題名:桜が創った「日本」 ―ソメイヨシノ 起源への旅―
著者:佐藤 俊樹(さとう・としき)
出版:岩波新書
価格:740円+税(2005年2月 第1刷発行)
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新年あけましておめでとうございます。
春頃に新聞の書評欄で紹介されていた本を読みました。
表紙裏の惹句を引用します。
“一面を同じ色に彩っては、一斉に散っていくソメイヨシノ。
近代の幕開けとともに日本の春を塗り替えていったこの人
工的な桜は、どんな語りを生み出し、いかなる歴史を人々
に読み込ませてきたのだろうか。現実の桜と語られた桜の
間の往還関係を追いながら、そこからうかび上がってくる
「日本」の姿、「自然」の形に迫る”
目次は次の通りです。
まえがき
1 ソメイヨシノ革命
1)「桜の春」今昔
2) 想像の桜/現実のサクラ
2 起源への旅
1) 九段と染井
2) ソメイヨシノの森へ
3) 桜の帝国
4) 逆転する時間
3 創られる桜・創られる「日本」
1) 拡散する記号
2) 自然と人工の環
あとがき
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印象に残った文章を引用します。
【1 ソメイヨシノ革命】《1)「桜の春」今昔》から、桜の種類について。
“実は一口に「桜」といっても、たくさんの種類がある。
自生種(野生で生えていた桜)ではヤマザクラ、オオヤマザクラ、オオシマザクラ、カスミザクラ、エドヒガン、マメザクラ、タカネザクラ、カンヒザクラなど。(略)
この上にさらに「里桜」とよばれる園芸品種(人が育ててきた桜)が三百以上ある”(2p)
【1 ソメイヨシノ革命】《2) 想像の桜/現実のサクラ》から、有名な吉野山の桜が実は人手によって植えられたものであるという話。
“江戸時代、吉野山はたしかに桜の名所だったが、幕末から明治初めにはすっかり衰微していた。
吉野の桜は蔵王権現に桜を献木する風習からはじまったといわれる。これはどうも伝説らしいが、南北朝時代には有力者が千本単位で植える例が出てくるので、その頃には現在に近い植え方になっていたのだろう。いずれにしても自然の景観ではなく、人手をかけないと維持できない人工的な空間であった(鳥越皓之『花をたずねて吉野山』など)” (44p)
【2 起源への旅】《2) ソメイヨシノの森へ》から、ソメイヨシノが大正期にナショナリズムの表象になったことについて。
“桜が大々的に植えられるようになるのは大正期で、その主力はソメイヨシノであった。
これ以降、ソウルをはじめ、朝鮮半島各地に桜が植えられ、名所ができていく。列島の内でも外でも同じ春が出現しつつあったのである。(略)
均質化された土地に咲く均質な桜。桜は(大正十三年頃)すでにナショナリズムの表象になっていた。
だからこそ、そのただ一つの桜らしさはただ一つの日本らしさをいっそう強く実感させる〈日本〉を発見する語りの浸透にそれが加わることによって、「同じ桜が咲く国土」という感覚をより深いものにしていったのではなかろうか”(125〜126p)
【3 創られる桜・創られる「日本」】《2) 自然と人工の環》から、桜の新品種を創りやすい性質について。
“ソメイヨシノは生物学的にはエドヒガンとオオシマの交配種だが、桜のイメージ上では、むしろヤマザクラの「進化」したものにあたる。伊藤銀月風にいえば、桜を鑑賞用に愛しむという日本人の習性にあわせて、桜が進化してきた結果なのである。
こういう意味での「進化」も取扱い注意の考え方だが、生物学的な特性からみても、それほど的外れではない。
すでに何度ものべたが、桜には自家不和合性がある。「S遺伝子」が同じめしべとおしべの間では、受粉しない。
逆にいえば、桜は遺伝子を組み替えて、新たな性質を生み出しやすい。(略)
桜好きの間では、このことは昔から気づかれていた。小野蘭山という人がこんな歌をつくっている。(略)
ひと品を実うへにすれば色も香も かさねの名さへかはりこそすれ”(197p)
【あとがき】から、著者が好きな桜について。
“平均的な桜好きらしく、私はどの桜も好きだ。ソメイヨシノの氾濫にはちょっとひくが、ソメイヨシノ自体は美しい。ヤマザクラ好きの思いこみは興ざめだが、ヤマザクラはやっぱり美しい桜だ。(略)
しかし、あえて一番好きな桜、といわれれば、オオシマザクラをあげるだろう。オオシマの葉の緑と花の白の対照(コントラスト)に私は強く惹かれるのだ”(210p)
ソメイヨシノについて植物学、文学、社会学など多方面から考察した深い内容でした。
今年の春は、多摩森林科学園(高尾)に行って、さまざまな種類の桜を見たいと思いました。
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佐藤 俊樹(さとう・としき)
1963年広島生まれ
1989年 東京大学社会学研究科博士課程退学
現在―東京大学総合文化研究科助教授
専門―比較社会学、日本社会論
著書―『近代・組織・資本主義』(ミネルヴァ書房)
『ノイマンの夢・近代の欲望』(講談社選書メチエ)
『不平等社会日本』(中公新書)
『00年代の格差ゲーム』(中央公論新社)ほか
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