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2021年02月21日20:18

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ペスト[読書日記819]

題名:ペスト
編著:カミュ(Albert Camus)
訳者:宮崎 嶺雄(みやざき・みねお)
出版:新潮文庫
価格:750円+税(令和2年4月88刷刷)
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1回目の緊急事態宣言が終った時に購入した『ペスト』を読みました。
コロナ禍が収まってから、わだかまり無く読もうと思っていましたが、残念ながら収束する気配が見えず読み始めました。

小説を読書日記に書く時は、ネタばれに注意して内容を書かないのですが、今回は有名な著作なので一部を抜き書きします。

物語は架空の町オランを舞台に展開され、ペストが流行り出したオランは封鎖され、市民が街の外に出られなくなります。
小説の冒頭は次のとおりです。
“この記録の主題をなす奇異な事件は、194X年、オラン(訳注 アルジェリアの要港)に起った。通常というには少々けたはずれの事件なのに、起った場所がそれにふさわしくないというのが一般の意見である。
 最初見た眼には、オランはなるほど通常の町であり、アルジェリア海岸におけるフランスの一県庁所在地以外の何ものでもない”(5p)
アルジェリアなのに、フランスの県庁所在地?と混乱しましたが、なるほどフランスは第二次世界大戦後までアフリカ各地に植民地を持っていたことを思い出しました。

印象に残った文章を5つ引用しましょう。
→は私の感想です。

1.ペストが流行り始めた当初の市民の思いについて。
“わが市民諸君は、この点、世間一般と同様であり(略)別のいいかたをすれば、彼らは人間中心主義者(ヒューマニスト)であった。
 つまり、天災などというものを信じなかったのである。天災というものは人間の尺度とは一致しない、したがって天災は非現実的なもの、やがて過ぎ去る悪夢だと考える。
 ところが天災は必ずしも過ぎ去らないし、悪夢から悪夢へ、人間のほうが過ぎ去っていくことになり〜”(56p)
→ここで言う「天災」はペストのことですが、これを「地震」と読み変えれば、まさしく日本に当てはまります。 

2.ペストの流行を告知したビラについて。
“この(ペストの流行を告知した市役所の)ビラから、当局が事態を正視しているという証拠を引き出すことは困難であった。
 処置は峻厳なものではなく、世論を不安にさせまいとする欲求のために多くのものを犠牲にしたらしかった”(77p)
→小説の中の架空の町オランでも役所の体質は、日本と同じようです。

3.ペストの流行が本格的になった時点での市民感情について。
“ペストは彼ら(市民)にとって不愉快な訪問者――元来やって来たものである以上、いつかは立ち去って行くべき訪問者であるにすぎなかった。
 おびえてはいたが、絶望はしていなかったし、やがてペストが、さながら彼らの生活形態そのものと感じられ、それまで彼らの営みえた生活を忘れてしまうに至ったあの時期は、まだ到来していなかった。要するに、彼らは待望のなかにあったのである”(135p)
→感染症に対して始めは楽観視していて、だんだんと危険性に気づき始める……そんな一般市民の心情を的確に描いていると思いました。

4.ペストが猛威を振るう中での空想的な希望や、根拠のない恐れについて。
“たとえば彼ら(市民)のなかで最も聡明な連中が、世間みんなと同じように、新聞紙上や、あるいはラジオ放送のなかに、ペストの急速な終息を信ずる理由を捜すような
素振りを見せて、空想的な希望をあからさまにいだいたり、あるいは、どこかの新聞記者が退屈さにあくびをしながら、多少出まかせに書き飛ばした考察を読んで、根拠
のない恐れを感じたりしているのが見られたものである”(272p)
→「空想的な希望」や「根拠のない恐れ」という表現に、人間の感覚がいつの時代も変わらないものだという感想を抱きました。

5.ペストが終息の兆しを見せ始めた時の人々の反応。
“しかし、総体において感染はあらゆる方面で減退し、県の広報も、まず最初は遠慮がちのひそかな希望を芽生えさせたものであったが、ついには公衆の心に、勝利が確保され、病疫はその陣地を放棄したのだという確信を固めさせるに至った。
 実をいえば、これが勝利というものであるかどうか、きわめてしまうことは困難であった。人々は単に、病疫が、やって来たと同じようにして去って行くらしいことを、確認するより仕方がなかったのである”(399p)
→大きな天災が過ぎ去った時、人間は喜ぶよりも呆然としてしまうものなのかもしれません。

さて、本書は複雑な構造で、途中から登場人物の名前と職業をメモしながら読み進める必要がありました。
また、物語は医師ベルナール・リウーを主人公に始まりますが、途中に別の物語(伝記)が3つ挿入されます。
別の物語になった時点で章の区切りはなく、これも読み進む上で混乱しました。
しかし、そんな難点がありながら著者の訴えたい人間の尊厳とは何かということが伝わり、この本が世界から賞賛されたのか分かった気がしました。

最後に、登場人物の一人、市民のパヌルーと医師リウーの会話を引用します。
“パヌルーはリウーのそばへ腰を下ろした。彼は感動した様子であった。
 「そうです」と、彼はいった。「確かに、あなたもまた人類の救済のために働いていられるのです」
 リウーはしいてほほえもうとした。
 「人類の救済なんて、大袈裟すぎる言葉ですよ、僕には。僕はそんな大それたことは考えていません。
  人間の健康ということが、僕の関心の対象なんです。まず第一に健康です」”(323p)
自分の健康が、第一線で頑張る医療関係者たちの奮闘によって守られていることを改めて思い起こしました。

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カミュ(Albert Camus)1913-1960
アルジェリア生れ。フランス人入植者の父が幼児に戦死。不自由な子供時代を送る。
高等中学の師の影響で文学に目覚める。アルジェリア大学卒業後、新聞記者となり、第二次大戦時は反戦記事を書き活躍。
またアマチュア劇団の活動に情熱を注ぐ。
1942年『異邦人』が絶賛され、『ペスト』『カリギュラ』で地位を固めるが、'51年『反抗的人間』を巡りサルトルと論争し、次第に孤立。
以後、持病の肺病と戦いつつ、『転落』等を発表。'60年1月パリ近郊において交通事故で死亡。
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