mixiユーザー(id:1795980)

2021年10月10日10:57

175 view

ポストコロナのSF[読書日記851]

題名:ポストコロナのSF
編者:日本SF作家クラブ
出版:早川書房
価格:1060円+税(2021年4月 発行)
----------
古い友人から薦められた本です。
「古い」と書いたのは、昔、私がSF好きだった頃を知っている友人だからです。

帯の惹句を引用します。
“コロナ禍は、災厄か、変革か?
 想像力が判断する――
 新型コロナ後の世界を描く、19篇収録の書き下ろしアンソロジー”

裏表紙の言葉も紹介しましょう。
“2021年4月現在、いまだ終わりの見えない新型コロナウイルスのパンデミック
 により、人類社会は決定的な変容を迫られた。この先に待ち受けているのは、
 ワクチンの普及による収束か、あるいはウイルスとの苛酷な共存か。
 それにより人類の種族意識はどう変わるのか――まさに新型コロナウィルス禍
 の最中にある19名の作家の想像力が、ポストコロナの世界を描く19篇。日本
 SF作家クラブ編による、書き下ろしSFアンソロジー”

目次は次の通りです。
----------
 まえがき(日本SF作家クラブ会長 池澤春菜)

 黄金の書物(小川哲)
 オネストマスク(伊野隆之)
 透明な街のゲーム(高山羽根子)
 オンライン福男(柴田勝家)
 熱夏にもわたしたちは(若木未生)
 献身者たち(柞刈湯葉)
 仮面葬(林譲治)
 砂場(菅浩江)
 粘膜の接触について(津久井五月)
 書物は歌う(立原透耶)
 飛浩隆「空の幽契」
 カタル、ハナル、キユ(津原泰水)
 木星風邪[ジョヴィアンフルゥ](藤井太洋)
 愛しのダイアナ(長谷敏司)
 ドストピア(天沢時生)
 「後香[レトロネイザル] Retronasal scape.(吉上亮)
 受け継ぐちから(小川一水)
 愛の夢(樋口恭介)
 不要不急の断片(北野勇作)

 SF大賞の夜(日本SF作家クラブ事務局長 鬼嶋清美)
----------

全19篇を紹介できないので、印象に残った短編の概要や文章を引用します。

『オンライン福男』(柴田勝家):
西宮神社の十日戎で有名な福男選びが、コロナ禍でオンラインの仮想空間で行なわれるようになった世界の話。
発想が面白く、また、他の短編が“接触禁止”“外出禁止”“感染症が数年ごと流行する世界の話”など暗い色調にならざるをえない中で内容も明るい話でした。

『献身者たち』(柞刈湯葉):
国境なき医師団にいて、世界の感染症現場で闘う医師の話。一文を引用します。
“あの時もっと上手い言い方をしていれば、と悩むことがないわけでもない。でも私はただの医者なのだ。
 相手を尊重し、気分を害さずになだめつつ、夢を諦めさせるような話術は、当時も今も持ち合わせていない。
 ないものは仕方ないのだ。(医療現場の)派遣先にCTやMRIがないからって、嘆いていても仕方ない。私たちはあるもので生きていかないといけない”(145p)

『書物は歌う』(立原透耶)
大人がほとんど亡くなり、十代の子どもしか残っていない世界の話。
“昔は紙の地図というものがあって、それを見て歩けば行きたいところにたどりついたそうだ。
 でも人類は紙の地図を捨てて、スマートフォンやパソコンで見る電子地図やナビゲーターと言うソフトを使うようになった。
 まさか将来、電気も電波もなくなってしまうなんて、思いもよらずに”(251p)

『木星風邪[ジョヴィアンフルゥ]』(藤井太洋):
月で生まれて木星に仕事で移住した主人公が見た木星の空の描写。
“ずんぐりとした居住区の建物の上に、木星の五番目の月、イオが黄色い顔を覗かせたところだった。
 じっと見ていると、横に広がったポプラの梢の先を、三日月になったイオが少しずつ渡っていく。
 澄んだ紫色の空には、イオの後ろに付き従うようにして、ガリレオ群の残りの三つの月と、小さな太陽が並んでいた”(326p)

『受け継ぐちから』(小川一水):
はるか未来、宇宙に進出した人類も、まだ感染症と闘っていたという話。主人公は宇宙船が入港する港(?)で救助活動をする男性。
“高さ一メートルの卵型をしたロボットから折り畳みアームが飛び出して、おれの薄型装甲宇宙服を調べ始めた。
 前の現場の血痕を滅菌し、気密破れを捜索する。DocMecは追従型医療補助ロボットだが、そういうこともしてくれる。
 こんな服を身に着けるのは感染症対策のためと、護身用だ。誰が乗っているかわからない入港船へ行って救助活動をするには、これぐらいは要る”(448p)

『不要不急の断片』(北野勇作):
70篇の超短篇(1篇100字に統一されています)が集まった異色の作品です。2つ引用します。
“アクセルとブレーキの両方を踏むことも必要、などと言ってますが、じつはアクセルもブレーキもこの車にはついてなくて、ただ坂を転がり落ちているだけです。
 えっ、あれが今踏みしめているものですか? 犬の糞です”(503p)
“隔離されることになったホテルに人間は見当たらず、その代わりなのか、ロボットが次々に部屋にやって来る。
 床を掃除するロボット。話し相手になってくれるロボット。励ましてくれるロボット。医療ロボットは来ない”(507p)

作品ではなくドキュメンタリーですが、締めくくりの『SF大賞の夜』(鬼嶋清美)も、2020年2月のSF大賞を決める夜の様子を描いており面白く読みました。

まだ、こんなにSF好きな人たちがいるんだ、と妙な安心感を感じながら、読み進めました。
1 5

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2021年10月>
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      

最近の日記