火が好きである。物が燃えるのを面白がるのだ。東京住いだから風呂は普通銭湯だが、幾度か引越しを経験し、風呂のある家に越した。百�里麓�他共に認める無精者で、風呂を自分で沸かすような事はしない。が、家の者が焚き始め、席を外している風呂の燃え具合を見る事はある。煙突からの煙の出具合が芳しくない。もっと燃やそうと石炭をくべる。くべているうちに煙突から黒煙が出だす。おっこれは面白いとどんどんくべる。仕舞には竈の中にぎゅうぎゅうに石炭を詰め込んで、どうなるか見てみた。火勢の為に煙突が裂けんばかりに黒煙が物々しく上がったなと思っていると、竈からもごうごうという音がし始め、黒煙に混じって赤い焔が煙突の先から勢いよく噴き出した。おお大変だと思っていたら、家の者が帰って来た。もはや風呂はぐらぐらと煮え立っている。こうなっては誰も入れない。この熱湯、棄てるのも勿体ない。妻と使用人は、てんやわんやの大騒ぎである。
以上の話、「百鬼園先生言行録」に出てくるが、フィクションの匂いがしない。恐らく事実だろう。
箏をやったり鉄道マニアだったり、百�里浪燭�と凝り性だが、少年時代から俳句に凝った。小説や随筆より、むしろ俳句歴の方が長く、中学初年の頃にはとうに始めていた。生家の造り酒屋、志保屋で使用人の中にやる者がいて、その影響を受けたのだろう。六高時代、二年の時に俳人の志田素琴という国語の先生に教わった。俳句に夢中になって、百間という俳号を名乗りはじめたのはその頃で、これは百間川という、岡山の城下を洪水から救うための、放水路として使われた水の無い川の名前である。
そうは言うものの、彼の百鬼園俳句帖にはこれといって目ぼしい句は見当たらない。私の目を惹いたものに、
猫の子の尻から出づる炬燵哉 百��
がある。が、自選の百鬼園俳句帖にはない。百�遼椰佑老酳打亢腓隼廚辰燭里�もしれない。
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