mixiユーザー(id:411965)

2020年04月20日00:27

244 view

「輝きの七日間」山本弘 小説

『輝きの七日間』山本弘
<ストーリー>
 ペテルギウスの超新星化によって発せられた未知の粒子オリオノンが世界中に降り注ぐことによって世界中の人々の頭脳が聡明化する事態が起こる。それによって人々は自分たちが行なっている、あるいは無視している愚行に覚醒するようになる・・・
<コメント>
 文明人は野蛮人のフリをすることが出来るが、野蛮人は文明人に扮することは出来ない、と言ったのは『スタートレック』のスポックだけれども、まさに“人類と言う視点から社会問題を見つめる”SF作家にしか書けない問題作。普通の環境問題研究家ではここまでのリーダビリティはないし、グレタさんのように感動を与える反面、あまりに正面からぶつかったために反感を引き起こすようなこともない。

 “人類が全部聡明になる”というイベントの小説は簡単なようで実はものすごく難しいことが読んでいるうちにグサグサと伝わってくる。これはある意味、パニック小説の全く逆バージョンでることが読んでいるうちに判る。

 世界規模パニック小説がそうであるように、物語は地球上の様々な人々や事件を平行して描いていく。例えばシエラレオネの医療支援施設でハリウッド女優のリビーがゲリラによってトラウマを負った少年と出会いゲリラの投降に立ち会うことになるし、ブラジルのサンパウロでは富豪の一人娘アリスはストリート・チルドレンの少女達と触れ合う。モスクワの警官たちは隠された殺人事件に気づいていき、東京では詐欺師と不倫した女性がその正体に気づきながらも彼に惹かれるなどその他地球上の様々な人々が聡明化現象によってこれまでと違った自分に向き合う、いや向き合わされるようになるのである。

 まあ、聡明化したわけだから大きな事件はほとんど起こらないし、起こりようがない。だからと言ってつまらないわけではなく、聡明化したことによってこれまで考えなかったことが起こり得るという事態はまさにセンスオブワンダーとも言える。それこそ「こんな馬鹿馬鹿しいことを今まで信じていたのか!」と自分たちが気付いたり、子供達に教えられるというショックはある種のカタルシスでもある。

 そしてここで語られる環境問題は10年前の作品であるにも関わらず現在も全く省みられていないことに愕然とする。白い鯨を追う狂気に満ちた船長を描いた『白鯨』が設定はエンターティメントなのに、文学として認められているのはそこに詳細に盛り込まれた当時の状況を描くことでかつては教養文学として読まれたというのと同様にこの『輝きの七日間』もペテルギウスの超新星化というSF設定を使った環境問題と戦争問題を正面から捉えた教養文学と言ってもいいかもしれない。

 問題はこれほどの素晴らしい作品が単行本化されないこと。「SFマガジン」の2011年から2012年にかけて連載された作品で、マイミクに「出版予定に入っていながら出版されなかった山本弘さんの作品があるらしいぞ」と言われて気がついた。単行本化されなかった原因をここで書くのは適当でないかもしれないし、とんでもなく文章が長くなりそうな気がするのであえて別の日に書くけれども、作者の勉強量や資料なども考えるとこんなことで単行本化されないのはとても惜しいと思う。


7 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2020年04月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930