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2020年02月03日15:26

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とある駅頭にて 天満関のことなど

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 ターミナルというほどではないが、行き交う列車の本数がまあまああるような駅だった。
 コンコースを歩いてると、TVのモニターにちょっと気になる映像があったので、休憩方々それを見ようと思った。ちょうどそれを仰ぎ見るような場所に、ベンチ式というか三連式のシートがあったので、その右端に座った。その三連式シートは、数十センチ離れた右側に同様に設置されていて、その左端にはいかにも旅行中ですという風情の三〇代、ないしは四〇代はじめの女性が座っていた。
 腰をおろすや否や、五〇代とおぼしき、出張中ですを絵に描いたようなサラリーマンが大股でやってきて、
「おまえ、どうしてそこに座るんだ」
 と、気色ばんだ口調で問いかけてきた。その後ろから、その部下と思われる男が、
「先輩、いいじゃないですか。もう行きましょうよ」
 と、とめるのだが、五〇代の方はそれを振り払うようにどんどん詰め寄ってくる。

 そのとき、右側にいた女性がいきなり、
「あんたたち、いい加減にしなさい。そんなことで〇〇さんに顔向けができるとでも思っているの」
 と、鋭く叱責した。
 「〇〇さん」というところはよく聞き取れなかったのだが、それが絡んできた男性に及ぼした効果はてきめんで、彼は部下と思われる若い方に、
「おい、行くぞ」
 といいながらも、私を睨みつけたままその場を去っていった。

 「どうもありがとうございました」
 と、礼をいうと、
「いいんですよ。私もあいつらに北海道からずっ〜と絡まれて辟易していたんですから」
「北海道からいらっしゃったのですか」
「そうです。天満山を捜しにね」
「天満山というと?」
「まあ、しらばっくれて、ほら、あの関取ですよ。ところであなたは、彼の居場所を教えてくれるために私の隣にお越しになったのでしょう」
「あ、いや、そんなわけでは。たまたまこのTVを見ようと思って」
 と、視線を上げて愕然とした。そこにはTVはおろか、ここにかけて見るべきようなものなどは何もなかった。

 「なんでそんな意地悪をおっしゃるの。さあ、早く天満関の居場所を教えてくださいな」
 自分の記憶のなかをまさぐってみる。
「天満山?天満関?・・・・」
 なんのイメージも湧いてこない。忘れてしまったけど、どこかで関わりのあった人なのだろうか。
「じれったいわねぇ。ほら、あ・の・天満・ぜ〜・き〜・の〜〜・こ・と〜〜〜・で〜〜〜〜〜」
 なんだか、彼女の声がテープの回転数が落ちるように間延びし、それにつれてどんどん太くなったような気がして、その方に視線をやると、そこには、紋付きと袴、そして海老茶色の羽織をまとった天満山その人が、艷然と微笑みながら私を見つめていた。

                    (「夢六話」より 其之壱










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