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2019年09月01日19:45

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協力と裏切りの生命進化史[読書日記741]

題名:協力と裏切りの生命進化史
著者:市橋 伯一(いちはし・のりかず)
出版:光文社新書
価格:820円+税(2019年3月 初版第1刷発行)
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生物の起源と進化を研究している市橋伯一さんによる生命進化史です。
「生命」や「進化」については、NHKスペシャルなどの特集でよく見ており、興味があったので手に取りました。

タイトルにある“協力”という言葉の意味は、生命進化に共通した「協力」のパターンで、第2章で次のように説明されています。
“まとめると、生命進化には次の示す5段階の協力関係の進化がありました。
 1.DNA、RNA、タンパク質、脂質膜などの分子間の協力による細菌の進化
 2.細胞内に取り込んだ細菌と取り込まれた細菌の協力による真核細胞の進化
 3.真核細胞どうしの協力による多細胞生物の進化
 4.血縁のある多細胞生物間の協力による社会性の進化
 5.血縁のない多細胞生物間の協力による社会性の進化”(145p)
項2の「真核細胞」という言葉(定義)は、本書で初めて知りました。

目次を紹介します。
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 まえがき
 第1章 生命とは何か
 第2章 単細胞生物からヒトへと至る協力の歴史
 第3章 協力を維持するしくみ
 第4章 私たちは何ものなのか
 あとがき

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各章から、印象に残ったところを引用しましょう。
⇒は私の感想です。

【第1章 生命とは何か】《生命活動の節度のなさ》から、もともとは毒だった酸素をエネルギーに使う生命(ヒトなど)の話。
“もともと酸素は、光合成の際に出てくる副産物だったといわれています。しかも酸素は化学反応を起こしやすいために多くの生物にとっては毒でした。
 酸素を発生する光合成細菌は、30億年前に地球規模の環境汚染を行っていたことになります。
 しかし生物とはしたたかなもので、酸素が溜まってくると今度は酸素を使ってエネルギーを取り出す方法を編み出し、逆に酸素がないと死んでしまうような(私たちのような)生物が増えるようになりました。
 その結果、現在の地球の酸素濃度は20%の絶妙な点で維持されています”(15p)

【第1章 生命とは何か】《進化とは》には、ペットボトルを分解する細菌の話も紹介されています。
“最近ペットボトルの材料であるポリエチレンテレフタレート(PET)を分解して栄養源として使っている細菌が見つかりました。
 大阪府堺市で見つかったのでその名もイデオネラ・サカイエンシスです。PETは人工的に合成された物質で1940年以前には地球上にほとんど存在していませんでした。
 したがって、この細菌はここ80年で新たにPETを分解する能力を進化させたということになります”(26p)

【第2章 単細胞生物からヒトへと至る協力の歴史】《ストレスに強い酵母》から、酒造りに欠かせない酵母の話。
“私たちの身近にいる単細胞の真核生物としては、例えば酵母(イースト)がいます。酵母とは1種類の生物を指す名前ではなく、カビの仲間の中でも単細胞のものの総称です。
 その名のとおり発酵の母となるような生き物です。
 酵母には、例えばパン酵母、ワイン酵母、清酒酵母などがいます。パン酵母は小麦粉のでんぷんを分解して、二酸化炭素を発生させ、パンをふっくらさせることができます。
 ワイン酵母はブドウの糖を分解してアルコールを合成し、ワインを造ることができます。
 清酒酵母も、米から他の菌が作った糖をアルコールに変えます。このアルコール合成を中途半端なところで止めて糖を残せば甘口になり、完全に進めて糖を残さなければ辛口になります”(97p)
⇒清酒(日本酒)の甘口と辛口の差をどのように造るのか、初めて知りました。

【第3章 協力を維持するしくみ】《罰で裏切り者を抑える》から、ヒト社会における協力を維持するしくみの話。
2つの文章を引用します。
“日本で近年まで主として狩猟採集生活を送っていたアイヌの社会でも(怠け者を認めない傾向は)同じです。
 アイヌという言葉はもともと『信頼できる仲間』を指す言葉で、協力しない怠け者はウェンベ(悪いやつ)と呼ばれて差別的な扱いを受けていました”(158p)

“私たちヒトの心には、怠け者や利己的な者を憎み、公平さを尊ぶような心があるように見えます。そしてその心が、社会における裏切り者の出現を抑えているようです”(159p)

【第4章 私たちは何ものなのか】《ヒトを継ぐのは誰だ?》から、ヒトの次の生命体(?)について。
“(ヒトが高度なコミュニケーション能力と、協力を可能にする心のおかげで繁栄したことを)考えると、次の段階で協力関係を身につけた生物は私たちヒトの子孫ではないかもしれません。
 今は気にもとめていないものが、将来人類を地球資源を取り合い、なんだったらヒトを押しのけて発展するというようなことになるのかもしれません。現状で一番ありそうに思うのは、人工知能などコンピュータープログラムでしょうか”(222p)

著者は本書が初めての一般向け著作だそうです。
複雑な内容をたとえ話やイラストを駆使して分かりやすく説明されており、ぜひ次の本も書いて頂きたいと思いました。

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市橋 伯一(いちはし・のりかず)
1978年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科先進科学研究機構教授。専門は進化生物学。
2006年東京大学大学院博士課程修了(薬学)。
JST ERATO研究員、大阪大学大学院情報科学研究科准教授を経て、2019年より現職。
試験管内で生命を模した分子システムを構築することにより、生命の起源と進化を理解しようとしている。
遺伝情報を持ち、進化する分子複製システムを世界で初めて構築した。

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