非色

「金持ちは貧乏人を軽んじ、頭のいい者は悪い人間をバカにし、逼塞して暮らす人は昔の系図を広げて世間の成り上がり者を罵倒する。要領の悪い男は妻子を薄っぺらだと言い、美人は不器量者を憐み、インテリは学歴のない者を軽蔑する。人間は誰でも自分より何らかの形で以下のものを設定しそれによって自分はより優れていると思いたいのではないか。それがなければ落ち着かない。それがなければ生きていけないのではないか。」
　　　　　有吉佐和子著「非色」より


1/29(金）NHKラジオ第一「高橋源一郎の飛ぶ教室」で、有吉佐和子の「非色」が紹介された。この小説の主題は《差別》である。

「女性の理事が多い会議は長引く。」
森喜朗(83）元首相・東京オリパラ組織委員会会長の女性蔑視発言。その場にいた山下泰裕も発言に違和感を持ったというが制止しなかった。きっと差別されてる側の女性もその場にいただろうが、殆どがあぁまたか今に始まったことじゃない、とスルーした。しかしそれが問題なのだ、と海外メディアが指摘。あとはそれに乗じて自民党批判しようとする野党のお決まりの猛抗議。

根本的に差別主義者とは、なんでも属性で人を分ける人たちだ。男、女という属性でモノを言っている。女だからこう、男だからこう、と決めつけるわけだ。
大人と子供という属性も同じ。今の若い者は、年寄りは。。黒人は、白人は、日本人は、欧米人は、、も同じこと。

ちゃっちゃと会を進めたいときに質問や意見をいう人はいる。そのせいで会議が長引く。早く終わりたいのに。社内会議やPTAや株主総会でもね。その意見や質問が重要か否かは自分の立場によって違う。会議を長引かせる人はいわゆるめんどくさい人。でもそれは性別に関係ない。人種とも関係ない。
「民主主義は時間がかかる」とよく言われるが、これは単に老害おやじの失言ではすまない根深い問題を提起することとなり、批判は世界中にひろがり大炎上。


【人を分かつものは色に非ず】

「非色」（1964）　有吉佐和子　33歳の時の作品
主人公　笑子　沖縄に生まれる。少女のときは学徒報国隊　戦後GHQ支配下で米軍兵士トムと出会い結婚する。黒人（ニグロ）との結婚に両親は大反対　笑子の娘メアリーは日本でニグロとのあいの子として差別を受ける。
差別の国・閉鎖的封建的な日本からのがれ自由の国アメリカへ。しかしそこでもまた強烈が差別がある。WASPとユダヤ人、ユダヤ人とイタリア人、イタリア人と黒人、黒人とプエルトリコ人、ぞれぞれに差別し合う。

学校でメアリーが読んだ作文が秀逸。自分の親のルーツ、日本人と黒人そして自分はそのハーフのアメリカ人、自分は何者か。いろんなルーツをミックスした民族がアメリカ人を形成している。今後も世界中で何世代もがミックスされていったらやがて肌色や人種で区別できなくなり融和に向かうのではないか。というようなことが書かれている。

小説の最後で、笑子はポトマック河畔の桜をみて、日本の桜とあまりにも違うことに驚く。日本の桜ソメイヨシノがうっすらしたピンクで、主張せずはかなげなのに対し、アメリカの桜は色も濃く咲き方も猛々しい。それを見てある友人は「風土の影響を受けて変質したのだよ」と言い、またある友人は「私も最初はびっくりしたものよ。でもだんだん慣れてきて、この桜もいいものだなぁって思えるようになった」という。
それを受けて自分はもはや日本人ではない、ニグロなのだと自覚する。自分が日本人であるがゆえに差別されているという意識に縛られるのだ。そんな閉ざされた意識から脱して自分が生きている場所が自分のルーツなのだと考えようと決意する。

話は脱線するが、
先日、スピルバーグ監督の「リンカーン」（2016？）を観た。主演のダニエル・デイ・ルイスは本作で史上初3度目のオスカーを受賞。しかしこの映画を最後に役者を引退すると表明している。彼の名演技（特殊メイクもすごかったが）も堪能したが、リンカーンはいわゆる恐妻家だったことで有名でそのすさまじい悪妻を演じたサリー・フィールドも上手かった。彼女もオスカー女優。
同じくスピルバーグ監督の「シンドラーのリスト」もいい映画だった。戦争で殺し合うことの愚かさとレイシズムに対する力強いメッセージが込められており、命をかけて万人の人権平等を守ろうとした人たちの歴史が描かれている。

有吉佐和子といえば70年代に「恍惚の人」「複合汚染」「三婆」などが大ヒットちょっと古い作家と思っていたけれど、現代の社会問題を50年も先取りしてはったんやな。この人種差別小説が書かれたのは1964年。33歳のとき。キング牧師殺害の4年前。世の中ぜんぜん変わってへんってことやね。ついでにいうと、有吉さんは53歳の若さで亡くなっている。