気も澄んでいた。観測に邪魔な都市の「光害」は無かった。
最初は、幕府の天文所のある浅草と自身の住まいの深川に作った私説天文台の間で南中の星を観測し、その仰角と両地点間の距離から地球の全周を割り出そうとした。しかし浅草と深川の間の距離は２．４８キロほどと短かった。
その結果は、３万５７００キロほど。正確な数値よりも１割以上も狂っていた。むろん伊能には、正確な誤差は分からないが、狂っているということだけは分かっていた。
天文方の高橋至時と相談し、もっと離れた所まで行って測天することを決意する。
そこで、蝦夷地まで遠征しようとした。今の別海町までの距離を測り、そこでの星の角度を観測し、江戸・深川と別海までの距離と星の仰角差から地球の直径を割り出すことにした（写真＝別海町の記念碑）。
◎歩測のため大きな狂い
しかし当時、町人が勝手に諸国を歩き回れない。高橋の尽力で幕府に働きかけ、日本地図を作るための測量の旅という大義名分で許可を得る。史実かどうかは分からないが、テレビの再現放送では、一行は「御用」の旗を掲げていた。伊能、５５歳の年である。
その間、驚くべきことに伊能は歩測で距離を計算していった。歩測では、どうしても正確さに欠ける。距離を延ばしていくにつれ、その狂いは積み重なっていく。
結局は、それで割り出した緯度１度は２７里（約１０６キロ）で、それを基にした地球の直径も３万８１６０キロほどと出た。現在分かっている正確な地球直径と５％の誤差があった。もっとも伊能は、その誤差は分かるはずもなく、ただ歩測だったので、正確ではないことだけは気づいていた。
◎再び測り直しの旅に
伊能は、高橋に励まされ、もう１度、距離を計り直すことを決意する。幕府は、最初の測量旅行で伊能が製作した東日本の地図の正確さを認め、２度目の調査旅行を許可した。
今度は、鉄の鎖をつないだ距離計と巻き尺に似た量程車（車型の距離測定器）を携行した。
そうやって２度目の測量で得た数値は、緯度１度で２８里２分（約１１０．７４キロ）となった。しかし問題は、自信はあっても、その値が正しいのか、伊能には依然として分からないことだった。
しかしそれは師の高橋が、フランスの天文学書のオランダ語訳『ラランデ暦書』からフランスでの実測値を見つけたことで解決した。ラランデ暦書によると、緯度１度は里換算で２８里２分だった。まさに伊能の実測値と一致した（誤差はたった０．３％。幼稚なアナログ測量機器で得たものとしては驚異的正確さである）。
そして正確な測量を基にして、伊能は江戸から蝦夷までの東日本の地図を制作、幕府に提出した。
思えばあの正確な伊能忠敬の日本全図は、地球を測るという天文学観測の副産物だったのだ。
◎７１歳まで１０度の測量の旅
出来上がった東日本地図を幕府に納めると、今度は西日本の測量と日本全図の作成を命じられた。
伊能は、７１歳で引退するまで生涯で都合１０度、測量旅行に出た。そして作り上げたのが、日本全図だ。
その地図の写しは、幕末に来日し、日本の蘭学と蘭方医学に大きな功績を残したシーボルトの手に渡り、写しそのものは「シーボルト事件」で幕府に没収されるが、写しの写しはオランダにもたらされ、列強に大きな驚きを与えた（２０年１月１１日付日記：「樺太紀行（番外）；幕末の樺太探検家で世界で最初に間宮海峡を発見し、樺太地図を制作した間宮林蔵�ぁД掘璽椒襯隼�件のきっかけを作った人」
https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202001110000/を参照）。
隠居してから、自らの好奇心と向学心を満たすために全国を旅した伊能に千葉県人として大きな誇りを持っている。
注 容量制限をオーバーしているため、読者の皆様方にまことに申し訳ありませんが、本日記に写真を掲載できません。
写真をご覧になりたい方は、お手数ですが、
https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202206160000/をクリックし、楽天ブログに飛んでいただければ、写真を見ることができます。
昨年の今日の日記：「優良ＲＥＩＴ、武漢肺炎にも負けず、今期も増配」
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