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2020年04月30日17:53

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死者とはだれか

 仕事関係でオキャクサンに渡す品について、業者さんに電話した。
 
 うちも新型コロナ関係で仕事に影響は出ている。4月は自治体に出す書類とか決算作業があるから、そこそこ忙しくはあるけどさ。

「こういう状態なんで、今年はもう注文しないのも選択肢か、という話すら出ていましてね」

 決して意地悪で言ったわけではない。現実をそのまま伝えただけだ。でも、東京の会社である先方の営業さんは慌てた声で言った。

 こちらとしても、そちらの仕事がなくなってしまうのは困る。通常なら、会社も自粛、時短を言われて製造に通常よりも時間がかかるのだけれど、見切りで在庫確保するなどして対応するので、なしにするという判断は待ってほしい。

ということだった。

 個人的には知らないけど、カイシャとしてのつきあいは長い。

 繰り返すが、決して意地悪とか交渉するために言ったつもりはなかった。だから了解して、電話を切った。

「やっぱり、どこもたいへんだよねぇ」

 帰宅した後、妻にそんな話をした。

「今、オキャクサンのご家庭も収入減ったりしてたいへんなんじゃない。その品は、買わなくてもいいくらいの判断があってもいいと思うけど・・・」

 妻に悪気がないことはわかっている。むしろ、妻は顔も知らないオキャクサンのことを慮っての言葉であることが察せられる。

 でもなんだか、俺自身の仕事が否定されたような気がして、どんよりした気持ちになった。

 休日の朝、妻がネットでニュースをみていて、あるホテルの事実上倒産というニュースをみつけた。

「あららららら・・・。あそこ好きだったのに」
 結婚してから、妻の地元にもどったとき、何度か泊ったこともあるホテルの話だった。

 落ち着いた素敵なホテルだった。騒ぎがおさまった後で復活してほしいところだけど、どうなるだろう。

 休日、決して機嫌が悪かったわけじゃないんだけど、ひどく気持ちが重かった。

 不安な状況ばかり聞くからかな。気持ちがネガティブになってしまうところはあるのだろう。

 誰が悪いとも言えないのに、自分が責められているような気持ちすらわいてくる。

 子どもと遊びながら、合間の時間にタブレットを開いて、つらつらと本を読む。

 内田樹の『街場の天皇論』。

 天皇論というタイトルなんだけど、いつものようにブログや他の媒体で発表された文章があれこれ集められている。

 その中に、西郷隆盛について書かれたものがあった。

 渡辺京二という人は知らなかったけれど、その人の『維新の夢』をいう本を読んでの話だそうな。

 西郷は二回目の流刑まで、思想的には卓越したところのない人物だったという。

「西郷は同志を殺された人である。第一回流島のさいは月照を殺され、第二回には有馬新七を殺された。」

 死者はこれに終わらず、西郷は同志朋友を殺され、同志朋友と信じた人たちによって罪に落とされた。もう生者たちに忠義立てなどしない。自分が忠義立てするのは、死者たちに対してだけだと、西郷は知人に書き送った書簡で言外に宣言する。

 戊辰のいくさのあと、沖永良部島に戻るつもりの西郷を、島の老婆から叱られるという話があるのだそうな。二度も島へ流されるとは何事か、と。そして西郷は涙を流してあやまった。

 西郷が涙を流してあやまったのはなぜか。

 西郷の中で、老婆に責められるながら、朋友を死なしめて生き残っている自分がみえたのではないか。そこで、死者となった友をとむらうために、今、目の前で生きている老婆たち、民のために生きようと思えた。

 死んだ友と生きている民が西郷の中で結びつき、そこで明治維新という革命をなしとげた西郷隆盛が生まれたというのが渡辺氏の仮説であり、それを読んだ内田氏の説明であると俺は解釈した。

 そのあたりを読んで、なぜか気持ちが晴れた気がした。

 どんよりした気分が、明るくなった。

 子どもが遊んでいるのを横目にしつつ、そのまま本を読みつづけ、夜には最後まで読み終えた。西郷隆盛の話は、その章だけだったけど。

 なぜだかはわからない。

 この本で西郷隆盛のエピソードを読むあたりまで、俺はなんというか自分を死者の側に勘定していたような気がする。

 西郷隆盛のエピソードを読んでから、生者の側とつながれたような気がした。

 なんか、大丈夫じゃない?やっていけるんじゃない?っていうような素朴な元気が出てきたんだよね。

 一応、断っておくと、べつに俺自身が失業してるわけじゃないし、シャインさんたちに給料を払う見通しがつかなくて首をくくんなくちゃいけないとか、業者さんへの支払いに不安があるとか、なにかシビアな状況にあるわけじゃない。

 フリーランスとか、自営業の方とか、ほんとうに悩んでいる人からみたら、楽しやがって、というくらいなものなんじゃないか、と思うくらいだ。

 普通に仕事しているだけだけど今は、普通に仕事ができるだけでも幸せだと思うもの。

 それでも、気がふさぐことはある。

 それが上に書いたエピソードを読んで、元気になった。

 不思議だよね。

 死者を思う大切さ、なのかなぁ。

 いや、死者って誰だよ。そもそも、勝手な印象としては読むまで、俺は俺自身をそちら側にいれてたんじゃないのか。

 なんとなくうつだった、というだけのことで、あれこれ整理はつかないんだけどさ。

 西郷隆盛って、知ってるようで知らないから、いろいろ読んでみたくなったな。

 本を読むって、けっこう元気になるね。
 
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