mixiユーザー(id:39904538)

2021年10月31日13:12

149 view

科学者

私は科学者の伝記やエッセイなどをよく読む。そこから科学者と一般人は何が違うのかということが少しずつわかってくる。
一例を挙げよう。
中谷宇吉郎博士という科学者がいた。博士は雪や氷、水の研究でよく知られている。
彼が書いたエッセイのなかに「立春の卵」というのがある。
これは卵を立てる話なのだが、卵を立てるということは”コロンブスの卵”の話でもわかるように”卵は立たない”というのが常識になっている。しかしコロンブスよりはるか昔の中国書物に”立春に卵が立つ”と書かれているらしい。このことが中国の宣伝部の人物が紹介したため、戦時中から戦後間もなくのころ立春に卵を立てるということが世界中で行われていたらしい。ニューヨークでだれだれが9個の卵を立てたとか、どこそこでは10個を立てたというようなニュースがあり、日本でも立春のとき、裏返ししたお盆に5個立てたとか、気象台の予報室で科学者たちが大勢で実験をして9個立てた写真が新聞ニュース出たりしたらしい。”立てられなかった人はまた来年挑戦しましょう”と言われたりしていたという。
こうなると”立春”と卵のあいだに何らかの科学的な関係があると思われ、色々な説が出てきた。
中谷宇吉郎はなぜ立春に卵が立つのか疑問に思って調べてみた。立春とは何かというと二十四節気の最初で大体2月4日ごろで節分の次の日だ。この風習は中国から始まっているので中国近辺しかなく西洋にはない。天文学的には黄経315度という時刻だ。(地球を中心にして春分点から太陽1年間を360度としたときの315度だ。)
この時が卵にどういう影響を与えるのかを調べると、”卵は内部が液体でそのためこの日に重心が下がる”という説があったらしい。そこで彼は卵の形状と重量から重心位置を計算し卵とテーブルの弾性率から卵が立ったときの接触面積を割り出した。すると直径0.2mmとなった。すなわち重心からの垂線が接触面積を通る範囲であれば卵は立つことがわかる。が、これは難しい。立春のとき重心が下がるということも無く、ゆで卵にしても重心は変わらなかった。

自宅にあった卵を立ててみたら10分ぐらいで立ったらしい。そこで大学(北海道大学の教授であった)で学生の前や研究室でやってみるとどうしても立たない。
卵の表面はザラザラしているので台に墨を塗り卵を立てたものを顕微鏡で見るとザラザラの突起3,4個で支えていることがわかった。その時の接触面積を調べると約0.8mmだった。つまり突起3,4個が五徳(鍋ややかんを乗せる短い脚が付いた台)の脚のように卵を支えているのである。

大学では立てることが出来なくて自宅で出来るのは体と気持ちを安定させていると立てやすいということらしい。
立春とはなんの関係もなく、立たないことが常識とされている卵も立つ条件をきちんと把握していると誰でもが立てることが出来ることを証明した。

科学者とは、常識にとらわれることなく、疑問を感じると徹底して調べ実験をし、疑問を解消する好奇心を持っている人たちである。このようにして洋の東西を問わず科学者たちは常識を覆してきた。たとえばガリレオ・ガリレイはギリシャの昔から落下は重いもののほうが早いと言われていたのをピサの斜塔から木の玉と鉄の玉を落として同時に地面に着くことを証明したというエピソードがある。(実際は斜面を作り、いろんなものを転がして実験したらしい。ガリレオはそのほかにもいろんな常識を覆している。)
ノーベル賞受賞者たちもやはりそのようにして新しい発見をしたり常識を変えたりしてきている。

ときどき小中学生が夏休みの自由研究などでアッと驚くような発見をする。大人が考えつかなかったようなことを発見したりしているのを見るのは楽しい。
我々もものごとを注意深く見て好奇心を持っていると少しは科学者に近づくことができるかもしれない。


2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する