題名：中国vsアメリカ 宿命の対決と日本の選択
著者：橋爪 大三郎（はしづめ・だいさぶろう）
出版：河出新書
価格：900円＋税（2020年12月 初版発行）
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マイミクさんお薦めの本です。
著者は【はじめに】で、本書の狙いを述べています。
“本書はこの、米中対立を掘り下げて考えてみる。その背景。その原因。両国の考え方。その今後。……。（略）
それは（本来なら）「中国研究所」の役割である。筆者はかつて、日本はちゃんとした中国研究所をつくる必要がある、と訴えた。でもまだ、存在しない。
重要で巨大な隣国を、ぼんやりとしか理解できない現状は、とても危うい”（9p）
目次を紹介しましょう。
はじめに
第１章 関与政策――アメリカの失敗
第２章 中国共産党の中国――毛沢東・��小平・習近平
第３章 現代中国の本質
第４章 緊迫する香港
第５章 米中の軍事衝突
第６章 ふしぎな中国のナショナリズム
第７章 中国vsアメリカ自由連合
おわりに
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印象に残った文章を各章から引用します。
【第１章 関与政策――アメリカの失敗】から「ネコからトラになった」中国について。
“改革開放が始まった当時、中国は国力も外貨もなかった。西側諸国から絶望的なほどひき離されていた。
中国はそのことを、よくわかっていた。プライドがあっても我慢して西側諸国の言うことをよく聞いた。アメリカからみれば、言うことを聞くネコである。（略）
ビジネスをしているぶんには、中国はふつうのパートナーのように思える。労賃の安さは魅力だった。労働争議が起きにくいことも助かった。
労賃は少しずつ高くなったが、代わりに技術力が高まった。多くの企業が中国に生産拠点を移した。
気がつけば、中国の経済規模は日本を追い越し、アメリカに肩を並べるまでになった。《ネコがトラになった》”。（42p）
【第２章 中国共産党の中国――毛沢東・��小平・習近平】から習近平国家主席の感性について。
“習近平は、文化大革命で辛酸をなめた経験から、リベラルな政治家ではないかという観測が就任時にあった。
その反対だった。陜西省で思春期を過ごし、海外の情報にも触れなかったため、周恩来や��小平とは対極的な、土着的な感性をもっている”（77p）
【第３章 現代中国の本質】から、宗教活動を抑制している中国について。
“中国共産党は、人民のいっさいの自発的な結社、とりわけ宗教活動を警戒し、抑圧している。
法輪講は非合法とされ、イスラム教は警戒され、キリスト教は監視されている。
中国共産党の一党支配は、一党支配のための一党支配、権力のための権力であり、ひと握りの中国共産党の幹部の利益に奉仕するためのものである”（136p）
【第４章 緊迫する香港】から、今回の香港国家安全維持法施行に伴う強権発動について。
“国際社会は、今回の（香港での）出来事を通して、中国と習近平政権に、深い不信感と警戒感をもった。
中国は、国際公約を守らない。「一国二制度」は、中国が言い出し、英中共同宣言でうたわれた国際公約である。（略）
経済が小さなうちはおとなしくしていて、国際社会の覇権を狙う大国に成長すると急に態度がでかくなる。自分が言い出した原則をかなぐり捨てる。こんな国を誰が信用できるだろうか”（164p）
【第５章 米中の軍事衝突】から、南沙諸島をめぐる米中軍事衝突の可能性について。
“ここまでにのべた（南沙諸島をめぐる米中軍事衝突の）シナリオは、実際に起こりうる事態の一例である。
衝突がどのように起こり、どのように展開するかは、軍事や外交の専門家でも意見が分かれている。誰にも予測できないと言っていい”（240p）
【第６章 ふしぎな中国のナショナリズム】から、中国のナショナリズムを分析する能力がある国が無いことの危険性。
“いま世界に必要なのは、中国のナショナリズムの内部メカニズムを、詳細に分析し理解することだろう。情報機関は何をおいても、その作業を進めるべきだ。
アメリカの情報機関は、問題意識はあっても、その能力が足りない。漢語の素養が欠けている。日本の情報機関は、漢字は読めても、情報を取り出す姿勢が欠けている。
中国自身は、自分の無意識に立ち向かうことができない。要するに世界のどの国も、中国のナショナリズムの本質を取り出すことに成功しない”（291p）
【第７章 中国vsアメリカ自由連合】から、現在の中国が、かつての日本に似ているという危惧。
“習近平政権の本質は、ナショナリズムである。
ヒトラーのナチスや、スターリンの「全体主義」とは違う。中国の人びとは、ほかの国々と同じような、ナショナリズムでやっているだけだと思っている。（略）
中国のナショナリズムは、「中国の特色ある」社会主義、である。「中国の特色ある」社会主義、とは、ナショナリズム・プラス・中国共産党、である。
それは、かつて日本のナショナリズムが、ナショナリズム・プラス・天皇、だったのと似ている。これは健全なナショナリズムなのか、それともガン化しているのか”（308p）
締めくくりに、本書で一番驚いた部分を引用します。
【第５章 米中の軍事衝突】から。
“さて、本題に入ろう。
アジア地域、とくに台湾をめぐって、軍事衝突は起こるのか。軍事衝突は起こる！ そう覚悟しておいたほうがよい”（178p）
事態は、そこまで緊迫しているのかと愕然としました。
橋爪大三郎さんの著作は以前に『ふしぎなキリスト教』や『おどろきの中国』を読んだことがあるのですが、その時とは異なる激しい筆致に著者の危機感が伝わってきました。
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橋爪 大三郎（はしづめ・だいさぶろう）
1948年、神奈川県生まれ。社会学者。
大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。
『はじめての構造主義』（講談社現代新書）、『世界がわかる宗教社会学入門』（ちくま文庫）、『ふしぎなキリスト教』（共著、講談社現代新書）、『戦争の社会学』（光文社新書）、『死の講義』（ダイヤモンド社）、『はじめての聖書』『性愛論』（河出文庫）、『アメリカ』（共著、河出新書）など著書多数。
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