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2020年07月29日10:17

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風に立つライオン

さだまさしの企画原案による2015年作の日本映画である。大沢たかおが出てくるので、仁先生がアフリカにやってきたのかと思った。ケニアの風土病研究施設に赴任した島田航一郎医師(大沢たかお)。彼が1ヶ月の期限付きでロキチョキオの病院に向かう。ここにやってくる患者は、スーダンの内戦で傷ついた傷病兵(ほとんどは年端も行かぬ少年)だった。こどもらに地雷の埋まっている土地を歩かせ、地雷を爆発させることで、それを除去するという、人道上許しがたい行為が日常的に行われている。脚や腕を切断せねば命にかかわるといって、非情な処置が行われる。目が醒めたら、腕を失くし、脚を失くしたこどもになっている。こんなこどもたちに何を言えばいいのだろう。
ロキチョキオの厳しい現実に笑顔まで失くしてしまい、一旦ケニアに戻った航一郎だったが、何を思ったか再びロキチョキオへ向かうことを自ら志願。新しく赴任した看護師・草野和歌子(石原さとみ)は、ある夜、航一郎が「ガンバレ〜ッ!」と外で叫んでいるのを見た。真に迫っていて、たまらないものを感じた。
その少年兵の名はンドゥングと言った。寡黙で、心に深傷を負ったこどもだった。絵を描かせたら施設の誰よりも上手い。航一郎は彼を「ミケ(ミケランジェロの略)」と呼んだ。彼は射撃の腕を自慢し、人を撃つのが得意だと誇らしげに言った。絵など下らないと言ったが、それは彼の本音ではないような気がした。かたくなな彼を諭す航一郎と和歌子。時間をかけて諭したのが功を奏したのか、クリスマスに航一郎が贈った玩具の銃。ミケはそれを焚き火のなかへ抛った。ぼくは9人のひとびとを殺したという彼に、ならば10人の命を救いなさい、医師になって。そう言って聴診器をミケに贈った航一郎だった。ぼくみたいのでも医者になれるかな? なれるさ。俺が協力する。ミケの心が洗われた場面だった。
アフリカでの場面と、国においてきた恋人であり女医の秋島貴子(真木よう子)のいる長崎・五島列島の診療所の場面が互い違いに織り込まれるが、ここ、最初は多少違和感があった。が、豪雨による地滑りに彼女が巻き込まれるシーンは、ただごとでないリアリティを感じた。ここは真木よう子の眼の色が真に迫っていてよかった。
運命の日。その日は僻地にいる部族の診察に行く日だった。そこは激しい戦地でもあった。航一郎はわかっていたはずである。自分の向かう場所に何が起きているのか。運転手も今日はダメだと言った。どうあっても行かないほうがいい。けれどもその不吉な予感をはねのけるように、行かなくてはならないんだと、向かい風に抗うように向かってゆく航一郎だった。ちょうど暗殺者の魔の手が自分に及んでいると、気づきながら逃げなかった坂本龍馬のように。

ラスト。東日本大震災の地にはるばるやって来たのは、晴れて医師となったミケだった(自身ミケランジェロ・コウイチロウ・ンドゥングと名乗った)。家族をなくしたらしい少年に航一郎の口癖「ダイジョブ」と言って聞かせるミケ。被災地に「ガンバレ!」と囁く彼の姿は感動的だった。

いくぶんヒロイックに主人公を描いているようでもあるが、大沢たかおはナチュラルに魅力的に演じている。
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