脳内ではニューロンと呼ばれる神経細胞がシナプスを介してつながっていて、電子回路のようなネットワークで情報を伝達している。
脳の情報伝達は、ニューロンの電気信号がある大きさを超えて発火し、次にシナプスにおいて神経伝達物質という化学物質が放出されるという流れで行われている。
神経細胞の内外で、この電位差が一定の大きさを超えると一気に上昇し、別のニューロンに信号を出力する。
これをニューロンの「発火」という。
ニューロン同士を接続するシナプスは、その人がさまざまなことを経験したり学習したりすることで、それを記憶し、変化する。
新しい経験や体験などによって脳が活性化され、シナプスの通りが良くなれば伝達物質の放出量が増え、数が増えれば接点が増える分、情報をたくさん伝えられる・受け取れることにつながる。
こうして刺激と快をつなぐ、新しい神経回路が形成される。
「たくさんのことをバラバラに勉強するから、つらいし、つまらないのです。
ある日、知っていることＡと、知っていることＢが頭の中で繋がったとき、はじめて知識が『快感』になるのです。
時々、神の恵みの『ひらめき』であることもあるのですが、『つなげよう』という気合いのないところになかなか神も降りてきてはくれません。
本当に、いやいややらされる勉強はかわいそうだ。
バラバラのものがつながって、全く新しい視野が開かれる瞬間の驚きと爽快が、頭のやわらかい君たちに必ず訪れてきますように！」
〜「こころとのつきあい方 13歳からの大学授業 桐光学園特別授業�后廚茲蝓々盪街─扮冓験惻圈∨殘�家）からのメッセージ
私は常々、脳科学、人類学、認知心理学などの「理科系」の自然科学と、哲学、芸術学、歴史学、宗教学などの「文系」の人文科学が出会う場所にこそ、真実があるのだと考えている。
知っていることＡと、知っていることＢが繋がったときの、すなわち「回路」を形成する際の、発火するかのような快感。
その「学び」でもたらされた快感が引き金となって、脳細胞の中の神経回路が、新たな知的興奮を受け発火するニューロンと、シナプスを通してつながる神経回路。
まさに、自然科学と人文科学がつながり、二重写しのような、あるいはDNAの二重螺旋構造のような、同じような構造をたどって、真実にたどりつく回路のようではないか。
自分のことを振り返ってみると、まさに「13歳からの大学授業」の生徒達のような13歳、中学に入るか入らないかの頃に出会った、自分の好きな2つの曲、ドビュッシーの「月の光」と坂本龍一の「戦メリ」。
両者が、まるで双子のように似ているとは何となく感じていた。
その２つについて、同じ変ニ長調という調性、いわゆる長音階や短音階とは異なる旋法や五音音階が織りなす旋律線、9度、11度といったテンションコードの響き、4度堆積和音（ドに対する3度上のミ、ミに対する３度上のソ〜と重ねていくコードではなく、４度で重ねることで、メジャーコードともマイナーコードともつかない響きになる）、コードのルート（根音、Cメジャーなら「ド」）以外の音をベースに用いる分数コードなど、分析のツールを用いて、音楽の仕組みを知れば知るほど、両者の共通点が知識、理論として知覚できるようになる。
「何となく似ているな」、ととらえた感性が、「なぜ似ているのだろう？」という疑問を育み、学びによって得られた知見を通し「構造が共通しているから似ているんだ」という理解に繋がる。
その理解を通して得られた知覚や経験が、また新たな楽曲の魅力に気づく感性を育む。
こうして、理論と感性は、車輪の両軸のごとく、分かちがたいものとなる。
もっとずっと大人になってから、その良さに気づいたモダンジャズの「マイルス・ディビスのバラードは、それまでのスイングジャズやテクニック一点張りのビバップとは違ってクールでブルーな憂いに満ちている」という感性が捉えた聴き方と、「そのマイルスのピアニストだったビル・エヴァンスが、ドビュッシーを研究し、旋法や四度堆積和音を駆使して、マイルスのアルバムで調性音楽、和声音楽からのジャズの解放を導いた」と理解する聴き方。
ドビュッシーから影響を受けたビル・エヴァンス、ドビュッシーとエヴァンスの両方から薫陶を受けた坂本龍一と、ここでもまた点と点がつながる線が新た引かれ、つながる。
あるいは、TVのお笑いの「シュール」なネタ。
「シュール」は、「シュールレアリズム」、超現実的、非現実的と言うこと。
俗語で言えば、「ありえねー」「ぶっとんでる」というような感覚。
本来ならつながるもののないものごとを、ネタの作者の感性がつなげることで生まれる超現実感。
その超現実感・非現実感を、単に強引にむりやりつなぎ合わせるのではなく、「笑い」という新たな感性に結びつなげるセンス。
そしてその「ありえねー」「ぶっとんでる」感覚をもたらす「非現実」なお笑いは、TVのプログラムやお笑いのライブという「現実」世界の中で展開する出来事。
シュールなネタで披露される非現実界と、それを見て笑う現実界が、こうして二重三重につながって（つなげて）いく。
知ること、学ぶこと。そして未知のもの同志がつながる（つなげる）こと。新しい経験や体験などによって脳が活性化すること、それはやはり人間にとって快の刺激をもたらすものなのだ。
その点と点を結ぶ回路の線は、きらめく星々を線で結んで描かれる、美しい星座の形のごとく。
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